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» 2010年04月22日 00時00分 公開

IT業界 転職市場最前線(12):ソーシャルアプリ求人活況、SI系はピンポイント採用

平成の大不況の下、IT業界の転職市場は冷え込んでいる。だが、すべての企業が採用をやめたわけではなく、いつまでも採用が止まり続けるわけでもない。転職市場の動向を追い、来るべきときに備えよう。

[ワークポート]

 2010年の年明け以降、IT業界の転職市場では求人数の回復傾向が続いている。LAMP環境での開発経験を持つエンジニアを中心に、積極的に採用活動に乗り出す企業が増加している。

 2月以降はソーシャルアプリ関連職での新規求人が急増し、募集職種にも広がりが見られるようになった。昨年までの採用控えや新卒採用の取りやめなどで不足した人員の確保に力を入れているようだ。

 一方、デザイナーやネットワークエンジニア、金融・生損保以外の受託系開発エンジニアの求人は足踏み状態が続き、求職者にとってはいまだに厳しい状況だ。しかし、そうした職種においても、少しずつではあるが確実に回復の兆しが見え始めている。

 急募案件の増加や、応募者の殺到による早期の募集終了が目立つのも特徴的だ。求人数は回復に向かっているとはいえ、求職者にとっては気の抜けない情勢といえる。

 いち早く情報をキャッチし、万全の準備を整えて臨むことが、転職成功の近道となるはずだ。

 それでは、今月も最新の転職市場動向を見ていこう。

【Web業界】募集職種が広がるも、早期応募終了が目立つ

 Web業界は、年明けから毎月、求人数が増加している。エンジニア職だけでなく、営業やサービス企画、デザイナーなど、募集職種に広がりが見られる。20代のポテンシャル採用枠も少しずつ散見されるようになった。

 応募の幅は広がったものの、長らく採用が止まっていたせいもあり、1名ないし若干名の採用枠に応募が殺到するケースが少なくない。このため、早期に募集終了となる求人が増加している。

エンジニア

 Web系エンジニアの採用には特に力を入れている企業が多く、採用活動が非常に活発である。中には採用に苦戦している企業も現れており、応募条件を引き下げる動きが見られた。

 特にPHP開発者はニーズが高く、他言語と比べて、経験年数が短くても選考対象とする企業が多い。これまで応募条件の「経験年数」を満たせずに苦戦していた若手エンジニアにとっては、朗報といえるだろう。

クリエイター

 他職種に比べ、デザイナー職の求人は回復が遅れている。各社とも「現存社員でまかないたい」という意向が強いようだ。デザイナー出身のディレクターが兼任しているケースが多く見られる。そのため、デザインスキルだけでなく、ディレクション経験、外部との折衝経験、Web以外のメディア(例えばグラフィック、DTP、動画)経験など、付加価値としてアピールできる経験・スキルが必要だ。

 また、デザイナー職ではポートフォリオの提出がほぼ必須だが、厳しい書類選考を通過するには、手間を惜しまずに作りこむことが重要である。作品の紹介だけでなく、その作品に携わった際の「コンセプト」や「意図・工夫」を明記するなどの工夫が必要だ。

営業関連職

 インターネット広告、SEO、リスティング、アフィリエイト関連の新規求人が順調に増えている。インターネット広告の出稿量が回復傾向にあることを背景に、大手インターネット広告代理店を中心に次々と採用活動を再開する動きが見られる。「インターネット広告営業経験2年以上/大卒以上/20代」という人材を求める企業が多く、即戦力となる若手の採用に力を入れていることが分かる。

【モバイル業界】ソーシャルアプリを中心に、活発な採用が続く

 モバイル業界は総じて採用ニーズが高いといえる。特にソーシャルアプリ関連では求人数が急増している。エンジニア職ほどの勢いはないものの、ディレクターやプロデューサー職でも求人が増えた。デザイナー職はニーズの回復に遅れが見られるが、今後の動向に期待が持てそうだ。

エンジニア

 ソーシャルアプリやiPhone/Androidアプリ関連のエンジニア職はニーズが高く、活発な採用活動が続いている。Linux環境下でのPerl、PHP、Ruby開発経験者を求める企業が多く、20代の若者を経験1年程度から募集するケースが増えている。

 また、モバイル業界では「即日勤務可能」であることを「必須」または「尚可」とする企業が多い。モバイル業界はトレンドの流れが特に速いため、できるだけ早く人材を確保し、サービスインにつなげたいという意向が目立つ。一般的に「離職中」であることはマイナス評価となることが多いが、スピードを求めるモバイル業界では、プラスに評価されることが少なくない。

ディレクター・プロデューサー

 プランナーやディレクター・プロデューサー職においては、ソーシャルアプリ関連での求人が目立つ。エンジニア職ほどではないが、確実にニーズが高まっているようだ。新ジャンルともいえるソーシャルアプリは経験者が圧倒的に少ないため、エンタメ系コンテンツやコンシューマ向けゲームでのプランニング・ディレクション経験者などが主なターゲットになっている。マーケティング力よりもディレクションの実務能力を問われる場合が多い。また、若干名の採用枠に対して応募が殺到し、選考が長期化するケースが増えている。

モバイルサイト制作/デザイナー

 モバイルサイト制作やデザイナー職では、コンテンツプロバイダからの求人がその大部分を占める。一方、受託制作企業からの求人ではモバイルのみの経験者は敬遠される傾向にある。

 コンテンツプロバイダからの求人は「自社サイトでの企画・制作・運用経験」を求める場合が多く、受託開発企業でモバイルサイトを手がけてきたクリエイターには選択肢が少ない状況だ。他職種において盛り上がりを見せているソーシャルアプリ分野での、新たなニーズの発生に期待したい。

【システム業界】回復に向かっているものの、ピンポイント募集・厳選採用が多い

 Web業界やモバイル業界と比べると、求人ニーズ回復の遅れが目立つシステム業界だが、急増とはいかないまでも、求人数は増加傾向にある。ただし、一部の分野・経験者にニーズが集中していたり、応募条件をピンポイントに絞り込む企業が多いなど、本格的な回復とはいいがたい。

 ソフトウェア開発企業では、エンジニア職に限らず、営業、パートナーセールス、バックオフィス系など非エンジニア職での募集が目立つようになった。

自社プロダクト系

 Java、C#などオブジェクト指向言語での開発経験者の募集が目立つ。また、昨年までは激減していたSAP関連職の求人が回復傾向にある。

 30代前半〜半ば程度のエンジニアのニーズが高く、マネジメント経験・営業力が問われる傾向が強い。リーダーとしてプロジェクトを任せるだけでなく、既存のプロジェクト(案件)をさらに拡大できる人材が求められているようだ。厳選した採用が行われる中、技術力だけで内定を獲得するのは難しく、コミュニケーション能力や営業力のアピールが必要だ。

 先月、求人数の微増が見られたハードウェア業界では、期待したほどの回復はみられず、足踏み状態となった。制御・組み込み系エンジニア職では、携帯電話・カーナビなど特定領域の経験者をピンポイントで募集する傾向が強く、求職者にとっては選択肢が絞られている。

システムインテグレータ

 システムインテグレータ(SIer)からの採用ニーズに大きな変化は見られず、平行線が続いている。生損保関連・銀行関連では安定したニーズがあるものの、必須条件に「勘定システムの開発経験」「新規契約システムの開発経験」など携わってきたシステムが細かく指定されているケースが多い。そのため、求職者にとっては応募しづらい状況ではあるが、それだけ応募人数も少なく、競争率が比較的低い。経験にマッチする求人には、積極的に応募を試みてほしい。

インフラ系エンジニア

 ネットワークエンジニアの求人が少しずつ増えている。ただし、PL/PM経験や、設計・構築経験を必須とする求人が大部分を占め、上流工程の経験者にニーズが集中している。社内の既存メンバー(待機要因)と合わせてプロジェクトにアサインしたいという意向があるようだ。

 このため、保守・運用がメイン経験となる若手のエンジニアには、いまだ厳しい状況が続いている。

【ゲーム業界】モバイルゲームからソーシャルゲームへ、人材の流動が見られる

 コンシューマ向けゲーム分野では採用傾向に大きな変化は見られず、引き続き手堅い採用を行っている印象だ。勢いを増しているのがソーシャルゲーム分野であり、エンジニアを筆頭に、プランナー、ディレクターなど、幅広い業種で求人数が増加した。Webやモバイルを専業とする企業の募集以外にも、ゲーム会社がソーシャルゲーム事業を始めるケースが増えている。

ソーシャルアプリ関連

 ソーシャルゲーム分野では、エンジニア求人に続き、プランナーやディレクター・プロデューサー職の募集が目立つようになった。これらの募集では、ソーシャルアプリ経験に限らず、親和性の高いジャンル経験者を幅広くターゲットにしている。オンラインゲームやモバイルゲームのディレクション経験者を採用する企業が多く、ニンテンドーDS/PSP向けゲーム開発の経験者を採用するケースも見られるようになった。

 一方で、一部の企業ではソーシャルアプリの経験者に絞った募集が開始されている。ただし、ソーシャルアプリの経験者そのものが少なく、採用も容易ではない。経験者にとっては、転職しやすい時期といえるだろう。

求職者の動き

 ゲーム業界は採用企業側だけでなく、転職希望者の動きも活発である。「他業界と比べると転職者が多い」といわれる通り、デザイナー、プランナー、ディレクター、プログラマと、ほぼすべての職種において多くの求職者が積極的に転職活動を行っている。特にモバイルゲームの開発に携わってきた人材が、ソーシャルアプリという新たな活躍の場を見いだし、転職を前向きに考えるようになっているようだ。

 競争の激化が予想されるため、早めの動き出しと十分な対策が必要だ。

【営業/バックオフィス】募集職種が拡大。「特別採用枠」も登場

営業職

 営業関連職は順調に求人数を増やしている。SIerやハードウェアベンダ、外資系企業からは、年収800万〜1000万円を超える求人が目立ち始めている。営業としての経験だけでなく、業種・業界による専門性が問われることが多く、特定の業界・業種に対してバックボーンや太いパイプを持っている人材が求められている。

バックオフィス/そのほか

 バックオフィス系の求人では、経理・財務職が堅調を維持している。求人数が急増することはないものの、募集企業を入れ替えながら、常に安定した求人数がある。

 医療・製薬メーカー、MR、臨床検査関連の求人は依然として採用ニーズが高い。苦戦が続いていた人材業界からも、新規の営業職募集が見られるようになった。求人の数は少ないが、雇用・採用市場全体が回復してきた証といえるだろう。

 また、特定の職種にとらわれることなく、「優秀な人材であれば、どのような強みを持っている人材でも良い」とする、特別採用枠を設ける企業が現れている。


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