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» 2010年12月17日 00時00分 公開

IT業界 転職市場最前線(20):新たな市場拡大――2010年 IT業界 転職市場を振り返る

不況で冷え込んでいたIT業界の転職市場に、回復の兆しが見え始めている。だが、業種や職種によって採用数や条件に大きな差異が生まれている。転職市場の動向を追い、自身のキャリア戦略立案に生かしてほしい。

[ワークポート]

 2010年はIT業界にとって、新たな市場の拡大に支えられた1年といえるだろう。

 ソーシャル市場の盛り上がりや、iPad、スマートフォン(iPhone/Android)などの新デバイスの登場によって、IT業界の転職市場には新たな採用ニーズが発生した。一部の職種・スキル保持者に対しては、採用競争が激化の一途をたどっている。

 新興市場での人材募集では、異業界・異業種からの採用を行うケースが多く見られ、新たなキャリアへの挑戦が可能だ。20代の若手であれば、ポテンシャル求人を狙うのもいいだろう。

 ボーナス支給時期の前後や、期の変わり目となるお盆と年末年始は、「採用ニーズが低下する」ともいわれている。だが、実際の求人件数を見てみると、時期要因によって大きく求人数が減少することはない。2010年は特に求人数の増加が続いており、12月以降も年内(または年度内)採用を目標に積極的な採用活動を続けている企業が数多くある。

 いまだ回復が遅れている業界・業種もあるが、大きな不況を乗り越え、業界全体が勢いを取り戻しつつある。ぜひ、その波に乗ってチャンスをつかんでほしい。

 1年の振り返りとともに、最新の転職市場動向をお伝えする。

Web業界

 Web業界は、1年を通じて高い採用意欲を維持してきた。自社サービスの内製化を図る動きや、ソーシャルメディアの台頭が大きな要因といえるだろう。特にWebエンジニアのニーズは高まる一方であり、各社で熾烈な獲得競争が起こっている。

 11月以降はリーダーやマネジメント職の求人が増え始めており、採用ターゲットとなる年齢層が広がっている。

エンジニア:採用ニーズは右肩上がり。競争激化が続く

 Web系エンジニアの求人は右肩上がりが続いている。新規の募集は前月比1.5倍となった。求められる言語経験は「PHP」「Java」が大半を占める。年内の採用を予定している企業が多く、例年では採用意欲が鈍化する傾向にある12月においても、転職成功のチャンスは大きい。

 若手ポテンシャル層の募集が増加している。20代のエンジニアには積極的なチャレンジをお勧めしたい。

クリエイター:デザイナー職は停滞。ディレクター職では求められる人物像が多様化

 クリエイティブ職では、自社サービスやコンテンツを企画・運営している企業からの募集が多く、「運用(アクセス解析など)の経験」や「改善提案経験」を求める傾向にある。

 前月に回復傾向が見られたWebデザイナーの求人増加は続かず、停滞した。スマートフォンなど新しいデバイスの登場により、UI設計やIA(インフォメーションアーキテクチャ)デザインの経験者に注目が集まっている。

 ディレクター/プロデューサー職では、各社とも即戦力となる人材を採用したい意向は同じだが、「システムに詳しいディレクター」「デザイン関係に強みを持つディレクター」「収益化が得意なディレクター」など、企業の求める人物像が多様化している。

モバイル業界

 2010年、最も転職市場に活気があったのがモバイル業界といえるだろう。企業側の採用意欲が高く、求職者も活発に転職活動を行っていた。

 特に、3月ごろからソーシャルアプリ関連の求人が急増。新たにソーシャル市場への参入を始める企業が増えたことにより、採用ニーズが高まった。一方で、キャリア公式サイトを手掛ける人材の採用には落ち着きが見られた。

 9月以降はiPad、iPhone、Androidなどの新デバイスの普及により、求められるスキルやポジションが多様化。一時は低迷していたキャリア公式サイト向け求人も勢いを取り戻した。

エンジニア:LAMPエンジニア人気は衰えず。受託企業では技術力・コーディング力を重視

 ソーシャルゲーム/エンタメ業界において、LAMP経験者を求める採用合戦が続いている。採用予算を大幅に増額するなど、各社が優秀な人材の採用に力を入れている。

 自社サービス運営会社だけでなく、業務システムの受託開発を行う企業からも増員のための新規求人が増加した。大手SNS事業者やソーシャルアプリケーションプロバイダからのアウトソーシング受託による「LAMPエンジニア」「スマートフォンアプリ開発者」の求人が中心だが、発注側がソーシャルアプリ/スマートフォン向けアプリの開発実務経験を必須とするのに対し、受託企業の採用選考では技術力・コーディング力が重視される傾向にある。

クリエイター:イラスト力(画力)を問う求人が増加

 2DCG/イラストレーターの求人が増加した。これまで、イラスト力(画力)が採用基準となることは少なかったが、モバイルゲーム/ソーシャルゲームの需要拡大によって、キャラクターやアバター、アバターアイテムなどのデザインを手掛ける人材のニーズが高まった。

プランナー/ディレクター:スマートフォンの登場で採用ニーズは堅調な伸び

 モバイルサイトのプランナー/ディレクター職は非常にニーズが高く、半年以上にわたって採用枠の拡大が続いている。

 キャリア各社のスマートフォンが出そろったことにより、スマートフォンアプリの需要はもちろんのこと、スマートフォンからアクセスするWeb上の各種コンテンツ制作のニーズが高まっている。年内の採用を計画している企業が多く、採用プロセスのスピードが速い。また、採用を成功させ、募集を終了する企業も増え始めている。

システム業界

 回復が遅れているシステム業界だが、求人数はじわじわと増加している。

 ハードウェア業界の採用は停滞が続いており、営業職を中心に継続した募集を行っているものの、採用には慎重な姿勢だ。ソフトウェア業界では、セキュリティや金融系に特化した人材の募集が続いている。

 秋ごろから採用ニーズは緩やかな上昇傾向にあるが、大手システムインテグレータ(SIer)からの求人は募集要件が高く、積極採用には遠いのが実情だ。一方、下請け案件を受託している企業は、案件増に伴って採用が活性化している。また、ソーシャル市場の好調を受け、インフラエンジニアの需要が高まっている。

 11月以降、医療系・セキュリティ系など、好調なパッケージベンダでは多くの就業決定者が出た。ただし、採用枠は1〜3名程度であり、採用充足による募集終了となるケースが目立った。

自社プロダクト系:iPad/スマートフォン向けサービスの拡大で、求人数が微増

 ハードウェアメーカーの求人ニーズに大きな変化は見られない。恒常的に募集は行っているものの、選考水準が高く、慎重な採用姿勢がうかがえる。エンジニア職よりも営業やコンサルティングなどのセールス系職種の求人が主流であり、医療・官公庁・金融業界への営業経験者をピンポイントで求める傾向が強い。

 ソフトウェアメーカーからの求人は微増。iPadやスマートフォンへのサービス展開を図り、新たにエンジニア募集を開始する企業が増えている。

SIer:製造・流通関連エンジニア職が回復傾向

 好調が続いている金融系(銀行・証券・生損保)や官公庁向け求人のほか、製造・流通関連の開発職でも採用ニーズが回復傾向にある。20代の若手に限っては、選考時にポテンシャルも加味する企業が増えつつある。このため、20代と30代とで、書類選考の通過率に約2倍の差が生じている。

インフラエンジニア:運用設計・運用エンジニアの求人が増え始める

 ネットワークエンジニア、サーバエンジニア職の新規求人は微増程度だが、9〜10月に募集を開始した企業が継続募集しており、求人総数は上向き傾向といえる。Web系企業からの求人が好調なほか、通信キャリアやインターネットデータセンター(IDC)事業者、SIerからの求人も緩やかな増加が続いている。構築・設計経験者の募集が主流ではあるが、運用設計エンジニア、運用エンジニアの募集も少しずつ増え始めている。

ゲーム業界

 ソーシャルゲーム市場をはじめ、採用に積極的な企業が多く、転職マーケットは活況にある。オンラインゲームやソーシャルゲームの台頭によって、ゲーム業界でもWebエンジニアのニーズが高まっており、各社が激しい争奪戦を繰り広げている。

 履歴書・職務経歴書のほか、企画書・ポートフォリオ・ソースコードなどを求める企業が多い。これらをしっかり準備しておくことが転職成功の鍵といえる。

ソーシャルゲーム:職種を問わず積極的な採用が続く。ポテンシャル重視の傾向

 職種を問わず、積極的かつ継続的な採用が行われている。新規募集も多く、市場の活況は衰えを知らない。Web業界、ゲーム業界の双方から人材を募っており、実務経験だけでなくポテンシャルが重視される傾向が強い。

オンラインゲーム:運営職での求人が増加。語学力を重視する企業も

 開発職よりも運営職の求人が目立つ。韓国系企業も多いため、語学力(韓国語・英語)が重視されるケースが少なくない。ディレクター/プロデューサー職では、前月から継続して募集を行っている企業が多い。

コンシューマゲーム:実務経験重視の即戦力層を継続募集

 実務経験を重視した採用が主流であり、ソーシャルゲームやオンラインゲーム企業と比べ、採用する人材の年齢層が高い。30歳前後の即戦力層を求める傾向にあり、プログラマやデザイナー求人が多いのも特徴的だ。

 ディレクター/プロデューサーのポジションでは新規募集は少ないものの、募集終了となるケースは少なく、採用活動を継続している企業が多い。

そのほか

営業関連職

 フラッシュマーケティング事業の新規立ち上げに伴う営業職募集が増えている。首都圏のみならず、大阪・名古屋をはじめとする全国展開を進める企業では、500名以上の大量募集を行っている。営業としての実務経験よりもコミュニケーション能力を重視した若手ポテンシャル層(年収300万〜450万円)の求人が多い。また、これらの人材をとりまとめるリーダー層(年収400万〜500万円)として、店舗・飲食チェーン本部への営業経験者が求められている。

 インターネット広告営業職のニーズは引き続き高く、6カ月間で30名の採用計画を立てている企業もある。このような企業では、学歴・年齢・転職回数のほか、Web業界での就業経験を問うなど、応募条件を絞ることで採用の効率化を図る傾向にあり、職務経歴書に不明点(ブランク期間)がある場合は書類選考不通過とするケースが多い。

 大手ソフトウェアメーカーでは、特定業界にソリューションを提供する部門において、営業職の募集を開始している。ターゲットとなる業界(不動産・金融業界など)への営業経験者をピンポイントで求める傾向にあり、経験・能力によって年収700万〜1000万円以上も狙える。

 一方、システム業界からの営業職募集はいまだ回復が見られず、低迷が続いている。

経理/財務職

 これまでは上場企業、または上場準備に入っている企業からの求人が大半を占めていたが、従業員数が数名〜数十名規模の企業からの経理職募集が見られるようになった。これらの企業は主にソーシャルアプリ開発を主事業としており、エンジニアやクリエイターの募集も積極的に行っている。経理全般だけでなく庶務や総務も担える若年層を求める傾向にある。


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