『美味しんぼ』の究極のメニュー、製造原価はいくら?お茶でも飲みながら会計入門(35)

意外と知られていない会計の知識。元ITエンジニアの吉田延史氏が、会計用語や事象をシンプルに解説します。お仕事の合間や、ティータイムなど、すき間時間を利用して会計を気軽に学んでいただければと思います。

» 2010年08月12日 00時00分 公開
[吉田延史日本公認会計士協会準会員]

本連載の趣旨について、詳しくは「ITエンジニアになぜ会計は必要なのか」をご覧ください。


今回のテーマ:『美味しんぼ』に登場する「究極のメニュー」の製造原価

 しかし「究極のメニュー」のデザートが1つこれで決まったな(『美味しんぼ』(雁屋哲・花咲アキラ)第3巻「和菓子の創意」 山岡のせりふより抜粋)

 今回は特別企画として、漫画『美味しんぼ』に出てくる「究極のメニューの製造原価」について考えてみます。

 題材は『美味しんぼ』第3巻に登場する和菓子屋「春野」の創作和菓子「暖雪」です。採算を度外視でおいしい和菓子を安く売る春野。山岡は店の名を売るために茶道家元の茶菓として春野を推薦したところ、家元側からオリジナルの菓子を求められます。そこで完成したのが、「暖雪」というくず餅のような和菓子。この暖雪という和菓子は会計上、1個当たりどのくらいのコストがかかっているのでしょうか。今回は「究極のメニュー」を題材にして、製造原価について解説します。

【1】 原価は3種類に分類される

 製造原価は以下の3種類に大別されます。

  • 材料費
  • 労務費
  • 経費

 材料費とは、文字どおり材料の消費によって発生したコストを指します。暖雪の材料費は、くずと餡(あん)です。くずは最高級の吉野くずを使用しているので、茶会に出席する7人分の材料で3000円としておきましょう。餡の材料は小豆と砂糖ですが、小豆は北海道産の最高級品なので、2000円とします。砂糖は和三盆という高級食材を使用しているため、1500円とします。暖雪の材料費は合計で6500円となりました。

 材料費は明らかなコストですが、労務費も無視できない重要なコストです。ただし、製造原価としては、製造に関係する店主 春野清の人件費(1日3万円)だけを集計することとなります。

 暖雪を開発するのにかなりの時間を要していますが、これらの時間は研究活動として、製造とは切り離して考えます。製造に要した時間として、4時間で人数分作ったと考えましょう。個人事業主でしょうが、企業会計を前提として従業員と考えます。1日8時間労働と考え、労務費3万円÷8×4=1万5000円としておきましょう。なお、この労務費の中には法定福利費なども含まれています。

 経費は、材料費・労務費以外のコストを指します。固定資産の減価償却費や水道光熱費、外注加工費などが代表例です。

 暖雪の場合の経費としては、どのようなものが考えられるでしょうか。吉野くずを得るために奈良県の吉野まで行っていますが、これは、暖雪を完成させる研究活動のため、経費には含めません。通常の製造では運送屋に頼むでしょうから、運送料を1000円として含めておきましょう。水道光熱費も発生します。およそ200円としておきましょう。

 あとは、店の賃借料も大事なコストです。春野は銀座にあります。銀座の一等地で製造するのですから、これは非常に重要なコストと考えられます。だいたい月50万円として、月200時間のうちの4時間を消費したので、50万÷200×4=1万円となります。

 経費は合計で1万1200円となりました。

 合計すると、7人分の「暖雪」は、原価3万2700円です。暖雪は7人に1個ずつふるまわれるため、割り算をすると1個当たり4671円です。製造すればするほど、労務費や経費の固定費部分については1個当たりの負担は減ることとなりますが、実際に販売するとなると、5000円あたりで販売することになるでしょうか。

 もちろん、実際に和菓子の製造を行っている会社は、製造機械を導入するなどさまざまなコスト削減の工夫を行っているでしょうから、5000円で売らなくても利益が出るはずです。

 最後に、原価の集計方法をおさらいしておきましょう。

【キーワード】 製造原価の3要素

 製造原価は、以下の3種類に大別される。

  • 材料費……製造のために投入した材料
  • 労務費……製造のために働いた人の人件費
  • 経費……材料費・労務費以外の費用。典型的には減価償却費・賃借料・光熱費など

 暖雪は、2口くらいで食べ終わるように見えます。しかし、究極のメニューのデザートとなれば、たとえ5000円でも、食べて友達に自慢してみたくなりますね。暑い季節に、くず餅はそれこそぴったりです。それではまた。

参考資料:原作:雁屋哲、作画:花咲アキラ『美味しんぼ』小学館、1985年。

筆者紹介

吉田延史(よしだのぶふみ)

京都生まれ。京都大学理学部卒業後、コンピュータの世界に興味を持ち、オービックにネットワークエンジニアとして入社。その後、公認会計士を志し同社を退社。2007年、会計士試験合格。仰星監査法人に入所し現在に至る。共著に「会社経理実務辞典」(日本実業出版社)がある。

イラスト:Ayumi



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