連載
» 2011年12月22日 00時00分 公開

OSSコミュニティの“中の人”(1):貢献者に貢献せよ――The Linux Foundationジャパンディレクタに聞く【前編】 (1/2)

「OSSコミュニティに参加したいけれど、どうしたらいいか分からない」「中が見えにくいので不安」……OSSコミュニティの“中の人”へインタビューし、OSSコミュニティをもっと身近に感じてほしい。

[深見嘉明,慶應義塾大学大学院]

本連載の目的:「コミュニティの中の人を知り、コミュニティを知る」

 最近、スキルアップのために、イベントや勉強会に参加しているエンジニアが増えているように思います。今や「エンジニアとしてのスキルアップや人脈形成には、コミュニティに関わることが必須」という意見すらあるほどです。

 一方でこんな声も聞きます。「コミュニティに興味はあるけれど、参加するのはハードルが高い……」

 本連載は、そんなエンジニアのための企画です。さまざまなコミュニティ運営に関わるキーパーソンへのインタビューを通じて、コミュニティの「見えにくい」「分からない」「不安」を解消し、コミュニティに参加しているエンジニアやコミュニティに参加したいエンジニアの一助となればと思っています。

 今回は、The Linux Foundationのジャパンディレクタ 福安徳晃氏にお話をうかがいました。The Linux Foundationはどんな組織なのか、Linuxのエコシステムはどのような構造となっているのか、コミュニティとの付き合いはエンジニアのキャリアにどう影響を与えるのか――盛りだくさんのインタビューをお楽しみください。

The Linux Foundationってどんな組織?

深見 まずはThe Linux Foundationがどんな組織なのか、概要を教えていただけますか。

福安徳晃氏 he Linux Foundation
ジャパンディレクタ 福安徳晃氏
T

福安 The Linux Foundationは、Linuxがさまざまな脅威から守られ、成長していくためのもろもろの活動をする存在です。活動の一環として、リーナス(リーナス・トーバルズ。Linuxの創始者)やコアメンバーを雇用して、彼らが中立的な立場で開発を続けられる環境を整えています。また、コミュニティが成長していくためには、より多くのディベロッパに参加してもらう必要があります。そのためのプロモーションやイベントの開催、Webでの情報提供などを行っています。

深見 Linuxはコアカーネルをはじめとして、ファイルシステムやデスクトップ環境など、細分化した開発者コミュニティによって、エコシステムが形成されています。それら全体を支援するということですか?

福安 The Linux Foundationが行うのは、基本的にはカーネルコミュニティの支援です。kernel.orgやLKML(the Linux Kernel Mailing List)は私たちがメンテナンスしています。

深見 拠点は世界にいくつありますか?

福安 拠点があるのは、アメリカと日本です。

深見 Linuxといえば、リーナスの出身地である北欧のイメージが強いですが、北欧に拠点はないのですか?

福安 ありません。

深見 世界に2つしかない拠点の1つが日本にあるのですか! それはすごいですね。

福安 そうですね。The Linux Foundationは基本的に、企業のスポンサーシップによって成り立っています。スポンサー企業がどこにいるかで、ロケーションも変わってくるというわけです。

Linuxのエコシステムの中でも、カーネルに近い部分を支援する

深見 Linuxの場合、何層もレイヤが分かれていて、コアカーネルが見えにくい部分があるように思います。コアカーネルの開発をどのような形で進め、どのような形で応用分野に波及していくのでしょうか。

福安 確かに、「カーネルコミュニティは誰が何をやってるんだろう」と思いますよね。カーネルコミュニティを知らない人は、「ギークたちがホビーで作っている」という姿をひょっとして想像しているのでは、と思います。というか、私自身がそう思っていました(笑)。

 ですが実は、カーネルコミュニティで開発するディベロッパの80%以上は、実は企業勤めの開発者なんですね。ですから、誰が開発をしているかと聞かれたら「企業に在籍するディベロッパが、所属する企業のニーズに応じて開発している」と答えるようにしています。

深見 企業に所属するエンジニアたちは、それぞれ自社製品のソフトウェアやハードウェアを開発しているでしょう。そのようなエンジニアが、コアカーネルの開発活動にコミットしているのはなぜでしょうか。

福安 「Linuxはただで使えます」といっても、カーネルがそのままビジネスにジャストフィットすることは、まず間違いなくありません。この機能が足りないだとか、性能が出ないだとか、自分たちが必要とするデバイスのドライバが入っていないだとか、いろいろ足りないものがあるわけです。

 自分たちのビジネスに足りないものを、コミュニティに自ら入っていって作っていく。企業がコミュニティの中で行っているのは、こういう活動です。コアカーネルの80%が企業に所属するエンジニアによって行われている、という状況はこうした背景が積み重なった結果なんです。

深見 なるほど。

福安 私たちがサポートしているのはカーネルコミュニティです。ただ、カーネルだけではLinuxは成立しません。なので、そこに密接に関わっているいろんな技術分野やワーキンググループも支援しています。具体的には、TizenのようなモバイルプラットフォームのプロジェクトやYoctoのような組み込み用のツールを作っているプロジェクトなどが挙げられます。

 また、権利処理に関するコアカーネルプロジェクトも支援しています。Linuxのエコシステムの中でも、カーネルに近い部分を支援していると言っていいでしょう。

ディストリビューションとコミュニティの関係

深見 私はこれまでThe Linux Foundationは、各ディストリビューションの偉い人が話し合っている場なのかと思っていました。

福安 それは違いますね。ディストリビューションだけではなく、ハードウェアベンダや半導体メーカーなどの企業によるコントリビューションが実は多いので、そうした企業がたくさんThe Linux Foundationのメンバーとして参加しています。

筆者 筆者

深見 ディストリビューションとカーネルコミュニティの関係性は、どのようなものなのでしょうか。

福安 レッドハットを例に挙げましょう。彼らは、自身製品がIBMや日立、NECのサーバで使われ続けていかなければならないですよね。そうなると、新しいバージョンがリリースされた時点で、さまざまなハードウェアへの準備が万端でなければなりません。そのためには企業側で、機能追加や性能アップなどをやっておく必要があります。

 その開発をアップストリーム(注:Linuxなどのオープンソースのコミュニティが開発・メンテナンスをしているソースコードのこと。ディストリビューションは、カーネルコミュニティだけではなく多くのオープンソースコミュニティが開発したコンポーネントを組み合わせたパッケージ)コミュニティでやっています。カーネル開発コミュニティに対して貢献し、それをダウンストリーム(注:オープンソースのコードを持ってきて、ディストリビューションのパッケージに取り込むこと)してきてディストリビューションを作るのです。

深見 ディストリビューション、ハードウェアベンダ、半導体ベンダなども、カーネル開発コミュニティに人を送り込み、一緒に開発するところから関わっているということですね。

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