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» 2013年10月28日 00時00分 公開

PASONA TECH CONFERENCEレポート:ギーク至上主義時代にITエンジニアの働き方はどう変わるのか? (1/2)

[吉村哲樹,@IT]

 2013年10月5日、パソナグループ本部(東京・大手町)でパソナテック主催のイベント「PASONA TECH CONFERENCE」が開催されました。これまで、転職支援を中心にITエンジニアのキャリアアップを多面的にサポートしてきたパソナテックは、今年創業15周年を迎えています。これを記念して開催された本イベントでは、近年のIT業界におけるワークスタイルの多様化を踏まえ、ITエンジニアが今後どのようなステージを選んで働くべきなのか、各界の識者や現役ITエンジニアなどからさまざまな提言がなされました。

 本稿では、それらの中から2つのセッションを選び、その内容を紹介します。

おそろいのTシャツを披露して対談の幕開け

 本イベントの冒頭では、エバーノート 日本法人 会長 外村仁氏と、パソナテック 代表取締役社長 吉永隆一氏による対談セッション「ITが創るこれからの業界とはたらきかた」が行われました。

おそろいのEvernoteのTシャツを着て現れた エバーノート日本法人会長 外村仁氏(左)と パソナテック代表取締役社長 吉永隆一氏(右) おそろいのEvernoteのTシャツを着て現れたエバーノート日本法人会長 外村仁氏(左)とパソナテック代表取締役社長 吉永隆一氏(右)

 外村氏は、かつてアップル・ジャパンのマーケティング責任者を務めた後、ヨーロッパでMBAを取得。その後シリコンバレーに渡り、ITベンチャー企業の創業やビジネス支援にかかわる中で、たまたま知ることになったエバーノートに参画。現在では同社日本法人の会長を務めながら、ベンチャー支援など後世の育成活動にも力を入れています。

 一方の吉永氏は、パソナテックの前身であるパソナWindowsレスキュー事業部のころから、一環してITエンジニアのキャリア支援活動に従事してきました。2012年に同社の代表取締役社長に就任後は、自社の社員のワークライフバランス向上やワークスタイル多様化などにも積極的に取り組んでいます。

 このように、長くIT業界においてITエンジニアの多様なワークスタイルを間近に見てきたと同時に、自らも実践してきた両氏。対談では、ITエンジニアがこれからの時代を生き抜いていく上での貴重な提言がなされました。

アップルが描いたコンピュータの未来像はiPhoneのSiriやEvernoteなどによって実現されつつある

吉永氏 パソナテックを創業した1990年代後半以降、IT技術はメインフレームからクライアント/サーバ、Web、さらにクラウドへと、目まぐるしい進化を遂げています。かつてのメインフレームやクライアント/サーバ時代には、ITはベンダー主導のクローズな世界でしたが、Webの発展とともにオープンな世界へとシフトしてきています。それに伴い、人とテクノロジーの関係も徐々に変わりつつあります。

外村氏 かつて何億円もしたスパコンの性能が、今やiPhoneで実現されているぐらいですから、この20〜30年ほどの間の技術革新のスピードはすさまじいものがありますね。私がアップルにいたころに、社長のジョン・スカリーが、コンピュータの未来像を描いた「Knowledge Navigator」という動画を制作したのですが、まだGUIが一般的でなかった時代に現在のコンピューティング環境をかなり正確に予言していて、今思い返すと「凄いな」と思います。

 Knowledge Navigatorでは、ユーザーがやりたいことをコンピュータが率先してアシストしてくれる世界が描かれていますが、これは現実世界では長らく実現されませんでした。1990年代後半以降、コンピュータの使い方は「型にはまった業務アプリケーションに人間が合わせる」スタイルが定着してしまったんですね。でも、ここ数年では、ようやくiPhoneのSiriやEvernoteに代表されるような、「コンピュータが人間に合わせて助けてくれる」という、Knowledge Navigatorが描いていた未来像が徐々に実現されつつあります。

シリコンバレーで働くITエンジニアのワークスタイルを日本と比べたら?

吉永氏 技術が急速な進化を遂げる中、ITエンジニアを取り巻く環境も随分変わってきたように思います。かつての開発はベンダー丸抱えだったことが多く、おのずとITエンジニアにもゼネラリスト的な能力が求められたのですが、現在では開発の外注は当たり前になり、ITエンジニアにも高度な専門性が求められるようになりました。

 働く環境という意味でも、徐々に変化が見られるように思います。私がパソナに入社した当時は、若い社員が多かったこともあって、会社が社員に食事を支給していたんです。また、オフィスに緑を多く配置するなど、社員の働きやすさや成長を支援する取り組みに力を入れていました。今後はIT業界でも、こうした取り組みが重要になってくるのではないでしょうか。

外村氏 シリコンバレーでも、グーグルやヤフーなど、社員に食事を無料で支給する会社が多いのですが、これは社員に少しでも時間を節約してもらって、その分本来の仕事に集中してもらいたいからなんです。

 また、シリコンバレーのITエンジニアは皆ハードワーカーぞろいですから、自宅の掃除もままならない。そこで社員の自宅の掃除までやってあげる会社も出てきています。これも、別に社員を至れり尽くせりで優遇するためではなくて、休日に掃除に当てる時間を節約してゆっくり休んでもらって、月曜日からまた気持ち良く働いてもらうための施策なんです。

 要は、社員がより快適に長く働けて、生産性が上がることであれば何でもやるという発想ですね。

吉永氏 とても分かりやすいですね。パソナテックの食事支給も同じ考えの下にやっていましたから、少しはシリコンバレーの企業に近付けたのかもしれない(笑)。

外村氏 むしろ先を行ってますよ! オフィスレイアウトも、かつては社員1人1人のスペースをパーティションや個室で隔離していましたが、今やどの企業もそうしたスタイルをやめて、日本企業のように皆が同じスペースで仕事をするようになっています。

 かつて仕様書を基に仕事を進めていたころは、各社員が独立したスペースにいても問題なかったのですが、今では社員同士のディスカッションの中からアイデアを生み出す開発スタイルが主流ですから、オフィスレイアウトも社員同士が互いに話しやすいようオープンな作りになりつつあります。

吉永氏 日本でも、Web系企業はそのようなスタイルが増えてきていますね。

外村氏 シリコンバレーでは組織もフラットで、役職に関係なく社員は互いにファーストネームで呼び合っています。もともと米国はそういう言語文化なのですが、シリコンバレーはそれに輪をかけてフラットですね。日本企業でも互いに役職で呼び合うのは、そろそろ止めた方がいいのではないでしょうか。

アイデアと技術さえあれば成功できる「ギーク至上主義」の時代が到来した!

吉永氏 吉永氏

吉永氏 ITエンジニアが働く地理的な場所も、近年では多様化してきました。パソナテックでは現在、地方活性化の支援活動も行っていますが、地方には今本当に良いコンテンツや人材が増えてきています。今日では、首都圏にいなくても仕事ができる環境がそろってきていますし、クラウドソーシングも普及してきましたから、これからは地方で働くワークスタイルがさらに浸透していくでしょう。

 そして次のステージは、海外です。中長期的に見ると、日本企業は海外に活路を見いださないと生き残っていけない段階に入りつつあります。こうした環境の変化に伴い、海外で働くITエンジニアも今後増えてくると思われます。そうしたITエンジニアや企業をサポートするために、パソナテックでは海外に35拠点を構えて現地法人の設立支援やITインフラ支援、M&Aの支援などを行っています。

外村氏 私がアップルにいたころは、ITエンジニアがいくら良いアイデアや技術を持っていても、販売やマーケティング、物流などがネックになってビジネス的な成功を収めるのは困難でした。

 しかしクラウドやモバイル技術が発達した今日では、App StoreをはじめとしたマーケットプレイスやSNSが物流のインフラやマーケティング機能を提供してくれます。開発のためのサーバやストレージなどのリソースも、クラウドで安く調達できます。つまり、いい技術と発想さえあれば成功できる「ギーク至上主義」の時代が到来したのです。

ITエンジニアに送る新しい働き方の3つのヒント

 では、どうやったら斬新な発想を手に入れることができるのか。それには、異業種の人たちと積極的に交流することが大事です。これまで誰も見たことがない新しいサービスやビジネスモデルを考え出したり、あるいは過去に前例のない問題に取り組む場合には、同じ業界の人間同士で集まっていても新しいアイデアはなかなか出てきません。

 でも、他業種では同じような問題がすでに解決済みだったりすることが多々あります。従って、なるべく多種多様な人たちが集まる場に積極的に顔を出して、多様な人的ネットワークを作ることが大事です。

吉永氏 私も同感です。実際、モノ作りの分野では、異なる業種の人々が集まって新しい製品を開発する取り組みが進んでいますね。

外村氏 外村氏

外村氏 ITエンジニアにとっての今後の新しい働き方のヒントとして、後もう2つポイントを挙げたいと思います。

 1つが、計画や手順に固執し過ぎないことです。実際私自身も、そして周囲の起業家たちも、綿密な計画を立てて、それに従ってコツコツやったので成功したわけではありません。重要なのは計画通りにやることではなく、それよりも、自分が夢中になれるものを見つけて、それに全精力を傾けることではないでしょうか。

 スティーブ・ジョブズの言葉に「点と点のつながりは予測できません。後で振り返って、点のつながりに気付くのです。今やっていることがどこかにつながると信じてください」というのがありますが、まさにそういうことです。とにかく夢中になれるものを見つけて、後はガンガンコードを書くだけです!

 もう1つのポイントは、デザインセンスを身に付けることです。これからのITエンジニアは、単にコードが書けるだけでは、コーダーとして人に使われるだけです。そうではなく、自身で作った製品やサービスで成功したいと考えるなら、デザインの発想やスキルを磨くことが必須になります。

 では、どうやったらデザインスキルを磨くことができるのか。1つの方法は、すでにそうしたスキルを持った人々とのネットワークを築き、そこから薫陶されていくこと。そしてもう1つ重要なのが、世間一般の価値観に迎合することなく、自身の感性や価値観にこだわることです。ただし、そのためには自身の感性を日頃から磨いておくことが前提になります。常日頃から、デジタルコピーではなく本物、そして加工されてないネイティブなものに多く触れて、感性を磨き続けることが大事ですね。

吉永氏 まったくその通りですね。ITエンジニアにとって専門性を持つことは、もちろん重要なのですが、専門性に固執するあまり視野が狭くなってしまう人も多いように見受けられます。やはり、異なる分野の人たちとも積極的に交流して視野を広げることで、アイデアや企画を考える際の思考の柔軟性を身に付けることできるのだと思います。

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