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» 2013年02月04日 16時05分 公開

D89クリップ(58):誰もが研究者の時代? ニコニコ学会βレポート (3/6)

[高須 正和,ウルトラテクノロジスト集団チームラボ]

素朴な願望で研究する 河口信夫(名古屋大学)

 3人目の発表者は名古屋大学河口 信夫先生。「素朴な願望で研究する」をテーマに、ユビキタスコンピューティングについて発表。河口先生はユビキタスな環境を実現するために、プロトコルの設計やデバイスの製作、製品化までを行っている。

研究だけでなく、サービスの商用化も手掛ける河口先生(撮影:石澤ヨージ)

 最初に、センサやコンピュータから、家の照明や家電のオンオフなどあらゆるものがコントロールされる「スマートハウス」の実現に10年以上前から取り組んでいるCogmaプロジェクトを紹介。

  • コンピュータと家電をつなげるデバイス、通信プロトコル
  • 「家のOS」ともいえる、家電にコンピュータからの指示を伝える仕組み
  • 家電にスムーズに指示を出すために、いる場所によって家電への指示の内容が変わる(自分が向いている方向のモニタがつくなど)
  • P-Stick&P-Station:どのPCからも同じプロジェクタを共有するために、それぞれのPCのUSB端子に差し込むだけで、プロジェクタを共有してつなぎ替えられる。実際に商品化されている。
河口先生の研究は実際に製品化されたものも多い

 スマートハウスは、コンピュータを介して人間と家がつながるシステムだが、河口先生はそれと並行して人間と人間をコンピュータでつなげ、遠隔で会議やプレゼン、家庭教師などを行う仕組みも開発している。

 まず18人同時につなげる多地点会議プロトコルX-CASTを紹介。多人数でのビデオ会議は、Google+ハングアウトなどでやっと普及が始まったところだが、河口先生は2006年ころから実際にX-CASTを会議などで使っていて、使ってみたことで生まれたアイデアを基に、さらに研究を発展させている。

 そのうちの1つ、

 “Side-by-Side Assistance:ビデオチャットを利用して家庭教師を行う場合、対面で行うのではなく、横にディスプレイを置くことにより、より効果的に学習支援できる”

 の紹介時には、「時代が追いついたな」「研究段階から10年ぐらいたつと実用に降りてくる」などのコメントも見られた。

遠隔家庭教師システムSide-by-Side Assistance

 さらに多人数でのオンラインコミュニケーションを目指して、「仮想の三次元空間を作り、そこをアバターが動き回って、学会のポスターセッションを行うシステム」を開発、そのことによって生まれた

  • 仮想空間を歩き回る際、ポスター部分だけ画質を上げる
  • 相手がコンピュータの向こうにいても、ポスターのどこの部分を見ているかがトラッキングされ、質問されたときに話題が共有できる

 などの関連研究が紹介された。

知りたい、調べたい、計りたい、実際に利用することで研究が進んでいく

 ユビキタスコンピューティング、スマートハウスなどの実現には、あらゆるものの計測が欠かせない。河口先生の研究室では、多くの計測機器や、取得したデータを面白い形でアウトプットする仕組み、データを共有してより研究を進化させるコンソーシアムづくりなどにも取り組んでいる。

  • Uwmeter:電気を使うあらゆる家電から、電気使用量を無線でリアルタイムに取得し、android端末等で見ることができるスマートメーター。商品化されている
  • 「動き」をスイッチにしていろいろな機械を動かすデバイス(ティッシュを引き抜くと音楽が流れる仕組みなどを簡単につくることができる)
  • スマートフォンの加速度センサを使って人間の行動を記録する
  • HASC:取得した人間の行動に関するデータを集めるコンソーシアム
  • Lockyシリーズ:位置情報を集め、その位置に合わせた情報提示を行ってくれるアプリケーションシリーズ。例えば駅Lockyでは、駅にいると次の電車までの時間を教えてくれる
  • Lisra:位置情報に関する情報を共有するコンソーシアム

 等の研究が紹介されて、河口先生の20連発が終了。

 河口先生の発表からは、思い付きからスタートしたものを、実際に使える形にし、それを使ってみながら進化させていくという課程がうかがえ、未来が地続きでつながっていくのが感じられて、とても興味深かった。

 データの活用や共有の仕組みを作り、広めていくことで、なぜそれが進まないのかという原因や、どういう形ならば多くの人を巻き込めるかについても知見がたまっていくと思われる。Webサービスやスマホアプリとして使えるものも多いので、僕らも気軽に試せるのもうれしい。

 また、寺田先生の研究と同様、実際に社会にユビキタスコンピューティングが導入されつつあるので、研究の知見が社会でどう生かされていくのが見えてきつつある。

日本のFablabの父 田中浩也(慶應大学湘南藤沢キャンパス)

 4人目の発表者は、慶應大学湘南藤沢キャンパス田中浩也先生

 Makerムーブメント、建築、メディアアートなど、多くの専門分野を持つ田中先生らしく、「歩く」「アミニズム」「Fab」シリーズと3つに分けてこれまでの研究や作品を紹介。

エネルギッシュにプレゼンする田中先生

 まず、「歩く」シリーズとして、なんと小学校4年生のときにPC-8801 mkII FRで開発した「Walk in g in Sapporo」というソフトから発表が始まった。今回の発表のために1985年製のプログラムを再度動かして動画を撮影したとのこと。田中研究室のサイトには、札幌市のマイコンアイデアコンテストに何度か入賞した実績が残っていて、田中先生のルーツがマイコン少年にあることがうかがえる。

 このソフトの開発時に、苦労してVRAMへの書き込みを行ったことが、博士論文のPhotoWalkerにつながる。写真を合成して3次元の空間の中に配置し、その中を歩き回るサービスで、その後のGoogle Street ViewやマイクロソフトのPhotosynthの走りになった研究だ。

 「歩く」研究はさらに進化し、GPSや加速度センサをハックして情報を集め、登山の記録をコンピュータ上に描画するGeoWalkerが生まれた。

登山した様子が三次元的に可視化されるGeoWalker

 続いて「アニミズム」シリーズとして、小鳥(ジュウシマツ)の鳴き声をコンピュータが学習し、鳥に返すアート作品 「Call and Response」を紹介。学習したコンピュータ同士を相互作用させることでさらに学習を進めさせ、最終的には学習を重ねたコンピュータを森に戻して、実際の小鳥と対話させるところまでが紹介された。

鳥の鳴き声を学習したコンピュータ同士が会話し、さらに学習を深める

 続いて、

  • 人工的につららをつくる装置
  • 水の中に銀粉を入れて流体の様子を見るアート作品
  • 植物にセンサを配置して、水が足りないとか、気温が低過ぎるなどの植物の状態を可視化させる植木鉢
  • ブログを書く植物
  • 要求を言葉で伝える畑

 などを続々発表。

 「畑にセンサを置くときに、センサを盗まれないように植物に擬態させる」ゴーヤ形センサ、「コーンの触感を持ったコーンスープ缶」などを発表したときには、ニコニコ技術部ともつながるような作品にニコ生のコメントも大絶賛。

ゴーヤに擬態させたセンサ

 そして最後に「Fab」シリーズとして、田中先生が発起人となっているFablab鎌倉などで行われているプロジェクトを紹介。

  • Oto-shigure:傘をさすと音楽が聞こえる、和傘をスピーカー化した作品
  • Fab Tools:編み機の構造を再設計して、板をレーザーカッターで切り出すだけでさまざまなサイズの編み機を作れるようにした
  • 手回し式のNC図形転写装置
  • フードプリンタ:プリンタヘッドの部分からお好み焼きの材料を抽出することで、コンピュータ制御で任意の形にお好み焼きが作れる
  • self assembly:素材そのものに凹凸の形で設計を仕込み、バラバラのパーツを集めて振ると凸凹が組み合わさって完成形になる、自己組織化素材
  • 音の波形データをそのまま形にしたアクセサリー作品

 等々が発表されて20連発は終了。

 田中先生の20連発からは、ハード・ソフト・アート・研究など、田中先生がジャンルを超えてさまざまな作品を作ってきたことがうかがえつつ、全体を貫く「色」が見えて面白い。かつて田中先生にインタビューした際に、一緒につくる人やコミットする人が変わることで、作られる作品もまた変わっていくことについて語っていただいたので、興味がある人は併せて読んでもらいたい。

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