連載
» 2010年10月14日 00時00分 公開

お茶でも飲みながら会計入門(39):総額2兆円分! なぜ円高だと“為替介入”するのか

意外と知られていない会計の知識。元ITエンジニアの吉田延史氏が、会計用語や事象をシンプルに解説します。お仕事の合間や、ティータイムなど、すき間時間を利用して会計を気軽に学んでいただければと思います。

[吉田延史,日本公認会計士協会準会員]

本連載の趣旨について、詳しくは「ITエンジニアになぜ会計は必要なのか」をご覧ください。


今回のテーマ:為替介入

 財務省は30日、外国為替市場での9月の為替介入額が2兆1249億円だったと発表した。約15年ぶりの円高・ドル安となった1ドル=82円台まで円相場が上昇した15日に介入。(〜中略〜)ただ、いったん85円台に戻った円相場はその後じわじわと上昇を続けている。(2010年10月1日 日本経済新聞 電子版より抜粋)

 円高を理由とした為替介入が大きなニュースとなりました。為替介入といっても、なかなかイメージがしづらいのではないでしょうか。円高は悪いことのような印象がありますが、具体的にはどういった問題があるのでしょうか。今回は「為替介入」について解説します。

【1】そもそも、なぜ円高になるのか

 今回の為替介入は、円高を抑制するために実施されました。そもそも、なぜ円高が進行するのでしょうか。

 外貨の交換は、外国為替市場で行われます。市場で行われていることは貨幣の交換ですが、まずは分かりやすい大根で考えてみましょう。

 大根を1本欲しいとします。同じ大根ならできるだけ安い方がよいですね。市場に1本100円の大根が10本あるとすると、大根を欲しがる人が少なければ大根は安い値段(例:90円)で買えることになるでしょう。しかし、大根を欲しがる人が多ければ、大根は取り合いになりますので、高い値段(例:110円)で買うしかないと考えられます。

 上記の大根をそのままドルに置き換えて考えます。ドルを1ドル欲しいとします。外国為替市場に1ドル=100円のドルが10ドルだけあるとすると、ドルを欲しがる人が少なければドルはより安い値段(90円)で買えることになるでしょう。しかし、ドルを欲しがる人が多ければ、ドルは取り合いになりますので、高い値段(110円)で買うしかないと考えられます。

 上記において、1ドル=100円が90円となる状況を「円高ドル安」、110円となる状況を「円安ドル高」といいます。つまり、円高になっているということは、ドルを欲しがる人が少ない(ドルを手放したい人が多い)ということです。

 ドルを手放したいということは、ドルを円に替えたい(円転と呼びます)ということです。背景には、日本がアメリカに自動車や電化製品などを多く輸出していて、それがアメリカからの輸入よりも多いこと(貿易黒字)があります。アメリカに製品を輸出して得る対価はドルですから、輸出メーカーはドルを円に替えたいのです。輸出メーカーが円転する結果、円高が発生するのです。

【2】円高になると何が困る?

 円高になっている状況は説明できましたが、円高になるとどのような問題が生じるのでしょうか。

 円高になると輸出メーカーの売り上げが落ちてしまいます。これについては、第11回「任天堂の減益から読む、円高が会計に与える影響」で説明しているので、そちらをご覧ください。1ドル=100円だった為替相場が、1ドル=90円になると、製品を1割引で販売しているのと同じことになります。売り上げが落ちると、人件費などのコスト削減や設備投資の抑制を行わざるを得なくなり、結果として日本の景気が悪くなってしまいます。

【3】円高への対抗策としての「為替介入」

 今回、為替介入がニュースとなりましたが、為替相場の操作としては、「金利調整」も考えられます。

 例えば、アメリカの預金金利が5%で、日本の預金金利が1%だとして、為替レートが一定だったら、皆こぞってドルで預金することでしょう。ドルで預金しておいて、必要になったら円に転換して引き出せば、高い金利を得ることができます。つまり、金利を安くするほど、ドルの人気が高まるので相対的に円安に導くことができます 。

 10月5日、日本銀行が4年3カ月ぶりに「ゼロ金利政策の復活」を打ち出しました。ゼロ金利政策は、景気対策とともに円高への対抗策としての意味も持っています。

 そして、もう1つの円高への対抗策が「為替介入」です。為替介入では、財務大臣が、「いつ何円分の円をドルに替えるのか」を日銀に指示します。その結果、上記の引用のとおり、9月に約2兆円をドルに転換したのです。 ドルを欲しがる人が大量に現れたのと同じことですから、9月15日に一時的ではありますが、為替相場は円安の方向に推移しました。

 為替の介入について、あらためて大根を例に取って考え直すと、大根の値段があまりにも安いので、政府は9月に2兆円分の大根を買い占めたということになります。大根の値段は一時的に上がりましたが、またすぐに下がっている状況です。

 ドルは大根と違って、時間の経過によって無価値になることはありませんが、1ドル=120円だった一昔前と比べると、3割近くも価値が落ちています。しかも、政府は過去に買い占めたドルについて、大規模な円転は一度も行っていません。売るとさらに円高に拍車がかかるため、手放せないのです。いま、過去に買い占めたドルの累積は1兆ドルを超えています。

 確かに為替介入は、円高を食い止める手だてとして一定の効果はあると考えられます。しかし、円高になったことによる外貨の評価損は現時点で約30兆円あるともいわれています。政策としての「為替介入」の価値について、国民が政策の意味を理解して、1人ひとり意見を持てるようになるとよいですね。それではまた。

筆者紹介

吉田延史(よしだのぶふみ)

京都生まれ。京都大学理学部卒業後、コンピュータの世界に興味を持ち、オービックにネットワークエンジニアとして入社。その後、公認会計士を志し同社を退社。2007年、会計士試験合格。仰星監査法人に入所し現在に至る。共著に「会社経理実務辞典」(日本実業出版社)がある。

イラスト:Ayumi



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