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» 2012年01月17日 00時00分 公開

OSSコミュニティの“中の人”(2):課題意識を持てばLinuxコミュニティへの道は開く――The Linux Foundationジャパンディレクタに聞く【後編】 (1/2)

「OSSコミュニティに参加したいけれど、どうしたらいいか分からない」「中が見えにくいので不安」……OSSコミュニティの“中の人”へインタビューし、OSSコミュニティをもっと身近に感じてほしい。

[深見嘉明,慶應義塾大学大学院]

 The Linux Foundationジャパンディレクタ福安徳晃氏へのインタビュー、後編です。前編では、The Linux Foudationの活動内容、Linuxのエコシステムをメインテーマとして扱いました。

 後編では、OSSコミュニティに関わることがエンジニアのキャリア形成にどのような影響を与えるか、またLinuxコミュニティに貢献するための第一歩についてお話をうかがいました。コミュニティ活動に興味のあるエンジニアの皆さんへの熱いメッセージをお届けします。

Foundationのスタッフになったきっかけ

深見 そもそも、福安さんがジャパンディレクタになったきっかけとは何だったのですか。

福安徳晃氏 The Linux Foundation
ジャパンディレクタ 福安徳晃氏

福安 私は以前、ターボリナックスという会社で、海外事業の責任者としてLinuxのビジネスに関わっていました。ジャパンディレクタにならないかと声がかかったのは、その頃です。おそらく「Linuxと英語、そしてインターナショナルのビジネスが分かる人」ということで私に白羽の矢が立ったのではと思いますが、実際のところは私自身、よく分かっていなかったりします。

深見 ビジネスとしてLinuxに関わる立場から、The Linux Foundationというコミュニティを支援する立場に変わるのは、かなり思い切った決断だったのではないでしょうか。

福安 それがそうでもないんですよ。1つの企業のために働くより、もっと世の中全体のために働きたいと、以前から思っていたのです。国際政治を勉強していた大学生時代には、国連などの国際機関に入って、世の中のために働ければと思っていました。卒業後は日立製作所に就職しましたが、やはり「世の中のために自分ができることがあればやりたい」という気持ちはずっと持っていました。

 The Linux Foundationのジャパンディレクタは、まさに“世の中のために働ける”機会です。だから、話をいただいた時は「ついに自分がやりたかった仕事ができるチャンス」と思いましたね。ジャパンディレクタへの就任は、大きなチャレンジというよりはむしろ、「ようやくやりたかった仕事にめぐり会えた」という感じでした。

「使う」から「作る」へ移ることのメリット

深見 福安さんはジャパンディレクタになることで、大きなキャリアチェンジがあったのですね。OSSコミュニティへの参加は、「使う立場から作る立場」へのチェンジだと思います。コミュニティに参加することは、エンジニアの仕事やキャリアパスにメリットを与えるでしょうか。

福安 間違いなく、キャリアにはプラスに働くでしょう。例えば、カーネルコミュニティでの開発に参加すれば絶対、有名になりますよ。カーネルコミュニティは、世界中のLinux開発者のトップが集まる場所なので、優秀な貢献者の活躍は日本や海外のさまざまな企業がウオッチしています。開発に貢献していれば、就職や転職に有利に働くのはもちろんのこと、フリーランスのコンサルティングなど、さまざまな道が開けるでしょう。

課題意識を持つことがOSSコミュニティへの第一歩

深見 「コミュニティに参加たい」「コントリビューションしたい」人は、どういった形で活動に入っていけばよいでしょうか。

福安 まずは「課題意識を持つ」ことです。Linuxを使っていて「自分はこういう課題を感じている」「ここをこうしたい」という課題意識を持つことが最初の一歩です。

深見 なるほど。何か具体的な行動を起こすのではなく、まずは自分の方で課題意識を持つことが重要だと。自分が困っている事柄をきちんと特定し、仕様のうちどの部分がネックになっているのかをきちんと見つけるということですか?

福安 そうですね。こういうと簡単に聞こえますが、実は「特定の課題を持つ」ということは重要で、かつ最も難しいことだと思います。

 「カーネルコミュニティの開発に参加したいけれど、現状はしていない」という人に「なぜできないのか」というアンケートを取ったとしたら、おそらく一番多い回答は「何をやったらいいか分からない」だと思います。やり方が分からないのではなく、その前段階の「何をやればいいのか」が分からない。課題意識を持つということは、大変なことなのです。

深見 むしろ、課題さえ特定できれば、どのような提案をすればいいか、具体的な方法や内容はおのずから分かるということですか。

福安 そうですね。自分が興味のある分野を調べていけば、自然と自分の目的に合った活動を見つけられると思います。それは開発プロジェクトのコミュニティやThe Linux Foundationのワーキンググループかもしれませんし、もしかしたら勉強会やユーザー会かもしれません。

 コミュニティに参加する方法は1つではないし、その方法は課題意識によって人それぞれだと思うんです。問題意識さえ持っていれば、手段を見つけるのはそれほど難しいことではないですよ。

ハードルが高いと感じるならまずはイベントへ

深見 「まずは課題意識から」というお話を掘り下げます。Linuxを業務やプライベートで使っていれば、いずれ何らかの課題意識を持つのでは、と思います。ただ、その課題意識を外に“発信する”ことのハードルが、日本の場合は特に高くなっている気がします。

福安 確かに。カーネルコミュニティはオープンなので、誰でも開発に参加しようと思えばできます。とはいえ、日本人の場合、言語の壁や、オンライン上での議論に対するアレルギー反応があるなあとは思いますね。

深見 分かる気がします。ハードルが高いと感じる人は、どうすればいいでしょうか。

福安 The Linux Foundationが提供するイベントに参加してみるといいのではないでしょうか。実際にコミュニティのリーダーたちと、オフラインで名刺交換をするなり一緒に写真を撮るなりして仲良くなって、あらかじめ自分の思いの丈を話しておけば、オンラインの世界に入っていきやすいと思います。

深見 イベントに行くと、有名な人がぷらっと歩いていたりするんですか?

福安 ぷらっと歩いていますよ(笑)。リーナスもぷらっと歩いてますしね。今年は、イベントで配布した赤いTシャツを着ながら歩いてました。

深見 面識がない人でも、リーナス相手に名刺交換ができるんですか?

福安 ガッツのある人はしていましたね。

皆「ナイスガイ」です

深見 なるほど。そういうお話を聞くと、Linuxコミュニティの人々はカジュアルに迎えてくれる印象を受けますね。

福安 そうですよ。安定版のカーネルをメンテナンスしているグレッグ・クロア=ハートマンはとてもフランクな人柄で、「パッチはいつでもウェルカム! いつでも俺のところに持ってこい!」という感じですね。彼は体が大きいし、ちょっとコワモテなので、私も最初は“話し掛けたら怒られるんじゃないか”とびくびくしていました。でも、実際は話してみるとナイスガイなんです。2010年のCollaboration Summitで、挨拶と名刺交換をした後、1人でごはんを食べていたらグレッグがささっと寄ってきました。一緒のテーブルで、Linuxとは全然関係ない話をたくさんしましたね。

深見 結局、「ちゃんとふところに入っていけるか」なんですね。

福安 そうですね。もっとシンプルに言えば、怖がらずにちゃんと挨拶ができるかどうかだと思います。怖そうに見えても、実際に怖い人はそうそういないです。

深見 そもそも、「皆で一緒に作って貢献しよう」というコミュニティの人ですからね。

福安 そうなんです。だから、性善説を信じて、仲良くすればいいと思いますよ。ちょっとした勇気で、ネットワークはどんどん広がるのですから。

英語が苦手でも、最終的にはコードで会話できる

深見 イベントに参加すればいいというアドバイスをいただきましたが、ここで「言語の壁」についてお話を聞かせてください。

 LinuxConはすべて英語で行われます。日本人は「きれいな英語が話せなければ駄目」という先入観を持っていて、せっかく会場に足を運んでも話を聞くだけの人が多いと思います。やはりここは躊躇(ちゅうちょ)せずに……。

福安 躊躇しない方がいいですね。

深見 気軽に話し掛けると、いいことがありますか。

福安 いいことがあります、間違いなく! そもそも、アメリカの企業で働いているカーネルディベロッパのうち、英語のネイティブトーカーでない人は多いように思います。そもそも、リーナスはフィンランド人なので、英語のネイティブではありません。リーナスの片腕であるアンドリュー・モートンはネイティブですが、今年LinuxCon Japanに来ていたダーク・ホーンデールはドイツ人です。

 実際にアメリカで英語を使って仕事をしているけれど、英語ネイティブでない人はたくさんいます。インドや中国などのアジア出身の人だってかなり多いです。だから臆せずに、英語で話をしにきてほしいですね。

深見 勇気を持って、英語でチャレンジしてきてほしいと。

福安 Linuxコミュニティに参加するには、「英語コミュニケーションの文化圏で、信頼感を醸成できる人」であることが求められます。ただ、英語といっても「流ちょうに話せる」必要はありません。重要なのは、「自分が言いたいことを相手に伝えられる」ことです。

 結局、エンジニアは最終的にコードで会話できるわけです。だから、思ったよりハードルは低いと思いますよ。イベントなどでの対面コミュニケーションの場合、重要なのは「目を見て、笑顔で話せているか」です。仲良くなるために大事ですよ、笑顔は。

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