クラウドサービス提供開始、ヴイエムウェアの狙いは顧客と競合しないのか

米ヴイエムウェアは、「vCloud Hybrid Service(vCHS)」を9月に提供開始すると発表した。本記事ではQ&A形式で、vCHSの差別化ポイント、ヴイエムウェアの狙い、顧客であるサービスプロバイダとの棲み分け、の3点を探る。

» 2013年08月30日 16時21分 公開
[三木泉@IT]

 米ヴイエムウェアは、2013年8月最終週に同社が開催した「VMworld 2013」で、クラウドサービス(IaaS)の「vCloud Hybrid Service(vCHS)」を、9月に米国内のデータセンターで一般提供開始すると発表した。ヴイエムウェアはこのサービスを2013年5月に発表して以来、顧客を限定した「早期導入プログラム」として提供してきた(vCHSの概要については、発表時の記事を参照いただきたい)。このサービスは、一般的なパブリッククラウドサービスと異なる特徴を持っている。本記事ではQ&A形式で、vCHSの差別化ポイント、ヴイエムウェアの狙い、顧客であるサービスプロバイダとの棲み分け、の3点を探る。

疑問1:他のクラウドサービスとどう差別化しようとしているか

 vCHSは、ビジネス向けのIaaSだ。特に、社内でVMware vSphereをすでに運用している企業や組織をターゲットとしている。「(競合他社との)差別化の源泉は、既存の社内インフラとの互換性だ」と、ヴイエムウェアのハイブリッドクラウドサービス ビジネス部門担当シニアバイスプレジデント兼ゼネラルマネージャであるビル・ファザーズ(Bill Fathers)氏はいう。

 ユーザー組織のITインフラとクラウドサービスの互換性やスムーズな統合運用は、マイクロソフトや、ピュアなOpenStackを推進する人々も目指していることだ。だが、ヴイエムウェアが、企業における仮想化ITインフラで大きなシェアを維持し続けるかぎりにおいて、大きな差別化要因になる。本来的な意味でクラウドサービスを企業ITインフラ延長として提供できるのは、ヴイエムウェアだけということになるからだ。反対に、企業におけるシェアがもし大きく下がってくれば、話は大きく変わってくる。

 クラウドサービス事業者の利用する技術や運用手法がブラックボックスであることは、一部の企業IT担当者がクラウドサービス利用を検討する際に抱く不安の一因になっている。一方、vCHSは完全にヴイエムウェアの技術を用いているため、心理的な安心感を抱きやすい。例えば可用性向上のために、vCHSでVMware HAが使えるということは、技術としてVMware HAを信頼しているIT担当者にとっては納得感がある。

円滑なネットワーキング機能、統合的な管理、アプリケーションの修正なしにデプロイできる点などを強調している

 さらにヴイエムウェアの幹部が口を揃えて強調するのは、ユーザー企業が具体的に、社内インフラとまったく同じ使い勝手、運用ポリシー、運用手順で、vCHSを自社データセンターの一部であるかのように扱えるということだ。基盤技術に関する最終的な責任は、社内、クラウドのいずれについてもヴイエムウェアが負う。

 ヴイエムウェアは具体的に、差別化ポイントとして次の点を指摘する。

  • ネットワーク接続については、VMware NSXのデータセンター間接続機能を活用するため、企業データセンターとvCHSのVPN接続は自動化され、迅速に実行できる。別記事で紹介したように、セキュリティも統合的に適用可能。
  • 社内で使っているVMware vSphere/vCloud環境の運用ツールである「vCloud Director」から、vCHS上の自社の論理データセンター空間を、自社のように管理できる。
  • 社内アプリケーションをクラウドに移行する際のリスクやコストが大幅に減らせると、ファザーズ氏は話す。社内vSphere環境上のアプリケーションは、可用性向上などのために改変を加えることなくvCHSへ移行できる。その逆も可能。また、vSphereで認定されたパッケージ・アプリケーションは、vCHS上でそのまま使える。
  • 新たなアプリケーションの構築・運用ニーズについては、Cloud Foundryを展開する。vCHSではCloud Foundryを2013年第4四半期に提供開始するが、これにより、企業は社内とクラウドサービスの双方で、互換性のある同一の開発プラットフォームを持てる。
  • セキュリティのポリシーや運用体制を変更したり、新たに策定したりする必要がない。
  • vSphere/vCloud関連の技術を活用して、高度なサービスが実現できるとヴイエムウェアはいう。同社が最初に注力するのは、VMware Site Recovery Manager(SRM)を用いた災害対策サービスだ。RTOや多地点対応など多様な選択肢を、段階的に提供していきたいという。
災害復旧、Cloud Foundry、DaaS(デスクトップ仮想化サービス)をはじめ、付加価値サービスを増やしていく

疑問2:ヴイエムウェアがクラウドサービスを始めた動機は何か

 米ヴイエムウェアのCEO、パット・ゲルシンガー(Pat Gelsinger)氏は、vCHSの提供開始は自社にとって自然な流れだと説明した。

「次第に、パブリッククラウドがITツールの1つとして使われるようになってきた。一方、ヴイエムウェアの製品は企業の社内データセンターで約4000万のワークロードを動かしている。この実績をパブリッククラウドに拡張できるのはヴイエムウェアしかいない」(ゲルシンガー氏)。

 クラウド インフラストラクチャ/管理ソリューション担当シニアバイスプレジデントのラグー・ラグラム(Raghu Raghuram)氏に、「vCHSのもたらす売り上げやマージンは、ヴイエムウェアにとって、どれだけ重要なのか」と聞くと、「超重要だ。ヴイエムウェアの開発したクラウド運用ソフトウェア群を駆使すれば、高い利益率を維持できる。売り上げもやがて積み上がってくるだろう。(長期的に)予想される市場規模は膨大だ。従って当社はこれを自社の差別化のためのいい機会だととらえている」と答えた。

 ヴイエムウェアは一般提供開始時点で、自社運用データセンターをすでに米国内で3カ所展開。さらにSavvisの運用によるデータセンターを、2014年末までに米国で2カ所展開すると発表した。「2014年以降」と曖昧な表現ながら、米国外でデータセンターを展開するつもりがあることも明らかにしている。これは、同社の「やる気」をある程度裏付けているのかもしれない。

疑問3:vCHSは、ヴイエムウェア製品を利用するクラウドサービス事業者から、ビジネスを奪うのではないか

 ヴイエムウェアは、自社の投資および運用でデータセンターを展開するだけでなく、他社が投資し、運用するデータセンターのリソースを「仕入れ」、これを販売する活動を行う。同社はこれを「フランチャイズ」と呼んでいる。ヴイエムウェアが今回発表した、Savvisの運用によるデータセンターの展開は、後者の例だ。米国外におけるvCHSの展開では、フランチャイズ方式が主流になると、ゲルシンガー氏は話した。ただし、vCHSの運用は、ヴイエムウェアの定める厳格な要件を満たす必要があり、データセンター事業者にとってはハードルの高いものになるだろうという。

 「一方で、当社の生み出す技術はすべて、VMwareサービスプロバイダプログラムに加入しているパートナーに供給する。なぜなら、当社にとって重要なのは、セキュリティやガバナンス、SLAが要求されるワークロードに関して、顧客にできるだけ多くの選択肢を与え、多様なエコシステムを作り上げることだからだ」(ゲルシンガー氏)。

 ラグラム氏は、vCHSが同社のサービスプロバイダ顧客から好意的に受け止められていることの証拠として、「過去6カ月に、当社のサービスプロバイダを対象としたビジネスは高い伸びを示している」と言う。「2013年5月に当社がvCHSを発表する前に、これについて約50のサービスプロバイダに説明した。その話を聞いた事業者の多くは、(自社もさらに高度なサービスを提供しようと、)方向性を変えてきている」。

 さらにヴイエムウェアは、チャネルパートナーの活用も進めている。ユーザー企業の社内ITとvCHSとの統合運用体制構築支援で、一部のパートナーを積極的に関与させている。

vCHSは社内IT向け製品の販売も促進?

 ヴイエムウェアの幹部はだれも言っていないが、vCHSでヴイエムウェアは、社内仮想化プラットフォーム製品群の販売を促進することも狙っているのかもしれない。そもそも、vCHSと社内のインフラの統合管理を円滑に実施するには、ユーザー側でvCloud Directorの導入が必要だ。また、今後vCHS上で魅力のある高度な機能が提供されると、ユーザー企業はその機能を活用するため、社内側でさらに高度な機能を備えたvSphere/vCloud製品を使いたくなる可能性がある。こうしてvCHSの魅力により、vSphere/vCloud製品のアップセルがしやすくなると考えているのかもしれない。また、vSphere/vCloudをまったく使っていないか、使っていても全社的な仮想化IT統合にまで至っていない企業が、vCHSに魅力を感じ、これを活用するために社内でvSphere/vCloudを導入する、あるいはアップグレードするといったシナリオも、描いているのかもしれない。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

RSSについて

アイティメディアIDについて

メールマガジン登録

@ITのメールマガジンは、 もちろん、すべて無料です。ぜひメールマガジンをご購読ください。