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» 2012年03月08日 00時00分 公開

被災地支援がエンジニアに突きつけた課題とは:ボランティアインフォの取り組みに見るエンジニアの役割

[高橋睦美,@IT]

 東日本大震災から1年が経とうとしている。被災地と、支援を行おうと考えているボランティアの人々をつなぎ、情報を提供することを目的にデータ提供を行ってきた「助けあいジャパン ボランティア情報ステーション」(ボランティアインフォ、VIS)。そのコンセプトと取り組みを基に、「ITエンジニアができること」について考察したい。

あえてエンドユーザー向けの「面」は持たない

助けあいジャパン ボランティア情報ステーションのデータベース開発に携わった澤村正樹氏(NTTレゾナント)

 VISは当初、ボランティア情報のまとめに特化した「災害ボランティア情報」というWiki形式のサイトとして、2011年3月15日にスタートした。その後、被災地支援の動きが活発化、多様化する中、「Webサービス各社に対するボランティア情報の提供」に役割を絞り、gooやYahoo! Japan、@niftyといった国内大手ポータルサイト、そして「助けあいジャパン」や「sinsai.info」といったボランティアベースのサイトに情報を提供してきた。

 VISは、あえてエンドユーザー向けの「面」を持たず、黒子としてバックエンドでの情報集約/提供に特化した。そのデータベースも、技術的に何か突き抜けた要素があったわけではない。XMLをベースにしたごく単純なものだったと、開発に携わった澤村正樹氏(NTTレゾナント サーチ事業部 サービス企画部門 ソフトウェアエンジニア)は述べる。だがそれゆえに、実際に「使われる」サービスになったという。

 「僕らの活動はあまり知られていないけれど、確実にいろんな人に使われています。ヤフーの方が被災地に行ったとき、『おかげで、たくさんボランティアの方に来ていただいています』という言葉をいただいたそうです。つまり、ボランティアインフォのデータを使ってもらっていることは間違いありません。どうやって『使われる』サービスを作るかを考えた成果だと思います」(VISプロジェクトのリーダー、プロデューサー役を務めたNTTレゾナント 藤代裕之氏)。

 そのユニークな取り組みは、「スパイクスアジア広告祭 2011」のメディア部門銅賞を受賞している。

迅速、柔軟を旨としたシンプルなシステム

ブログ「ガ島通信」などでも知られる藤代裕之氏

 VISでは、各地の社会福祉協議会や、被災地で活動しているNGOやNPOが収集したボランティア募集情報を収集。学生ボランティアの手でデータベースに入力し、その情報をRSS/XML形式で公開している。

 システムの核となるデータベースは、澤村氏が一から開発した。「『面』を持たないと決めた時点で役割がはっきりしました。シンプルに入力できること、また、刻々と変化する状況に応じてフレキシブルに対応できることをポリシーに開発しました」(同氏)。出来上がったのは、テキストフィールドが1つだけという、ごくごくシンプルなデータベースにAPIを載せただけのものだった。

 「データベースを開発するとなると、通常は、まず仕様を詰めてスキームを決め……となりますが、今回はそんな状況ではありませんでした。一刻も早く使えるものが必要でしたから、情報の形式を洗い出しながらデータベースの形もフレキシブルに決められるように、と考えました」(澤村氏)。

 夜、有志によるミーティングから一晩のうちに、Herokuを用いてRubyで実装したという。「クラウドサービスのHerokuを使ったのですが、とても助かりました。サーバを持ってきてセットアップを行って……という手間が発生せず、一晩で、テスト環境ではなく本番環境を動かすことができました」(澤村氏)。

 このスピードには藤代氏も驚いたという。「一刻も早く手助けしたかったので、すぐに手を動かせるエンジニアが必要でした。その期待に応えて、ものすごいスピードで開発してくれたことに感動しました。すぐに入力を始めて、すぐに試すことができるというのは、チームのモチベーション維持という意味でも助かりました」(藤代氏)。

ITエンジニアのコラボレーションを!

 VISという取り組みは、「何をして、何をしないか」を明確に描いたプロデューサー役の藤代氏と、問題意識を共有して迅速に手を動かしたエンジニアの澤村氏が二人三脚となり、さらに、情報の入力作業を担う学生や実際に現地を回るボランティアの人々からなるチームがあってこそ実現できたと両氏はいう。

 「『このチームではボランティア情報を入力して蓄積する。あとは人に任せる』という具合に、やることと、やらないことを明確に区切っていったのでやりやすかったです」(澤村氏)。

 藤代氏は逆に、技術のみに目を奪われず、「いかに迅速に役に立つものを作るか」という問題意識を共有して開発を進めた澤村氏に感謝しているという。「高度でクオリティの高いものを作るのがすごいのではなく、世の中の役に立って使われるものを作るのがエンジニアだと思うんです。それを澤村はやってくれた」(藤代氏)。

 ただ、これまでの活動を振り返ると、「十分できたなんて、口が裂けても言えません」と藤代氏。もっともっとやれることがあったという。

 「エンジニアだけでやれることは限られている。企画側にできるのも構想することだけで、できることは限られている。企画側にもエンジニア側にも、どうやって多様な人とコラボレーションしてITを生かすのかという考え方があれば、もっとたくさんいろんなことができたと思うんです」(藤代氏)。

 その藤代氏が悔しいというのは、被災地から「ITは使えない」と言われることだという。震災以来、多くのエンジニアが労力を注ぎ、支援のためにさまざまなサービスやツールを開発してきた。役立ったものがあった一方で、システムの押し付けとなり、使われなくなってしまったものもある。

 「これは、日本のITエンジニアが突きつけられている問題だと思うんです。でも、それに向き合ってほしいんですよね。いまからでも被災地に行って、どうやって支援できるのか、一緒にやれるのかを考え、自分でできない部分があればプロデューサーと組むなど、いろいろやりようはあると思うんです」(藤代氏)。

 「コードを書けない」という藤代氏から見れば、エンジニアは「タレント」だ。中には、セルフプロデュースできるタレントもいるが、できれば自分に合う人、伸ばしてくれる人を見付けてどんどんコラボレーションしてほしいという。

 「あらためて、日本のエンジニアには腕の立つ人がいっぱいいると思いました。でも、プロデューサー的観点からいうと、もっともっと多くのエンジニアにチャンスをつかんでもらいたかった。それを提供するのがプロデューサーの仕事ですが、十分にできなかったという意味で申し訳なかったと思います」(同氏)。

 今後も、被災地と助ける人をどのようにつなげていくかに取り組んでいくという両氏。3月2日には、VISのデータベース構築を行ったメンバーが中心となり、新たなボランティアつなぎサービス「skillstock」のβ版を公開した。

 skillstockは、個々人のスキルに最適なボランティア情報を表示するサービスだ。Facebookと連携しており、ログインして自分ができることを押すだけで登録でき、それに応じたボランティア情報が表示される。支援フェーズが変化し、大小さまざまなスキルを持った人の支援が必要になっていることを踏まえ、一人でも多くの参加促進と個人スキルとのマッチングを目指すものだという。

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