連載
» 2009年12月15日 00時00分 公開

クラウドHot Topics(1):クラウドサービスとは何か (2/3)

[三木泉,@IT]

クラウドはIaaSとPaaSで初めて意味を持つ

 ASPやSaaSと呼ばれてきたアプリケーションサービスは、上記のうちほとんどの条件を自然に満たしてしまう。「それではわざわざクラウドという言葉を使うまでもないのではないか」という反応が聞こえてきそうだ。この点でいえば、「クラウド」「クラウドコンピューティング」「クラウドサービス」という言葉は、IaaSやPaaSが台頭してきたことによって初めて重要性を帯びるようになったといえる。

 数年前までは、ASPを使うか、それとも自前でコンピュータを用意し、OSをインストールし、パッケージアプリケーションあるいはカスタム開発のプログラムをこの上で動かすか、の二者択一の世界だった。 ASPで提供されていないアプリケーションを使いたい、あるいは自社開発のアプリケーションを使いたい場合は、ハードウェア一式を調達して、自社で運用するしかなかった。

 しかし、IaaSやPaaSの登場により、コンピュータやOSを(場合によってはパッケージアプリケーションも)調達してインストールするプロセスを、完全に省略しながら、自分の好きなアプリケーションを運用できるという新たな選択肢が生まれた。

 もとより、コンピュータの設定やOSのインストールは、趣味である場合を除けば、喜んでやりたい作業ではない。しかも、企業ではコンピュータなどの調達にかかわる稟議のプロセスが面倒で、時間が掛かる。そしてもちろん、ハードウェア調達コストが大きな負担となる。IaaSやPaaSを使えば、調達コスト、そして運用にかかわるコストや手間を省くことができる。

 IaaSとPaaSには、こうした金銭、時間、労力の問題を大幅に軽減してくれる可能性のあるサービスとしての期待が集まっている。

 IaaSは、サーバ仮想化技術によって初めて実現したサービスだ。サーバ仮想化技術により、物理的なサーバ機を抽象化して「仮想マシン」というソフトウェアのかたまりとして扱えるようになった。この仮想マシンを貸し出すサービスがIaaSだ。

*クラウドサービスの分類はこの表のとおりだが、HaaSはハードウェアそのものの貸し出しという意味合いがある。Amazon EC2などはIaaSと呼ぶのが適切だ

 サーバ仮想化技術は、サービスの提供者と利用者の双方に、従来は手に入れられなかったような各種のメリットをもたらした。サーバホスティングにおけるVPSサービスとの比較で考えれば分かりやすい。

 サーバ仮想化技術を使ったIaaSでは、1台のサーバ機の上で、複数の仮想マシンを動かせる。VPSも1台のサーバ機で、サービスを複数の利用者に提供できる。しかし、サーバ仮想化技術の場合、仮想マシンにCPUやメモリのスペックを指定できる。指定したからといって、自動的に保証されるわけではない。それでも、VPSに比べれば大きな違いである。

 仮想マシンに対するCPUやメモリのスペックの指定は、サービス提供者が自動的な負荷分散(VMware vSphere 4でいえばDRS、Hyper-VでいえばPROが実現しているような機能)を実施している場合に生きてくる。一般的な共有ホスティングでは、物理的なサーバを共有しているほかのユーザーが大きな負荷を掛けると、その影響を直接受けてしまう。しかし、自動的な負荷分散機能があれば、各物理サーバの状態を監視しておき、負荷が大きくなると、空きリソースの大きい別の物理サーバへ、一部の仮想マシンを自動的に移動できる。このような仕組みにより、ユーザーは、ITリソースをVPSより安定的に利用できるようになる。

 また、VPSでは、時に物理サーバの切り替え作業や、ハードウェアの障害対応およびメンテナンスによるサービス停止が発生する。一方、サーバ仮想化技術を使ったIaaSでは、サービスの提供者も利用者も、各仮想マシンがどの物理サーバ上で動いているかを基本的には気にしなくていい。

 ハードウェアのメンテナンスは、対象のサーバ機上で稼働している仮想マシンをすべてほかのサーバ機に移動してしまえば、サービス停止ゼロで行える。

 あるサーバ機に物理的な障害が発生すると、(クラスタリングなどをしていない場合)その上で動いていた仮想マシンはダウンしてしまう。それでもほかのサーバ機で再起動できるようになっていれば、ダウン時間は最小限に抑えられる。こうした場合に、自分の仮想マシンが自動的に再起動されることがうれしいかどうかは、利用者やアプリケーションによって異なるだろうが、仮想マシンの自動的な再起動は、多くの仮想化プラットフォームに実装されている機能だ。

 IaaS、PaaS、SaaSは、相互に関連し合う側面を持っている。SaaSが必ずPaaSやIaaSの上に作られるとか、PaaSが必ずIaaSの上に作られるわけではない。しかし、IaaSはPaaSやSaaSの土台になれる。

 例えば、マイクロソフトのWindows Azureは、IaaS上にPaaSを構築したサービスだ。一方、Amazon EC2でセルフサービスポータルを用い、例えばCRMソフトウェアを導入済みの仮想マシンテンプレートを選んで自分用のインスタンスを作成し、起動すれば、「SaaS的」な利用環境が実現できる。ただし、アプリケーションあるいはアプリケーション・プラットフォームそのものの運用やメンテナンスを利用者側が行うのであれば、これを「SaaS」「PaaS」と呼ぶことはできない。

 Amazon EC2上で、多数の事業者がWebサービスやSaaSを提供し始めている。また、Force.com上にITサービスを構築する例も増えてきている。このように、IaaSやPaaSの利用は、まずWebサービスやSaaSを提供する事業者/用途で広がりを見せている。

 WebサービスやSaaSを提供する事業者にとって、サービス提供インフラをどうするかは大きな課題だ。サービスに対する需要が予測できない中で、無駄な投資はできるだけ避けたい。自分の運営するサービスへのリクエストの増減をなぞるように、ITインフラの利用を自動的あるいは半自動的に増減でき、料金支払いも、利用したITリソースの分量だけで済むようなIaaSやSaaSの存在は、技術はあっても資金に乏しい者に、大きなビジネスチャンスを与えてくれる。需要の季節変動が大きいWebサービスにも適している。

 使いたいときに即座に利用を開始でき、やめたいときにも即座に利用を停止できるようなIaaS/PaaSサービスは、アプリケーション開発者にもすでに広く愛用されている。アプリケーションの開発やテストでは、場合によって多数のコンピュータが必要になる。開発が終われば、用済みになってしまうケースも少なくない。IaaS/PaaSは、こうした一時的なコンピューティングニーズにも適している。

 このようにクラウドサービスは、アプリケーション開発やWebサービスでは、すでに自然に浸透してきている。今後は一般企業においても、まず期間限定キャンペーン用Webサイトの運用などで利用され、徐々に業者間取引、企業グループ内、社内のシステムでの利用が進むものと考えられる。

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