求人復活を背景に、中堅SIerにキャリアアップ転職転職から見た「ITエンジニアの転機」(1)(1/2 ページ)

ITエンジニアの転職市場が再び活性化している。この機を逃さず転職活動を行い、希望の環境を手に入れたITエンジニアの事例を、キャリアコンサルタントが紹介する。転職による「ITエンジニアの転機」を見ていこう。

» 2013年01月23日 00時00分 公開

 2007年に表面化したサブプライムローン問題、その後2008年9月のいわゆるリーマンショックが引き起こした世界金融危機。日本国内の求人にも大きな影響を及ぼし、有効求人倍率は一時0.42倍まで下落しました。数年にわたって堅調に伸びていたIT業界の求人にも陰りが見え、それまではよく聞かれていた「転職でキャリアアップ」という言葉も、一時は過去のものとなっていました。

 あのリーマンショックから4年余りが経過した今、転職市場ではIT企業が活力を取り戻し、再び求人が増加しています。不況期に業界をけん引してきたソーシャルサービス系や特定のシステムインテグレータ(SIer)、コンサルティング会社だけではなく、大手・中堅SIerやITベンダ、インターネット企業など幅広い層の企業が求人を再開しています。

 有効求人倍率も、最低数値を記録した2009年7月・8月の0.42倍(PDF)に比べ、2012年11月には0.80倍に回復しました。いよいよ、将来のキャリアを見据えた「前向きな転職」が実現できる環境に戻りつつあります。

 本連載では、この機を逃さず課題解決のために転職活動を行い、成功したITエンジニアの事例を紹介したいと思います。

 第1回として、比較的小規模の企業から中堅SIerに転職した2人の事例を取り上げます。

常駐スタイルの就業からの脱却――32歳インフラエンジニアの転職例

インフラエンジニア、笹山さんの悩み

 笹山さん(仮名・32歳)はインフラエンジニアです。10年近い経験を生かし、さらなるキャリアアップを目指したいと考えていました。しかし具体的な方法が分からず、大学時代の友人に相談したところ、人材紹介会社にコンタクトを取ることを勧められました。

 彼は早速人材紹介会社に連絡し、キャリアコンサルタントと面談することにしました。そこで私がお会いすることになったのです。ご来社いただき、まずはこれまでの経験や現状の課題、今後の希望、どういったキャリアアップを意図しているのかを中心にお話を聞くことにしました。

 笹山さんは大学卒業後、中堅のSI企業に新卒で入社して10年近く活躍してきました。メーカーや大手SIerの案件を業務請負や特定派遣の形態で受託し、収益の基盤としている会社です。笹山さんはこれまでストレージ製品を中心に担当し、テクニカルサポートや製品品質検査、拡販支援など幅広い業務経験を積んでいました。入社以来、大手SIerに常駐してきた彼は、技術力を高く評価され、社内のメンバーはもちろん常駐先からも一目置かれる存在となっていました。

 しかし、これだけの高評価を得ている彼にも悩みがありました。「今後のキャリアパスが見えづらい」「現在の職場では、これ以上の成長が期待できないのではないか」と考えていたのです。常駐のパートナー企業という立場で任される仕事の内容に、限界を感じているとのことでした。

希望するキャリアパスの実現が難しい環境

 今後のキャリアパスとして、具体的にどのようなものを描いているのかと聞くと、笹山さんは2つのプランを挙げました。1つ目は、特定の製品やサービスを扱う部門で現在の経験をさらに積み上げ、将来的にマネジメントの道に進むこと、2つ目は、製品知識や拡販支援などの経験を生かし、ユーザーへの提案を行う業務に携わることでした。

 では実際、このプランを現在の職場で実現することは難しいのでしょうか。

 1つ目のプランですが、笹山さんは常駐先でチームリーダーとして、メンバーの管理を行っています。ですがこれ以上のマネジメントは現在の環境では難しく、さらに上のポジションを狙うとすると、複数の顧客を横断的に管理することになるため、希望する製品やサービスから離れてしまう可能性があります。

 2つ目のプランについては、担当案件の変更が必要なので、会社の契約案件の更新時期と、案件が発生するタイミングに依存してしまいます。会社には申し出ているのですが、「この案件から外すわけにはいかない」と取り合ってもらえないとのことでした。

 この状況下で笹山さんが希望をかなえるには、転職が最適な方法であるとも考えられます。

ポテンシャル採用も狙える可能性

 ここで、笹山さんの口から質問が出ました。

 「現職では、希望するキャリアパスの実現が難しそうなことが分かりました。この希望を実現できる企業は存在するのでしょうか。また、私がそのような企業に転職することは可能でしょうか?」

 私は、「可能性は十分あります」と答え、チャレンジすることを勧めました。

 笹山さんは、ストレージを中心とした製品知識、仮想化技術の知識を豊富に持っています。ストレージ仮想化のニーズが高まりつつある中、彼の経験を必要とする企業は比較的多く存在すると考えられました。

 また、転職市場では全般的にITエンジニアの採用活動が活性化しています。少し前までのようなピンポイント採用でなく、ポテンシャルを含めて採用を検討する企業が増えていることが、数々の事例より分かっていたためです。

諦めずに取り組み、転職に成功

 転職活動をしてみようとの笹山さんの決意は固まりました。私は笹山さんの希望を実現できそうな企業として、ハードウェアベンダや大手SIerを中心に20社ほどの候補を抽出しました。そしてその中から5社を選択し、笹山さんを推薦しました。

 間もなく、5社中3社から面接依頼の連絡があり、笹山さんは面接に進むことになりました。

 事前に面接対策を行い、準備は万端だったのですが、結果は3社とも「残念ながらお見送り」となりました。理由は3社同じで、笹山さんの経歴はサポート専門の色が強く、開発の即戦力として迎えるには少し不安があるということでした。

 全力で面接にチャレンジした笹山さんは、3社の不合格がショックで、転職活動を断念しようかとも考えたようです。しかし、求人数が増加しているこのタイミングに賭けてみようと気を取り直し、再度取り組むことにしました。

 今度は、より現実的な選択として中堅のSIerを中心に応募しました。結果は上々で、第1希望と考えていたハードウェアベンダ系のSIerで内定をもらうことができたのです。

 この会社であれば、笹山さんの強みである製品に特化した技術力を生かし、将来は開発案件に関わることで、彼の希望するキャリアパスの実現が見込めます。年収は前職と同等で、給与アップにはなりませんでしたが、当初の目標を達成できる環境を得ることができました。

 一度は転職自体を諦めようと考えた時期がありつつも、思い直して再チャレンジをした結果、勝ち得た成果であると思います。

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