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» 2010年02月26日 05時00分 公開

頭脳放談:第117回 Numonyx買収に見るMicronの次の一手

MicronがフラッシュメモリベンダーのNumonyxを買収。いつも何かを仕掛けるMicronなので、次の一手を考えているはず。カギは相変化メモリ?

[Massa POP Izumida,著]
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 Micron Technologyが、フラッシュメモリ・ベンダのNumonyxの買収を発表した(Micronのニュースリリース「マイクロン、ニューモニクスの買収合意を発表」)。メモリ業界再編の一環といってしまえばそれまでだが、買収したMicronはいつも何か仕掛けてくるのではないか、という期待を持たせる会社なので取り上げさせていただく。

Numonyx買収の目的は?

 Numonyxは、つい最近(2008年)に設立されたばかりの会社である。とはいっても欧州の半導体大手のSTMicroelectronicsとIntelのメモリ部門が独立し、ほかに投資会社のFrancisco Partnersの出資を受けて出発した会社なので、立派な規模の会社だ。Numonyxは非上場企業なので、業績などが発表されていないため、実際のところはよく分からないが、競争の激しいフラッシュメモリが中心の会社でもあり、お世辞にももうかっていたとはいい難い状態ではなかったかと想像される。

 それに対して、DRAM主体でフラッシュメモリも製造・販売しているMicronは、このところのDRAM市況の回復もあって業績は回復しているようだ。もともとMicronは、Intelとの関係も深かったので、もうかってきたことをバックに低迷ぎみのNumonyxを取り込んだように見える。

 ニュースリリースは、総花的なことしか書いてないので、Micronがどの辺を狙ってNumonyxを取り込んだのかはいまいちハッキリしない。規模が大事なメモリ業界なので、生産規模や既存の顧客ベースの取得を狙ったようなことも書いてある。一方、Micronがやっていない分野の製品をNumonyxがやっているために、製品ポートフォリオの補完だ、というようなことも書いてある。取りあえず、どっちか一方ではない、ということだろう。

 しかし、しぶといMicronのことである、何かきっと考えているに違いない。Micronの歴史を見るとそう思わせるものがあるのだ。

Micronの歴史

 すでに30年以上の歴史があり、いまでは米国に軸足をおく唯一のDRAMメーカーになってしまったMicronであるが、最初のDRAM商品は1980年代に入ってからのはずで、DRAMメーカーとしての発祥は後発だといっても間違いではない。真偽は知らないが、噂に「ポテトチップを作るのも、半導体チップ作るのも同じだ」といって、ジャガイモで有名な米国アイダホ州の田舎に設立した、と聞く。いまでも本拠地はアイダホ州の州都ボイジーにあり、日本でいうと北海道のような、牧場とジャガイモ畑の広がる冷涼な気候の大地が広がるところである。

 1980年代といえば、日米半導体摩擦の最盛期である。いまでこそ見る影のない日本半導体業界なのであるが、その当時は「世界を制覇」しかけていたのだ(蛇足だが、当時の日本政府の対応次第では日本半導体のここまでの凋落はなかったように思う)。創業間もないDRAMメーカーのMicronは、飛ぶ鳥を落とす勢いだった日本のDRAMメーカーの攻勢にさらされたわけである。その当時は、Intelを初め、米国の大手半導体メーカーもみんなDRAMをやっていたのだが、日本勢と価格で勝負にならず、次々とDRAMから撤退していったのだ。そんな中でMicronは唯一といっていいくらい、価格勝負に負けず生き残った。当時、DRAMを知っている人から「Micronの製造プロセスが特別によいわけではない、でも、レイアウト設計が凄くてとてもセルが小さく、価格で負けないのだ」と聞いた記憶がある。

 当時はそんなレイアウトのよさでしのいでいたMicronであるが、いまや老舗であり、このごろでは技術力にも定評がある。2009年くらいのニュースになるがインパクトのある特許を出している会社のランキング上位に見事に入っていた。特許でも「自己満足」で誰からも参照されないようなものから、インパクトがあって先行技術として挙げざるを得ないような影響の強いものまでいろいろあるのだが、Micronは会社の規模と特許の総件数ではそれほど大きくないのに、影響力のスコアは非常に強烈なものがある、というランキング報道であった。アイダホの田舎の会社は、いつの間にか半導体業界を代表する技術力のある会社になっていた。

 その上、ビジネス面でもなかなか決断が速い。現段階では、MicronはDRAMとフラッシュメモリの会社であるが、つい数年前までは、これにCMOS撮像素子のトップ・メーカーという形容もついていた。MicronがCMOS撮像素子に参入した時期も決して早くなく、2000年代に入り、カメラ付き携帯電話が一般化し始めるころになってからの参入である。しかし、参入するやいなや非常に急速にシェアを伸ばし、直ぐに「トップ・メーカー」というポジションまでいったのだが、あっという間にCMOS撮像素子部門を切り離して分社化し、売り飛ばしてしまったのだ。参入も撤退も速い。

 そうかと思えば、DRAMやフラッシュメモリのチップを製造するだけでなく、下流の販路まで押さえる意図であろう、DRAMモジュールやフラッシュメモリ製品の会社まで着々と傘下に収めている。メモリ・メーカーというと、どうしてもファブ(工場)とプロセス中心なイメージがあるのだが、Micronは単なるメモリ・メーカーではないように見える。

Numonyx買収の目的は相変化メモリ?

 多分、MicronがNumonyxを取り込んだ直近の損得勘定は、製造力を拡充し、規模と顧客ベースを拡大することで十分に採算が合う、と見たということであろう。しかし、それだけの理由でNumonyxを取り込んだとも思えない。新技術好きの贔屓目かもしれないが、Numonyxには、相変化メモリという期待の新商品がある(相変化メモリについては「第21回 変り種メモリはいつ花咲くのか?」が参考になる)。Micronは、それを自身の力で「化けさせる」ことができると踏んでいるのではないだろうか、と思う。

 いろいろな不揮発性の新しいメモリ技術はあるのだが、どれもフラッシュメモリの圧倒的なビット単価の安さの前になかなか本格的に立ち上がらないでいる。しかし、そろそろブレイク・スルーがあってもよさそうな時期でもあるのだ。そんな中、Numonyxの相変化メモリは可能性を持っているデバイスである。Micronがこれを手にどんな仕掛けをしてくるのか注目したい。

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筆者紹介

Massa POP Izumida

日本では数少ないx86プロセッサのアーキテクト。某米国半導体メーカーで8bitと16bitの、日本のベンチャー企業でx86互換プロセッサの設計に従事する。その後、出版社の半導体事業部を経て、現在は某半導体メーカーでRISCプロセッサを中心とした開発を行っている。


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