Windows 8提供開始、対応アプリ登場は期待できるか?搭載250機種が一斉リリース

マイクロソフトはWindows 8の提供を正式に開始した。Windowsストアもスタートし、いよいよWindows 8プラットフォームが市場投入となる。

» 2012年10月26日 18時57分 公開
[西村賢,@IT]

 マイクロソフトは2012年10月26日、Windows 8の提供を正式に開始した。Windowsストアもスタートし、いよいよWindows 8プラットフォームが市場投入となる。

 同社は発売を記念し、東京・秋葉原で記者会見を開催。日本マイクロソフト代表執行役社長の樋口泰行氏が挨拶し、「オンとオフの両方をカバーする理想的なソリューション」とアピール。Windows 8を搭載するPC/タブレットを提供するパートナー企業各社からも代表らが集まり、報道関係者らにデモンストレーションを披露しつつセレモニーを開催した。

Windows 8提供開始を記念するセレモニーで“デジタルテープカット”を行う各社代表

 昨日25日夜の秋葉原一帯での「前夜祭」に触れて樋口社長は、「(用意した)6000個の紙袋がはけた。全部で1万人ぐらい来ていたのではないか」と手応えを感じていたことに触れ、「社員含めて、これは行けるぞという感触を強めた」と話した。

前日の夜に行われた秋葉原の様子を紹介する樋口社長
会場にズラリと並んだWindows 8搭載機

オンとオフの両方をカバーする理想的ソリューション

 樋口社長に続いて、業務執行役員の藤本恭史氏は口早にWindows 8の魅力をひと通り説明。ログイン周りでは、電源を入れただけで現在時刻やカレンダーが表示されること、テキストベースのパスワードではなく、ユーザーが指定した任意の写真の特定箇所をタッチしていくことでロックを解除する仕組みなどを紹介した。いずれも、従来のWindowsと大きく異なり、リビングで使うことや、タッチUIを意識した設計だ。

 これまでWindows 95以来続いてきたスタートボタンはなくなる。代わりに、“タイル”が並ぶスタート画面が用意される。タイルは個別の位置を入れ替え可能なほか、グループ単位で異動するなど、「スタート画面にアプリを登録し、整理することで、デバイスが自分に使いやすくなっていく」(藤本氏)という。また、メールやニュースなどのアプリのタイルは自動的にバックグラウンドでネットワークに更新情報を取りに行き、常に最新情報を表示するライブタイルの機能も備える。

タイルが並ぶ“スタート画面”。タイルの入れ替えやグループ単位での移動が可能。タイルの中には動的に情報を更新するものもある

 タブレット市場ではライバルとなるiOSやAndroid同様に、メニュー画面は左右にスワイプして広く使うことができるのも特徴だ。ライバルとの違いは、左右へのスワイプをアプリの基本UIとして取り入れている点だ。デモストレーションとして藤本氏は、Windows 8向けに設計されたECサイトの楽天、検索サービスのBing、レシピ検索サービスのクックパッド、地図検索サービスのNavitimeなどのアプリを紹介した。

 Windows 8のスタートと同時にアプリを提供する日経新聞は、従来の紙面イメージをそのままに読めるタイプと、横スクロールで最適化したアプリの2種類を提供。専用に設計されたアプリでは、セマンティックズームと呼ぶ機能にも対応した。セマンティックズームとは特定画面領域を拡大・縮小するズームと異なり、多くのアイテムを扱う写真アルバムなどをイベントごとにまとめて2階層に整理してユーザーに提示する場合などに使える機能だ。

 Androidのインテントのように、ワンクリックでアプリ間でデータを連携する仕組みも備える。デモンストレーションでは、アルバム表示機能から年賀状作成のミクシィ年賀状へと任意の写真を渡してスムーズに年賀状作成ができる流れも紹介していた。

専用に設計されたアプリでは、横スクロールを多用した独特のUIが使える。アプリ間でデータをやり取りする連携機能もある。画面は、閲覧中の記事をシェアするためにメールアプリと連携した例
kabu.comとYahoo! Japanの2つのアプリを並べて利用している例。株取引に必要なグラフなどが美しく表示されている。関連ニュースと突き合わせながら、株取引をするようなシナリオのデモンストレーションだ

Windows 8向け設計の対応アプリは出てくるのか?

 スマートデバイス向けOSという意味では後発となるWindows 8/RTにとって、今後どの程度こうした新機能、新UIを使いこなした対応アプリが登場するかは重要だ。「Windowsは年間1600万台を出荷するプラットフォーム。インストールベースで7000万台が稼働している」(樋口社長)とWindows自体が普及していることがアドバンテージになり得ると示唆し、「今後も数はどんどん伸びる。質の高い人気アプリでは、すでに競合に負けない品揃え」(同)と自信を見せる。

 しかし一方、新プラットフォームのローンチ時にメディア・コンテンツ関係のパートナー企業を巻き込んで対応サービスの頭数を揃えるのは日本マイクロソフトのお家芸だ。例えば2009年5月のIE8のローンチ時には「Webスライス」対応を発表するパートナー企業は多かったが(参考記事:国内でも大手採用で動き、Firefoxでも動く、IE8のWebスライスは普及するか?)、結局その後、Webスライスは普及に至っていない。

 発売セレモニーのデモンストレーションで登場したアプリの多くは、メディア・コンテンツをWindows 8のUIでラップしたタイプのものが多い。サービス・コンテンツ企業にとって特定プラットフォーム向けアプリの開発コストを正当化できるかどうかは、端末の売れ行きにかかっている。ローンチ時は一種の“ご祝儀相場”ともいえ、Windows 8プラットフォームの真価が問われるのはこれからだ。コンテンツの出し先として考えると、むしろ競合するのは汎用性の高いブラウザ・プラットフォームかもしれない。タッチUIを活かしたアプリケーションとして、MetamojiのNote Anytimeをデモンストレーションで紹介していたが、こうしたタイプのアプリは、まだ少数派にも見える。

 マイクロソフトといえども、Windows 8という新プラットフォームの立ち上げでは、いわゆる“ニワトリとタマゴの関係“となり、どの程度のペースで新プラットフォームが普及していくかは未知数だ。日本市場だけで250機種以上のWindows 8搭載製品が発売となるが、このうちARM搭載端末向けのWindows RT搭載機は2種のみ。この点について樋口社長は「ハードウェアの出荷プランはパートナー依存」としてコメントを避けるなど、スマートデバイス市場への新規参入という点でのプラットフォームの立ち上がりの見通しも不透明だ。

 Windows 8はタッチデバイスやタブレット向けとして新UIを搭載すると同時に、従来のWindowsデスクトップが使えるのも特徴の1つだ。「従来のWindowsの資産がある。Officeも動く。Windows 7で動いているアプリはほとんど100%動くというのを目標に開発してきた」(藤本氏)という。新UIではマルチタスクも考慮されていて、画面を左右に二分(実際には左右いずれかが参照用として横幅に差があるため二分ではないが)して作業することも可能だ。

 企業ユーザー向けに提供するWindows 8 Enterpriseは、「企業のネットワークにさまざまなデバイスを持ち込むというBYODのシナリオで用途に応じて導入していただける。混在環境で互換性が高い」(藤本氏)と説明するほか、「企業ユーザーに期待をしていただいているのは、セキュリティと管理のしやすさ」(樋口社長)としている。2014年にサポート期間終了を迎えるWindows XPのリプレースとして、Windows 8が企業ユーザーにどの程度迎え入れられるかどうかもまた、このプラットフォームの成否を握る鍵の1つとなりそうだ。

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