誰もが研究者の時代? ニコニコ学会βレポートD89クリップ(58)(5/6 ページ)

» 2013年02月04日 16時05分 公開
[高須 正和ウルトラテクノロジスト集団チームラボ]

野生の研究者の表現が爆発「研究してみたマッドネス」(第5セッション)

 最後のセッションが「研究してみたマッドネス」である。

 レポートの冒頭でも触れたように、インターネットの普及、特に動画サイトの普及により、世界中から「研究機関の外で行われている、研究と呼べるもの」が登場してきている。それらの担い手を総称してニコニコ学会βでは「野生の研究者」と呼ぶ。そして、そのさまざまな野生の研究者を集めて発表を行うのが「研究してみたマッドネス」である。

 自薦/他薦で登壇候補が推薦され、インターネット上の投票を鑑みながら座長が登壇者を決定し、1人当たり3分で発表する。発表に対して座長と審査員が「野生の研究者大賞」の候補を選び、ニコ生のアンケートにより大賞が選ばれる。登壇も賞の選考もユーザー主体で、「ユーザー参加型」がストレートに現れる、ニコニコ学会βの核と言えるセッションである。「研究100連発」と並んで第1回のニコニコ学会βシンポジウムから続いている。

 今回は第2回ニコニコ学会βの「コメントアート」セッションに登壇したデカこなさん(コメントアート研究会)と永井美智子さん(ドワンゴ)が座長を務め、第1セッションでイグノーベル賞受賞記念講演を行った栗原、塚田の両氏が審査員を務めた。

座長と審査員の皆さん(撮影:石澤ヨージ)

蟲みたいな人工飛行物体

 1人目の発表者は「羽ばたき飛行機製作工房」の高橋祐介さん。

 ニコニコ技術部やMakeではおなじみの「自作羽ばたき式飛行機(オーニソプター)」を発表。大人の科学マガジンの付録に選ばれたり、NHKの番組に登場したこともあったので、見たことがある人もいるかもしれない。

某アニメに登場した 「Flaptter」をモチーフにした羽ばたき飛行機

 歴代の羽ばたき飛行機を紹介した上で、最終的には3Dプリンタで製作した羽ばたき飛行機を会場上空に飛ばすという、大迫力の発表を行った。

ニコファーレに飛行機が羽ばたく!(撮影:石澤ヨージ)

人型アミッドスクリーン・アミドロイド

 2人目の発表者はアミッドPさん。

 第1回の「研究してみたマッドネス」では、VOCALOIDの立体投影を可能にする「アミッドスクリーン」が人気だったが、今回は「アミッドスクリーン」を朗読を対象に進化させた作品を発表。

 音声ソフトには、歌を対象にしたVOCALOIDのほかに、音読を対象にしたVOICEROIDという製品がある。今回はそのVOICEROIDに形を与えた、人の形をした立体スクリーン「アミドロイド」が発表された。ちなみに、アミッドPの本職は文芸学科の先生なので、音読は専門分野と言える。

これが人形(ひとがた)アミッドスクリーン、アミドロイド!

 ちなみにこのアミドロイドの人形枠形は公開されており、枠形に合わせて絵を描くことで、どの絵師さんでもアミドロイドをつくることができる。さらに、VOICEROIDの付属ソフトCrazytalkを利用した、絵を3D化してリップシンクさせる(せりふと口のアニメーションをあわせる)方法なども解説された。

黙読で失われた「声」を取り戻す アミドロイド!(撮影:石澤ヨージ)

 加えて、前回発表したアミッドスクリーンを小型化し、1プロジェクタだけで実現させる、小型のプロジェクションシステムも紹介。3分とは思えない圧巻の発表に会場は沸いた。

1プロジェクタで実現させた小型アミッドスクリーン

咀嚼コミュニケーション:1人ポッキーゲーム

 3番目の発表者はポッキーの人。いきなりポスターの絵をなめ始める迫力満点のオープニングから、「機械とポッキーゲームするコミュニケーションシステム」を発表。

ぺろぺろー(撮影:石澤ヨージ)

 マッドネス感満載だが、実はこれ、実際にエンターテインメントコンピューティング学会等で発表しているれっきとした研究で、「キャラクターとの親密度を上げるシステム」として考案されたものである。

 誰にでも好きなキャラクターはいるし、ポスターなどを所持している人も多いだろうという考えの下に生み出された、「ポスターとポッキーゲームを行えるようにすることで、キャラクターとの親密度を上げよう」という研究だ。

これが1人ポッキーゲームだ!

 メカの前面に、口の部分に穴を開けたポスターを貼り付け、ポッキーを装着。ポスターの向こうでポッキーをサーボモーターがかむことで、キャラクターがポッキーをかんでいる感覚が与えられ、モーターによりポスターが前進してくることで、キャラクターが近づいてくるドキドキ感が表現されている。

 過去に行われた展示では、特に中学生などに大人気だった模様。

ボカロ作品のオリジナル/派生作品の再生数を比べてみたよ

 4人目の発表者は本宮平亮さん。ニコニコ動画内のボカロ作品再生数を、目視と手打ちで集めた力作。

大量のスライドを早口でプレゼンする本宮さん(撮影:石澤ヨージ)

 ニコ動で人気のボカロ曲には、多くの派生作品が作られる。どういう作品から派生作品が生まれて、再生数はどのように伸びているかを計測。今回は2012年の7月からの9カ月間、親作品50と派生作品について調べたデータについて発表した。これからも計測を続け、成果をニコニコ動画にアップしていくとのことで、今後が楽しみな発表である。

2012年夏に派生作品が作られたボカロランキング

 ニコ動内の動画を素材としてデータ分析を行っている研究はかなり多く、過去のシンポジウムでもありらいおんさんグニャラくん等の発表が見られた。

 次回のニコニコ学会でも、データ分析に関するセッションが予定されており、また2013年の1月には、この本宮さんも参加して、第1回ニコニコデータ研究会が行われた。データ分析については今後のニコニコ学会βに向けて拡充されていく予定であり、とても楽しみだ。

電気で食事を変える!電気味覚プロジェクト

 5人目の発表者は中村裕美(あぱぱ)さん。フォークやカップなどに通電させることで食べている最中の食物に電気を流し、食べ物の味を変える研究である。

 食べ物に流す電気は波形で表現できるので、波形データの画像を公開する、波形を音に変換して動画サイトにアップすることなどで、インターネット上で共有することができる。また、波形はプログラムで生成できるので、食べ物の味をコントロールすることができる。今回は塩味をコントロールすることで減塩につなげる可能性について紹介。

電気味覚を発表する中村裕美(あぱぱ)さん(撮影:石澤ヨージ)

 また、通電しているかどうかを検出することで、「まさに食べている瞬間」にアクションを起こす仕掛けを開発できる。例えば「食事中に誰かと手をつなぐと味が変わる」「食べている最中にスピーカーから“もぐもぐ”などの効果音を鳴らす」など、面白い応用や発展が期待できる研究である。

極性によっても電気の味が違う!
通電した魚肉ソーセージを食べる審査員の塚田先生

すね毛剥がしマシン 公開処刑

 6人目の発表者はデイリーポータルZ編集部の石川さん。ステージ上に置かれているのは「すね毛剥がしマシン」。

 これまでデイリーポータルZで作ってきた工作シリーズの1つで、多くの犠牲者を生んでいる。

すね毛剥がしマシンが設置されたサブステージ(撮影:石澤ヨージ)
ガムテープを接着し、マイコン制御で剥がすシンプルな構造(撮影:石澤ヨージ)

 実際にステージ上でデモ動作を行い、「3、2、1」のカウントダウンとともにすね毛剥がしを敢行!

若手研究者によるLive型本紹介イベントhoooon!

 7番目の発表者は松原真倫さん。異分野の若手研究者5名でやっている、本の紹介イベントについて発表。

 イベントでは、4人の異なる分野の研究者が、10冊ずつ本を持参する。それぞれが1冊ずつ本を紹介するのだが、その際に前の人のプレゼン内容を受けて、自分の持って来た本から1冊を選んで紹介しなければならない。紹介が進むと手持ちの本が減ってきて、プレゼン内容を受けるのが難しくなる。

 このとき、即興で前の本につなげる紹介を考えることで、もともと考えていなかった文脈を瞬間的に気付く効果があったり、新しい発見を得られる爽快さがあるという。

hooon!のプレゼンを行う松原さん(撮影:石澤ヨージ)
あるイベントでのつながり。デリダ→ゲーテ→隈研吾とつながる

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