連載
» 2013年06月26日 00時00分 公開

プログラマ社長のコラム「エンジニア、起業のススメ」(2):言葉の壁で守られた市場が、日本の起業家の武器 (2/2)

[Tim Romero(ティム・ロメロ),Engine Yard]
前のページへ 1|2       

海外進出は、いずれ必ず必要になる

 しかし、ぼくがここでいっておきたいのは、この方程式の最後の部分、「積極的に海外進出する」ことは絶対に必要だということだ。最終的に、国際競争の機会は必ず日本にもやってくるのだ。市場を握っているときに得られる大きな利益に満足して立ち止まってしまう新興ベンチャー企業は、たいていの場合、最後に迎える競争の準備を怠っている。

 例えばミクシィの場合、一度は堅調なキャッシュフローと、FacebookやMySpaceよりも豊富な機能を持つ製品を誇っていたが、海外の競合との直接競争を避け、終始海外進出に消極的だったと思う。その結果、海外の競合は力を増し続けている。

 大きな夢を持つ小さなベンチャーにとって、日本は真に強力な発射台なのだ。

起業家、各国の場合

 世界中のベンチャーがそれぞれの国の市場で同様の利点を享受できるようにも思えるが、実際には必ずしもそうではない。日本はこの点で特別といってよく、特にネットベンチャーのケースでは日本特有なのだ。

 例えば、オーストラリアや西欧のベンチャーは大きくて健全な市場の利益を受けていて、ベンチャーキャピタルを手近に利用でき、起業家支援インフラが十分に整備されている。しかし、事業は英語で行われるため、しょっぱなから世界最大級の企業との競争にさらされてしまう。ユーザーとの安定的な関係や営業基盤を築く暇もない。

 シンガポールはアジアのベンチャーキャピタルにとっての中心的拠点として有名で、アジア全域から企業が資金調達にやってくる。中国語という、海外企業にとっての天然バリアもある。だが、シンガポール市場は小さすぎて、新興ベンチャーが将来的に世界的プレイヤーを相手にできるほど安定した利益性の高い事業として成長させることができない。

 シンガポールの人口とその市場規模はどちらも日本の5%未満だ。投資額に関わらず、そのような小さい市場では、最終的に世界の強豪と戦えるような企業の後ろ盾にはなれない。

 最近では中国にも大きな注目が集まっている。その市場は巨大で、今もなお成長を続けており、強力な言葉と文化の壁、外資系企業の市場参入やその後の経営手法に対して積極的に規制をかける政府の存在によって、海外競争から守られている。

 しかし中国の場合、海外競争の規制に有効なその構造は国内の競争をも制限してしまっており、小さい会社が資金を調達したり、契約を履行したりすることが極めて難しい。中国で成功できるベンチャーは、政府や成功した大企業とのかなり親密な関係を持っている傾向がある。最終的にどれだけ成長するかに関係なく、彼らのDNAは、世界市場で競争できる構造ではない。

 そこへいくと韓国の場合は面白い。韓国のベンチャーは日本と同様、大きくて守られた市場の恩恵を受けているものの、その規模は小さい。韓国はその他のアジア諸国以上に日本の産業発展の方程式をまねている。

 韓国は今後数年、ベンチャー大国になる可能性がとても高いけれども、現時点で韓国の文化がベンチャーを十分にサポートしているようには思えない。韓国のベンチャーの多くは、資金調達とユーザー確保の両面で世界に目を向けざるを得ない。おそらく、アジアでベンチャーが成功できる方程式を日本が完成させれば、韓国はその足跡をたどることになるだろう。

守られた市場、インターネットやPaaSが、日本の起業家の武器になる

 日本のベンチャーは日本独自の大きくて安定した、守られた国内市場の恩恵を受けられるだけでなく、おじいさん世代が50年前に想像すらできなかったような利点も得られる。それはインターネットと、PaaSのようなツールだ。文殊の知恵ならぬ素晴らしいアイデアを持った3人が、極めて少ない資金と円滑に動ける規模で、世界的プレイヤーを目指して会社を立ち上げることができる。実際、ぼくたちの会社Engine Yardの最大の顧客のほぼすべてがかつて、優れたアイデアを持った数人の友人同士で起業したのだ。

 今日の小さな日本のベンチャーには、戦後経済の産業界の巨人たちのようなコネや資本や政府の後ろ盾はないかもしれないけれど、それでも、世界で最も強力で特別な競争上の利益の一つを享受している。それはまさに、国際競争に打って出る前に守られた国内市場で自らを洗練させ、強く成長できる能力なのだ。

筆者プロフィール

Tim Romero(ティム・ロメロ)

Tim Romero(ティム・ロメロ)●プログラマでありながら、もはやプログラミングをする立場ではなくなってしまった。米国ワシントンDC出身、1990年代初めに来日。20年間に日本で4社を立ち上げ、サンフランシスコを拠点とする数社の新興企業にも関わってきた。現在はPaaSベンダであるEngine Yardの社長として、日本の革新的なベンチャー多数の成功をサポートしている。



前のページへ 1|2       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

RSSについて

アイティメディアIDについて

メールマガジン登録

@ITのメールマガジンは、 もちろん、すべて無料です。ぜひメールマガジンをご購読ください。