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» 2010年03月24日 05時00分 公開

頭脳放談:第118回 IT化による別業界への利益移転の構造を考える

KindleとiPadの登場で出版印刷業界の利益がIT業界に移転? スマートグリッドでも、データセンター料金が電気料金に上乗せされる?

[Massa POP Izumida,著]
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 長年、電子デバイスなどというIT産業、最近ではICT(Information and Communication Technology)と言う人も増えた、の「下支え」のような分野に身を置いてきたし、何よりここ@ITは、「IT」をその名に付けたバリバリのIT側のサイトでもある。どうしてもIT業界寄りの見解にならざるを得ないのは自覚している。しかし、それでも気になることが増えてきた。

KindleやiPadの登場で負けるのは出版印刷業界か?

 例えば、AmazonのKindleの後を追うようにAppleが発表したiPadである。iPad自体は、先行するAmazonやソニーの電子ブック・リーダーに比べて新味を出すためであろう、本を読む装置というよりもっと広がりを狙っている感じで、それはそれで悪くはない。しかし、気になるのはそれら装置というより、装置を使ったビジネスの影響である。どうもIT業界側から見ていると、Amazonが勝つのかAppleが勝つのか、といった優劣ばかりが論じられる。だが実際の「お金」の流れを考えてみれば明らかなことがある。書籍の電子化によって、製紙業界や印刷業界の仕事のうちのいくばくかの割合がなくなり、出版業界内のお金のいくばくかがIT業界に転移する、という構図だ。「負ける」のはAmazonでもAppleでもなく、出版印刷業界だ、といってしまったら言いすぎだろうか。売り上げは突然に沸いて出るものではなく、「どこかから奪い取って」達成されるのだ。

 それこそ昔からの、鉄道の開通によって馬を使った陸運業者が消滅し、といった産業の消長の繰り返しだといってしまえばそれまでだ。しかし、IT化によるそれは、直接には見えないので、進行してしまうまでが隠微である。気が付いたときには、まったくの異業種で、かつて直接には何の利害関係もなかったような業界から業界へと売り上げが移転してしまっている、ということがあり得るのだ。出版業界や印刷業界自体は、IT化に対して相当前から十二分に意識はしていると思うが、それほど有効な手立てを打てているように見えない。電子化が進んでもそれなりにビジネスは残るからだが、中小企業が多い業界なので「草刈場」と化す恐れは十分にある。結局、電子化流通のインフラを押さえたところが利益のいくらかを「分捕る」構造(ほかの取り分はそれだけ少なくなる)ができあがってしまいそうである。

電気代にデータセンター利用料が上乗せ?

 IT側にいてことさらに書くことではなさそうだが、IT業界の「魔の手」はほかの分野にも着々と伸びている。このところ、一気に盛り上がってきたのが「スマートグリッド」に代表されるエネルギー系の事業である。こちらのエネルギー系は、出版印刷のような中小企業が多数というような業界でなく、どこもジャイアントな事業体が多い。その点では出版印刷業界のように付け込まれる余地は小さいように思われるのだが、実はそうでもなさそうだ。インフラなので、ある種の「独占」が許されている代わりに、公共性も高い、という点に「その余地」がある。

 何といってもお題目が大事である。本音はともかく建前は誰も反対できないものがよいのだ。それが「地球温暖化防止」である。面と向かって反対すると、地球を破壊しようとしている「悪の秘密結社」扱いされてしまう。エネルギーの生成と消費もIT化すれば、効率よく省エネできるし、CO2を減らせて地球環境もよくなる。ついでに、その周辺にビジネスを作り出せるというわけである。

 そのためには、いままでエネルギーや物質が配られていたルート、配電線とか、インフラの配管類に至るまで、あまねく通信網をその上に重ね、末端からデータを時々刻々と吸い上げる手段を装備し、それを受け止めて処理するデータセンターを設置して、スマートに処理をしていく。書くのは簡単だが、あまねくすべてのインフラにかかわるのだから、巨大な資金が必要になってくる。その上、データを処理するからにはその処理の費用が継続的に必要であり、まぁ、実際にどういうお金の経路になるのかはまだよく分からないが、最終的には「受益者負担」ということで多分、毎月課金されてくることになるのだろう。

 そのときに「地球温暖化防止」や「CO2削減」といったところが効いてくるのである。これらが国際協調の仕組みを抜きには議論できない性格のものだからである。どこか1つの国でがんばっても、ほかの国も取り組まなければ結果はでない。勢い、その監視方法であるIT化についても、どこかの国の独自方式はダメで国際的に決められた方法でなければダメだ、ということになるだろう。そうしないと全世界で協調する仕組みにならないからである。するとガラパゴスのゾウガメのように島に君臨してきたエネルギー企業も、「国際的なICTの枠組み」に組み込まれざるを得ず、結果、「国際的な」ICT企業にデータ処理代を支払うということになりそうな気がしている。知らないうちに電気代やガス代の一部が某社のデータセンター代に転換されてしまう、というシナリオだ。

 少々陰謀じみているが、そういう可能性に思い至るたび、「どっかから分捕ってくる」という発想が見え隠れしているように見えないこともない。多分、ITバブルの崩壊の前までは、業界自体の成長への期待でいくらでもお金が集まってきたのが、バブルが崩壊し、結局、「どこか」から売り上げを奪ってこなければ駄目だ、という流れができたような気がする。時期的には、ITではなくて、ICTとか言い始めたころが怪しい。それほど本質的に変わってもいないのに名前を変えるというのは、誰かが何かを「意図的に」仕掛けたがっていた証拠でもある。もしかすると、仕掛けたのはこれを読んでいるあなただろうか?

 とはいえ、IT(ICT)業界が伸びてくれないことには、電子デバイスにおこぼれも落ちてこないので、IT業界には伸びてもらわないと困る。ただ、心掛けるべきなのは、ちゃんと紙や電気を削減し、CO2の排出を減らし、実質、地球環境にも貢献しているIT業界にならないといけないということではないだろうか。よそから売り上げを奪っておいて、データセンターで電力を使い放題、かえってエネルギーを消費してました、では申し訳が立たない。えっ、「省エネは電子デバイスの方でやっておいて」って……、そう来ますか。

筆者紹介

Massa POP Izumida

日本では数少ないx86プロセッサのアーキテクト。某米国半導体メーカーで8bitと16bitの、日本のベンチャー企業でx86互換プロセッサの設計に従事する。その後、出版社の半導体事業部を経て、現在は某半導体メーカーでRISCプロセッサを中心とした開発を行っている。


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