タタミ12畳分の領域を「さあどうぞ、ご自由に」ものになるモノ、ならないモノ(50)(2/2 ページ)

» 2012年11月30日 18時00分 公開
[山崎潤一郎,@IT]
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原点は「一太郎」にあり

 新規ノートを作成すると、図のように何もない紙が1枚表示され、わずかに右上にフローティングツールが1個表示されているだけ。目の前に、「さあ、自由にお書きなさい」と紙を広げられたような感じだ。ここに、MetaMoJiの浮川和宣社長の哲学が表現されている。

新規ノート 新規ノートでは、右上にフローティングツールが1個表示されているだけ。「さあ、自由にお書きなさい」と促されているようだ

 浮川氏には、「画面はすべてユーザーに渡すべき」という持論がある。新規ノートを作ったら、スクリーン上には余計なツールやアイコンを配置しないで、ユーザーが自由に書くための環境を用意する、というわけだ。

 この哲学は、「約30年前にワープロソフト『一太郎』を作ったときから変わっていない」(同氏)。

 「一太郎」も、新規ファイルを作成したら、白い画面にカーソルが点滅しているだけで、ユーザーの文字入力を待っていたそうだ。筆者はPC-98で一太郎ユーザーだったので、懐かしい気持ちでお話を伺ったが、あまりに昔のことなのですっかり忘れていた。とにかく、文章のフォーマットやレイアウトなどの「体裁」は後から考えるとして、まずは、頭に浮かんだ文章を入力しよう! というスタンスなのだ。

デスクの前の壁を出先に持ち出す!?

 NoteAnytimeには写真や図版を貼ることもできる。ならばと試してみたのが、「モバイル版ポストイット貼り壁」。筆者のデスクの前の壁には、メモを記したポストイットがペタペタと貼ってある。壁に貼るだけでなく、メモを書いたその場でiPhoneのカメラで保存用として撮影するようにしている。

「ポストイット貼り壁」をiPadに入れてみる デスク前の壁に貼ったメモ書きしたポストイットをiPadに入れて常時携帯する、というアイデアをNoteAnytimeで実行してみる

 ならばと、撮影したポストイットを冒頭の「12畳ノート」状態に拡大した新規ノートに貼って、デスク前の壁をいつでも持ち歩こうと試みたのが次の図版だ。写真を読み込んで縮小すれば、たくさんのポストイットを貼り付けた“仮想”壁をそのまま出先に持ち出せるというアイデアである。

 ポストイットの並べ替え、注釈の付記、線入れなどもできるので、まさにリアルとバーチャルの融合、アナログとデジタルのコラボだ〜! などと喜んでばかりはいられないことに気付いた。写真をたくさん貼り付けると、動作が重くなるという欠点があるのだ。

 頻繁に利用する場合は、ちょっとばかりストレスを覚悟しなければならないが、たまに見る程度なら耐えられる範囲ではある。まあ、デスク前の壁を持ち歩けるわけだから、贅沢はいうまい。

ポストイットを撮った写真を取り込んで貼り付ける縮小してたくさん並べることも可能 ポストイットを撮った写真を取り込んで貼り付ける。iPadのカメラで撮影してもOK。取り込んだ写真は、縮小すればたくさん並べることも可能

羊皮紙に向かって羽根ペンで写経する修道士気分

 さて、NoteAnytimeのもう1つのこだわりがカリグラフィー文字だ。カリグラフィーとは西洋書道のようなもの。スクリーンの上で適当に指を走らせるだけで、「それっぽい」文字が書けるという優れた機能だ。

 書道のように手で書くこのカリグラフィーの世界は、本来、プロの作家がいるほどアーティスティックなもの。それなのに、適当に書いてもそれっぽくなるのだから恐れ入る。羊皮紙に向かって羽根ペンで写経する修道士にでもなった気分だ。

 この何気なく書いた文字を描画するために、実はその裏側では、膨大な数式計算が行われている。アーティストの技を手軽に再現するためには、CPUにたくさん仕事をしてもらう必要があるというわけだ。

 写真は、カリグラフィーをプログラミングで実現するために、浮川氏が描いたイメージスケッチだ。ボールペンのようなピンポイントの描画点が移動して文字を書くのではなく、長方形のペン先が移動して文字を書く。普通に線を書く場合に比べ、4倍の計算が行われているという。

浮川氏が描いたイメージスケッチ カリグラフィーをプログラミングで実現するために浮川氏が描いたイメージスケッチ
ペン先を自分の好みで設定できる カリグラフィーへのこだわりは、ペン先を自分の好みで設定できるようになっている点からも分かる。この設定機能は、アドオンで450円で販売している

 iPadの能力を最大限引き出しているNoteAnytime、使い込んでいくうちに、タタミ12畳という広大な“敷地”を前に、「あれもできる、こんなこともやってみよう」といろいろなアイデアがわいてくるからうれしくなる。

 ただ、ふと冷静になってみると、本来なら良質なアウトプットを得るための「手段」であるはずのNoteAnytimeだが、あれこれ使い方を発見することが「目的」になってしまっているようで、本末転倒、目的と手段が逆転してNoteAnytimeバカになってしまったのかもしれない……。

著者プロフィール

山崎潤一郎

音楽制作業に従事しインディレーベルを主宰する傍ら、IT系のライターもこなす。大手出版社と組んで電子書籍系アプリもプロデュースしている。ヴィンテージ鍵盤楽器アプリ「Manetron」「Pocket Organ C3B3」の開発者でもある。音楽趣味はプログレ。OneTopi「ヴィンテージ鍵盤楽器」担当。近著に、『心を癒すクラシックの名曲』(ソフトバンク新書)がある。TwitterID: yamasaki9999


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