グリーvs.DeNAの釣りゲー訴訟の争点をまとめてみた――「似ている/いない」の判断基準元コンサル弁護士のIT業界・事件簿(3)(2/2 ページ)

» 2012年09月12日 00時00分 公開
[伊藤雅浩弁護士]
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「表現」と「アイデア」は何が違うのか

 要するに、2つの作品が「似ている」といっても、それが「アイデアが共通する」「創作的でない部分が似ている」というだけでは著作権侵害にはなりません。「創作性がある表現」について似ていて初めて「著作権侵害」となります。

 そうなると、どこからどこまでが「表現」で、どこからどこまでが「アイデア」なのか、という区別が非常に重要です。

※「創作性がある/ない」というのも著作権紛争では頻出する問題ですが、ここでは割愛します。

 これは、著作権事件でしばしば生ずる問題ですが、区別の手法は確立していません。

 現職の知財高裁判事である高部裁判官も、「アイデアと表現の境界」は明確ではなく、事案ごとに判断するしかないと述べており(高部眞規子『実務解説 著作権訴訟』p.105)、まさに、本件でも、東京地裁は、三重の同心円を書くことは「具体的な表現だ」としたのに対し、知財高裁は「アイデアにすぎない」としていて、判断が分かれています。

 私個人の意見としては、今回の事件では、知財高裁の判断が妥当だと思います。携帯電話向けのゲームにおいては、表現方法には一定の制約もありますし、釣りゲームに限らず、シューティングゲームにおいても「的」をイメージしたゲームは多数存在しており、両者の共通部分というのは「アイデア」の域を出ないか、あるいは「ありふれた表現」が共通するにすぎないと思われるからです。

プログラムの著作権侵害訴訟もたくさんある

 なお、今回の事件では、「ゲームの画面」の類似性が問題となりましたが、IT分野の著作権紛争といえば、「プログラム」の著作権侵害訴訟も少なくありません。

 ただ、この場合、「……の処理を行う」「……という構造にして実装する」というのは、あくまでアイデアにすぎません。ポイントは、具体的な「表現」として落としこまれたソースコードの共通性がどこまで認められるかという点です。

 従って、プログラムの著作権侵害は、いわゆるデッドコピー以外にはなかなか認められにくいといえます※。

※ゲーム画面のように、誰でも相手方の著作物を入手できるケースと違って、プログラムの場合、相手方のソースコードを入手することは困難であり、外から見える動作だけで著作権侵害を立証することはほぼ不可能です。


今回の訴訟は、ゲーム画面の著作権侵害における判断指標となる?

 この種の問題は、本件に限らず、一審と控訴審で判断が変わるケースも珍しくありません。事前に予測することが困難なので、ビジネス展開が萎縮される懸念もあります。

 ただ、今回の判断が確定すれば、ゲーム画面の著作権侵害の1つの判断指標になるでしょう。なお、ビジネスソフトの画面に関しては、いわゆるサイボウズ事件判決があります(東京地裁2002年9月5日判決)。

サイボウズ事件

2001年、ネオジャパンが開発・販売をしていた「ioffice2000 バージョン2.43」が、サイボウズの「サイボウズoffice2.0」のプログラムや表示画面を複製・改変した結果作成された商品であるとして、サイボウズが著作権侵害でネオジャパンを提訴。2002年9月、東京地裁は著作権侵害を認めなかった。その後、東京高裁で和解が成立している。


 なお、現時点で、グリーは最高裁に上告していますが、最高裁は原則として法律上の争点しか判断しないため、本件事案の性質上、判断が覆る可能性は低いと思われます。

著者紹介

伊藤雅浩

弁護士。内田・鮫島法律事務所に所属。前職では、ITコンサルタントとして、ERPパッケージソフト、サプライチェーンマネジメントシステムの導入企画、設計その他、開発業務に従事。前職でのコンサルティング、システム構築経験を生かし、システム開発に関する一連のリーガル業務、ITベンチャー企業に関するリーガル業務を中心に担当している。


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