新しいイーサネット技術、Shortest Path Bridging次世代データセンターを支えるイーサネット(1)(3/3 ページ)

» 2011年07月13日 00時00分 公開
[日野直之日本アバイア株式会社]
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TRILLによるデータセンター間接続

 次に、TRILLでデータセンター間を二重化して構成する場合を考えてみよう。

 TRILLの場合もSPBと同様、データプレーンとコントロールプレーンは分離されており、MACアドレスがあふれる心配はない。

 ただしTRILLでは、データプレーンのフレームは独自のTRILLヘッダが挿入され、イーサネットフレームタイプも独自のものが割り当てられる。このイーサネットフレームタイプがくせ者で、キャリアのサービスによっては、これを見て網を通過させるかどうかを判断している。つまり、イーサネットフレームタイプを書き換える機能がないと、安心してWANを越えられない可能性があり、万全を期すならばダークファイバーを用意する必要があるだろう。

 コントロールプレーンは、TRILLの場合も、IS-ISを利用してショーテストパスを構成していく。ただし、すべてのスイッチノードからツリーを構成するのではなく、スパンニングツリーと同様に、ある1つのノードを「Root Rbridge」と呼ばれるRootとして定め、構成していく。つまり基本的に、網全体でツリーは1つとなる(複数にすることも可能)。

 Known Unicastの扱いはSPBと違い、ツリーに従ってパスを構成し、転送されるわけではない。ルーティングのように、ノードごとにホップバイホップで、各ノードで求めるショーテストパスに従って転送される。

図8 TRILLの動作概要 図8 TRILLの動作概要

 さらにいうとTRILLヘッダは、ルーティングの際のL2ヘッダと同様に、ホップごとに交換される。したがって、ネットワーク全体で決定済みの対称的なパスを選択するSPBと違い、ループ検知の仕組みを入れる必要があり、TRILLヘッダにはTTLのフィールドが備えられている。しかしホップバイホップでパスを求めているため、SPBと異なり、マルチパスの自由度は格段に上がっている。ちなみにSPBではマルチパスは16までである。

 Unknown Unicastは、TRILLでは先ほどのRoot RBridgeからのツリーに従って転送される。つまり、Known UnicastとUnknown Unicastでは、同じノードを行き先とした場合でも、経路が違ってくるのである。

 また、Unknown Unicastを減らすために、ESADIという仕組みを取り入れて、ノードのMACアドレスの学習情報を交換している。これらは、既存のイーサネットには必要なかった動作や仕組みである。

データセンターの分散化に効く仕組み

 このように、SPBやTRILLをエンドツーエンドで利用できる場面であれば、マルチパスで冗長性を持ったブリッジネットワークが、WANを越えていけることが理解いただけたと思う。

マルチパス対応 キャリア網を利用可能か 網内でのMACアドレス数
STP なし STPを透過をしない場合もあり
MST なし STPを透過をしない場合もあり
LAG あり ブラックホールに注意
きょう体またぎのLAG あり ブラックホールに注意
VPLS あり MPLS TAGが網を透過するか確認が必要
MTUに注意
少ない
TRILL あり TRILL Header が網を透過するか確認が必要
MTUに注意
少ない
SPB あり MTUに注意 少ない
表1データセンターを接続する各技術の比較

 しかし現実には、マルチパスのネットワークと、既存のSTPを利用したネットワークとを接続していくことが必要になる場面が多いと思われる。その際に注意しなければならないのが、マルチパスの利点を生かしたまま、既存のネットワークと接続可能かどうかという点だ。結局、既存のSTPを利用したデータセンターネットワークとマルチパス対応したネットワークの接続点に、きょう体をまたいでのリンクアグリゲーションが動作する機器を設置することも重要になってくる。

 SPBは、仮想化に対応したイーサネット技術として登場してきたはずなのだが、レイヤ2マルチパスを容易に実現できることから、データセンターの分散化、つまり「データセンターインターコネクト」にも適用できる技術であることが理解いただけたと思う。

 しかしそもそも、現在のデータセンターの分散化を支えているのは仮想化技術である。サーバ仮想化が容易に実現可能になったおかげで、容易にデータセンターを分散化できるようになったわけだ。つまり、仮想化に対応したデータセンターインターコネクトを容易に実現できるという点でも、SPBは仮想化やクラウドにとって非常に重要な技術なのである。

 次回は、データセンターを結ぶ、冗長性のあるレイヤ2ネットワークを構築した時のVLANのプロビジョニングや仮想サーバとの連携を踏まえ、SPBとTRILLの運用を比較検討してみたい。


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