「冬季うつ」を防ぐ――賢い冬の過ごし方心の健康を保つために(17)(2/2 ページ)

» 2010年01月20日 00時00分 公開
[石川賀奈美ピースマインド]
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いますぐ始められる、日常生活の工夫

(3)食事の工夫 ――たんぱく質を取る

 冬季うつに限らずうつ病の起こる原因として、「神経伝達物質であるセロトニン不足の影響があるのではないか」といわれています。セロトニンを増やすには、上記のように光に当たることや軽い運動をすることなどが挙げられますが、食事でも増やすことができます。

 セロトニンは、食物に含まれる必須アミノ酸の一種である「トリプトファン」から作られます。トリプトファンなどのアミノ酸は体内では作ることができないので、食事から取らなければなりません。 

 トリプトファンは、動物性たんぱく質の多い食品――肉、魚などに含まれています。また、ひまわりの種にも、非常に多くのトリプトファンが含まれるといわれています。

 トリプトファンを脳に運ぶ役割をするのは「ブドウ糖」です。つまり、炭水化物や甘い物を取らないと、トリプトファンが脳に届かず、セロトニンを作ることができません。ダイエットなどで甘い物を制限しすぎるのは、うつ症状にはよくないといえそうです。

 こうしたことをお話ししたところ、Wさんは「そういえばオフィスに一度入ってしまうとほとんど外に出ません。週末は昼夜逆転に近い生活で、家でゲームをしたりすることが多くて日光にも当たらないですね。食生活も偏っていました」と日常生活を振り返りました。会社でも天気のいい日は、ランチタイムにオフィスから外に出るように心掛けてみるとのことでした。

冬季うつは緯度に関係がある?

 冬季うつは、緯度が高いヨーロッパの国で多いといわれています。「緯度と日照時間に関係があるのではないか」という仮説があります。

 日本国内の研究では、うつ病で外来を訪れた初診患者の中で、「冬季うつ」がどの程度含まれていたかを緯度別にまとめたものがあります。それによると秋田県が多く、札幌市が次いで高いという結果が出ています(坂元薫「季節性感情障害の診断と治療」:東京女子医科大学精神医学 『日本医事新報』 No.3946、1999年)。

 とはいえ、季節性のうつ病と光療法については実証的な研究によって相関性が認められているものの、発症のメカニズムはまだ研究段階であるといえるでしょう。

 そもそもうつ病は、その原因が解明されていない病気です。治療法は抗うつ薬を中心とした薬物療法が効果的であるとされているものの、まだ手探り状態なのです。「SEのための認知療法――認知の癖を知ってうつ予防」「心配症は優秀な人? SEのための認知行動療法・実践編」でご紹介した認知行動療法も効果の検証はされていますが、なぜ認知行動療法が効果的なのかについては、脳科学との協働作業による研究を待たなければならないでしょう。

 ということで、まずは日常でできることから始めましょう。皆さんも、寒さに負けずに朝には窓を開けて深呼吸をしたり、ランチの帰りに近くの公園に出掛けてみたり、ティータイムにはホットミルクにお砂糖を入れたりするなど、工夫しながら冬を乗り切っていただけたらと思います。

※事例は普段の相談活動をアレンジしたものです。個人のプライバシーに配慮し、設定や状況は実際とは変えてあります。


参考文献

▼渡辺昌祐 『現代のうつ病 治療の実際とわたしの「処方箋」』主婦の友社、2005年。

▼高田明和 『心の病気はなぜ起こるか』朝日新聞社、2001年。

▼加藤忠史『うつ病の脳科学 精神科医療の未来を切り拓く』幻冬舎、2009年。


著者紹介

ピースマインド 石川賀奈美

臨床心理士、産業カウンセラー。米国フォーカシング・インスティチュート認定フォーカシング・トレーナー。現在、ピースマインドで成人を対象に幅広い相談に応じるとともに、定期的に企業に赴き、社員のカウンセリングを行う。高齢者虐待防止に関連し、在宅介護者のカウンセリングにもかかわっている。著書に『SEのためのうつ回避マニュアル 壊れていくSE』(翔泳社刊、分担執筆)がある。

「出口のないトンネルはない。しばし、一緒に光を目指して歩いていきましょう」



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