効率的かつ非効率的に。IT技術者に必要な2つの視点特集:生き残れるITエンジニアの「仕事術」(1)

ITエンジニアとして生き残るためには「効率」を考えて仕事をしていくことが求められる。一方で、あえて効率を考えないことも必要なのではないだろうか。「効率」から生まれるものと「効率」からは生まれないもの、どちらもITエンジニアの今後に必要なものである。

» 2010年01月25日 00時00分 公開
[金武明日香@IT自分戦略研究所]

 2010年が始まった。新年を迎え、「どのように1年を過ごし、どんなITエンジニアとして成長していこうか」と、計画を立てている人は多いことだろう。

 さて、2009年末の特集「SIerの未来、エンジニアの未来」では、厳しかった2009年を振り返り、今後ITエンジニアがどう動けばいいのか、考える指針を示した。本特集では「考える」から一歩進んで、ITエンジニアとして生き延びるための具体的な「行動」や「考え方」を紹介していく。今回は、ITエンジニアが日々向上に努めている「生産性」について考察する。

ITエンジニアにとっての「生産性向上」

 そもそも、「生産性向上」とはどのようなことだろうか。「生産性」とは、財団法人 日本生産性本部が公表する「労働生産性指数」調査によれば「1時間当たりの生産量(業種によっては1時間当たりの販売金額)」のことを指す。

 生産性を上げる方法は2種類ある。1つは「仕事あたりにかける時間や単価を減らすこと」、もう1つは「生産量や売上を増やすこと」だ。しかし、2008年のリーマンショック以降、情報サービス業の売上高は減少傾向にある(参考:「経済産業省 特定サービス産業動態統計調査」)。売上が上がらない現状では、景気回復を待ちながら「1件あたりの仕事にかける時間や単価を減らして、生産性向上を図る」ことが現実的な打開策となるだろう。

 「コスト削減」の方策については、すでに多くのIT企業が実行に移している。2009年11月にNTTデータ経営研究所が行った「IT人材のプロフェッショナル意識調査2009」によれば、36.0%が「ここ1年間のうちに、会社で人員整理・解雇が行われた」と回答している。このような状況下で、ITエンジニア個人もまた「生産性向上」を迫られているのである。


ここ1年間で、現在努めている会社で人員整理・解雇が行われた人材が約4割 ここ1年間で、現在努めている会社で人員整理・解雇が行われた人材が約4割
NTTデータ経営研究所「IT人材のプロフェッショナル意識調査2009」より抜粋

 では、ITエンジニア個人にとっての「生産性向上」とは、具体的にどのような手段があるだろうか。@IT自分戦略研究所では、3つの方法を想定している。まず、「1つの仕事にかける“時間”や“手間”を減らして量をこなす」こと、次に「スキルや特技によって、他の人とは違う“付加価値”をアウトプットすること」、最後に「実際にかかるさまざまな経費を削減すること」だ。わたしたちは「量を増やす」「質を上げる」「コストを削減する」が、「生産性向上」のために必要なキーワードであると考えている。

あえていま、ITエンジニアが「生産性」を上げるべき2つの理由

 「案件やプロジェクトが減っているいま、あえて生産性を上げる必要があるのか」という声もあるだろう。実際、多くの仕事があった頃は、生産性を向上させて膨大な量の「残業」を減らそうという試みがあった。(「ITエンジニアの『残業減らせ減らせプロジェクト』)。

 しかし、現在は新規開発の案件が減り、「会社に行っても仕事がない」ITエンジニアが増えている。しかし、こうした時代だからこそ、「生産性を上げる」ためのスキルが必要なのではないだろうか。

 理由は2つある。まず、従来の「システム受注⇒開発モデル」案件の減少傾向である。2009年は、多くの企業がシステム開発への投資を控える傾向にあった。景気回復が順調に進んだとしても、「システムの受注開発モデル」が、景気回復前と同じ水準にまで戻る見込みは低いだろう。次に、人材競争のグローバル化である。日本のITエンジニアにとっては、外国人エンジニア(特に、日本ITエンジニアと比較して、作業単価が安く、かつ高度なスキルを持つ人材)との競争が今後はさらに加速するだろう。

 こうした外部環境の変化の中でITエンジニアとして生き延びるためには、「1人で2人分の量がこなせる」「付加価値の高いものが作れる」、あるいは「コスト削減のアイデアを実現できる」などの付加価値を周囲に認めてもらう必要が出てくる。「仕事があるITエンジニア」と「仕事がないITエンジニア」の差は、今後さらに広がっていくだろう。ITエンジニアにとっては、いち技術者として高レベルの生産性向上を意識すべき時が来たのである。

「効率よく仕事をする」「効率ばかりを考えない」、2つの視点

 では、ITエンジニアは「生産性」を向上させるため、具体的にどのような行動をすればいいのだろうか。10分かかる作業を5分で終わらせることができれば、単純に生産性は2倍になる。生産の「量」を増やすなら、無駄な時間を省く時間管理や、ツールを利用して1件当たりにかける手間を省く仕事術が有効だ。無駄を省くことは、「コストの削減」にもつながる。

 一方で、ITエンジニアの仕事は「ただ同じ作業を延々と続ける」ものではない。「このサービスは、こうしたらより良くなる」といった「ひらめき」や「発想」が必要な仕事である。そして、これらの発想は、単純に「無駄を省く」だけでは生まれない。無駄を省いてできた「時間」をどれだけ有効に使うかが鍵になる。空いた時間で新しい技術を獲得すれば、これまでとは違った開発アプローチが見出せるかもしれない。勉強会に参加し、さまざまな人と交流し、新しい知見を得ることもできるだろう。

 バートランド・ラッセルは『怠惰への讃歌』というエッセイの中で、「働く時間は1日 4時間に短縮すべし。功利主義からすれば甚だ無駄に見える時間を作り、学問における探求や美への追求を行えばいい」「文化的に価値のあるものは、非効率的な時間から生まれる」と提言している。このエッセイが執筆されたのは1932年。80年近く経った現在、「1日4時間労働」になる見込みはまだないが、ラッセルの言葉はなかなか示唆に富んでいる。新しいサービスや事業を作り出したり、顧客への付加価値を高める提案をしたりするためには、あえて「効率を上げること」や「無駄を省く」以外の視点が必要なのだ。

 目の前にある仕事を「効率よくこなす」ことは、ITエンジニアにとって必要なことである。一方で、“生き残れる”ITエンジニアとして成長するためには、より長い目で見る必要、つまり、目先の生産性「以外」にも着目することが求められる。「効率よく仕事をすること」と「効率ばかりを考えないこと」は相反するものではない。大事なのは両者の「バランス」をうまくとることではないだろうか。

 本特集では、「効率よく仕事をする」「効率ばかりを考えない」という2つの視点から、仕事を改善するノウハウや考え方を提供したい。

 第2回、第3回では、いますぐ使える「仕事術」を紹介する。時間管理術研究所の水口和彦氏による『初めての時間管理術』を1月26日(火)に、年間99のアプリ制作プロジェクトを実行した面白ラボBM11(ブッコミイレブン)のメンバーによる『開発に使えるツール』を1月27日(水)に紹介する。

 第4回、第5回では、中・長期的な視点で「仕事ができること」について考察する。1月28日(木)には、『フリーズする脳 思考が止まる、言葉につまる』の著者である築山節医師に、「脳の冴えを維持するために必要な生活習慣」のアドバイスをもらった。1月29日(金)には、「仕事ができる人=効率を無視する人」という逆転の発想で執筆活動を行う中川賀央氏に、「非効率的な仕事」の良さを語ってもらった。

 連載は1月25日(月)から1月29日(金)まで、毎日更新する。紹介するのはいずれも、「いますぐ使える」仕事術や考え方だ。2010年のスタートを切るための参考になれば幸いだ。

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