「うわ……私の支出、高すぎ?」転職時に知るべき支出のことお茶でも飲みながら会計入門(69)

意外と知られていない会計の知識。元ITエンジニアの吉田延史氏が、会計用語や事象をシンプルに解説します。お仕事の合間や、ティータイムなど、すき間時間を利用して会計を気軽に学んでいただければと思います。

» 2012年05月25日 00時00分 公開
[吉田延史公認会計士]

本連載の趣旨について、詳しくは「ITエンジニアになぜ会計は必要なのか」をご覧ください。


今回のテーマ:転職時に発生する支出

  「転職後の支出について、どんなことに気を付けておけばいいですか?」

 先日、知り合いのITエンジニアからこんな質問を受けました。私もネットワークエンジニアとしての仕事を辞める時、不安があり、かつ次から次へとやってくる案内に「えっこんなに……!?」と恐れおののいた経験があります(詳細は記事の最後を参照)。

 そこで今回は、転職する時に気にすべきお金のことについて解説します。

 退職後すぐに次の職場で働く場合には、大抵の場合、大きな支出は発生しません。しかし、退職後に就職先を探す場合や資格取得を目指す場合など、次の職場で勤めるまでに空白期間が生じる場合もあります。以下では、その期間にどのような支出が発生するかを解説します。

【1】気にすべき「社会保険料」のこと

 退職後に発生する可能性がある支出は、給与明細の控除項目をみれば分かります。給与明細の見方で用いた例を再び用いて、控除項目を1つずつ見ていきましょう。

控除項目 健康保険 厚生年金保険 雇用保険 源泉対象額
  1,480 20,994 1,680 249,046
  所得税 住民税 控除計  
  6,400 15,000 55,554  

 まずは、社会保険料です。健康保険厚生年金保険に注目します。

●健康保険

 健康保険は、医療費が3割負担で済む制度で、国民全員が加入する必要があります。会社員は、企業が所属する健保組合に保険料を払って、健康保険に加入します。退職後の空白期間は、以下の3通りの方法により、健康保険に加入します。

  1. 家族の扶養に入る
    同居している家族がいて、家族の収入で生計を維持していく場合には、家族の扶養に入ることができます。この場合、退職者自身の支出はありません。
  2. 国民健康保険に加入する
    家族の扶養に入れない場合には、地方自治体が運営する国民健康保険に加入するのが一般的です。保険料は、住んでいる地域によって異なります。
    ※詳しくは第67回「企業エンジニアとフリーエンジニアの社会保険料を比較する」参照。
  3. 任意継続制度を利用する
    退職前の健保組合の加入を、2年間継続することもできます。勤めている間は、健康保険料は企業が半分負担してくれていますが、退職後は全額自分が負担することになるため、給与控除金額の2倍の支出が毎月、発生します(例の場合、1万1480円×2=2万2960円)。

●厚生年金保険

 次は厚生年金保険です。厚生年金保険は、退職後65才から年金を受け取ることができる制度です。会社員は、国の運営する日本年金機構に加入します。退職後の空白期間は、会社員以外の人を対象とする国民年金制度に加入します。加入方法は、以下の2通りが有力です。

  1. 保険料支払不要の第3号被保険者となる
    夫や妻が、会社員であり厚生年金保険等に加入している場合には、第3号被保険者になることができます。この場合には、保険料の支払が不要です。
  2. 保険料支払が必要な第1号被保険者となる
    第67回でも解説した、国民年金の加入方法です。毎月1万5020円の支払が必要です。

【2】気にすべき税金のこと

 次は税金です。会社員が納める税金には、所得税と住民税があります。

●所得税

 企業勤め時代は、1月〜12月までの1年間で発生した所得について、月割りで概算額を給与から天引きします。

 退職した場合、翌年3月には実際の給与所得をもとに天引額を精算し、確定申告する必要があります。ただし基本的には、源泉徴収により払っている税額で、年税額がまかなえるはずです。

●住民税

 企業勤め時代は、昨年1月〜12月の1年間を所得を基に、月割りで給与から天引きします。「昨年」というところに注目してください。つまり、所得税と比べると、納付時期が1年ずれるのです。

 そのため、退職して収入がなくなったとしても、前年の所得に応じて税金を支払う必要があります。給与明細の住民税の金額分(例では1万5000円/月)を支払う必要があります(実際には、毎月払うわけではなく何カ月分かをまとめて支払います)。

【3】 気にすべき雇用保険のこと

 ここまで、支払いばかりを見てきましたが、収入についても考えておく必要があります。

 会社員は、労働保険に加入しています。そのため、退職時には「求職中で、すぐに働くことができる」といった条件を満たすことにより、失業給付金を受けることができます。

 退職までの給与や勤続年数などで変わってきますが、給与の50%〜80%の金額が3〜4カ月支給されます(退職理由によっては、すぐに給付されるとは限りません)。

【4】 ちなみに吉田の場合

 私は元ネットワークエンジニアで、公認会計士の試験を受けるために会社を辞めました(詳しくはこちらを参照)。

 退職した時には、およそ1年の空白期間がありました。その時の支払いは、以下のようなものでした。

  • 健康保険:1人暮らしだったため、任意継続制度を利用=年間約26万円
  • 国民年金保険:当時独身だったため、保険料支払いが必要な第1号被保険者になる=年間約17万円
  • 住民税:年間約21万円納付

 当時は、社会保険や税金の仕組みについてまったく理解していなかったため、次々に襲来する納付案内をみて、呆然としたものです。皆さんはそうならないように、ぜひお気を付けください。

 さて、今回は転職時の空白期間におけ収入・支出について見てきました。社会保険・税金の制度はなかなか複雑なので、自分の状況に合致しているところから確認するといいでしょう。それではまた。

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ISBN-10: 4844331485
ISBN-13: 978-4844331483
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筆者紹介

吉田延史(よしだのぶふみ)

京都生まれ。京都大学理学部卒業後、コンピュータの世界に興味を持ち、オービックにネットワークエンジニアとして入社。その後、公認会計士を志し同社を退社。2007年、会計士試験合格。仰星監査法人に入所し現在に至る。共著に「会社経理実務辞典」(日本実業出版社)がある。

イラスト:Ayumi



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