「SDN Japan 2013」レポート〜SDNでネットワークは変わる? 変わらない?広がる! SDNの世界探訪(2)(2/3 ページ)

» 2013年10月31日 18時00分 公開
[廣瀬治郎,@IT]

SDNを作る側・使う側、それぞれの“主張”

 今回紹介するパネルディスカッションの1つ目は「SDNを作る側と使う側」と題し、SDN製品ベンダと、それを用いるクラウド事業者やサーバベンダなどからそれぞれパネリストを招き、ネットワーク業界の変遷について討論した。

 作る側代表としては、モデレータを務めるNECの金海好彦氏、パネリストにはヴイエムウェアの進藤資訓氏とアリスタネットワークスジャパンの兵頭弘一氏。使う側としては、レッドハッドの中井悦司氏、NTTの水野伸太郎氏、シトリックス・システムズ・ジャパンの北瀬公彦氏である。

モデレータを務めたNECの金海好彦氏

 まず金海氏は、ディスカッションに先立って「SDNは道具である」「ゴールではない」ということをまとめて強調した。「ただし、この道具はどんどん進化中であり、作る側、使う側も進化していかなければならない。このディスカッションでは、作り方と使い方を議論したい」

 また今回のディスカッションは、SDNの適用が現在進行形で進んでいる「データセンター」に特化して話が進められた。広域ネットワークやNFVへの適用についてはまだ煮詰まっていないため、2014年度以降に議論ができればと金海氏は述べている。

 現在では、各種キャリアやハイパージャイアントと呼ばれる事業者、またはNECや富士通、日立といった国内ベンダも、データセンターを作ってクラウドサービスを提供している。ただここにSDNを適用していくためには「まだ、作る側にも使う側にも技術的な課題がある」(金海氏)。

 まず、各パネラーが自己紹介とSDNに対する考え方をそれぞれ述べていった。

ヴイエムウェアの進藤資訓氏

 ヴイエムウェアの進藤氏は「SDNというとインフラをソフトウェアでコントロールできるという点に目が行きがちだが、個人的にはアプリケーションとインフラの層が分離されてAPIで制御できる、3つのレイヤが独自に動くという点が真価であると思っている」と断ったうえで、インフラ側の立場として「Open vSwitch」について簡単に紹介した。

 金海氏が、兵藤氏に対して「SDNにはどのような物理トポロジの設計がよいのか」と質問すると、兵藤氏は「ストレージやサーバなどがデータセンター内のどこに設置されていようと、同じような条件で通信できるようにデザインすることが必要。役割に応じた接続という考え方は難しくなる」と答えた。

アリスタネットワークスジャパンの兵頭弘一氏

 レッドハットの中井氏は、自身が深く関わるOpenStackが外部コンポーネントとの連携が重要であることに触れ、「仮想的なネットワークを自由に作ってくれる不思議な道具というのが、OpenStackから見たSDNだ」と述べた。

 「サーバ仮想化においては、物理マシンをそのままエミュレートする仮想マシンに対して、そこまで求めていないという声が大きくなっており、必要な機能のみを実現した“ライトな仮想化”が注目されている。同じようにフルスタックな仮想ネットワークも必要ないと思っている」(中井氏)

 NTTの水野氏は、「使う側が持つべきは、オーケストレータやコントローラ、ハイパーバイザ、物理スイッチといった自由度がある中で、あるサービスを実現したいときにどれとどれを組み合わせればよいのか、そうしたインテグレーション能力である。それが、私たちが持つべきノウハウであり、取り組んでいかなければならない分野だ」と述べた。

相互接続性に向けた課題

 ディスカッションの最初のテーマは「相互接続」についてだ。例えばSDNと既存の技術との相互接続については、まだあまり議論がなされていないと金海氏はいう。具体的には、コントローラ間の接続性だ。

 兵藤氏は「かつてネットワーク上には、IPだけでなくさまざまなプロトコルが流れていた。なぜIPが生き残ったかと言えば、最もオープンだったからだ。物理機器メーカーとしては、現時点ではすべてをオープンにすべきだと考えている。当面はコントローラとデバイスなどの相互接続性に集中すべきだろう」と述べた。また進藤氏は「同じ役割を持つコントローラ同士でフェデレーションするのは難しいと思う」と述べた。

NTTの水野伸太郎氏

 ただ、NTTの水野氏は、「あるクラスタではこんな特性を期待するから、Aのコントローラ。またこちらのクラスタでは別の特性を期待するから、Bのコントローラを使いたいとなる。適材適所で配置されたアーキテクチャを上位でオーケストレーションして、どちらも使えるサービスとして組み上げることは非常に重要」と、相互接続性の必要性について述べた。

 SDNでは、IAサーバの世界で起こったように、ネットワーク機器もコモディティ化するという流れが起こりつつある。これを踏まえて、コモディティ技術を利用する価値があるのかという点については、金海氏が「コモディティ化しないと市場は広がらないように思う」と述べたのに対し、兵藤氏は「BGPやリンクアグリゲーションなどを1から実装するのは非常に大変で、そのあたりは私たちネットワークベンダに任せてほしい。その上の使い方をSDNで考えるべきだ。ネットワーク機器がホワイトボックス化することは、当面はないと考えている」と述べた。

レッドハッドの中井悦司氏

 中井氏は、「SDNのようにまだ新しい技術で、世の中の流れでどんどん変わっていくという状況でのベンダロックインはリスクが高い。同じ技術がいろいろなベンダから手に入るという意味で、ユーザーがコモディティ技術を使いこなすことが求められる」とし、水野氏もこれに同意した。北野氏も「現在はネットワーク機器・技術ごとにエンジニアがいるという状況だが、これがネットワーク分野で仮想化などが遅れた原因になっているように感じる。SDN独自の流れが出てくると、昔のネットワークと同じようによい状況になると思う」と述べた。

シトリックス・システムズ・ジャパンの北瀬公彦氏

 最後に金海氏が、使う側の「垂直統合と水平統合のどちらを選ぶべきか」について進藤氏に問うと、進藤氏は「SDNには、選べる自由を手に入れられる可能性がある。買ってきてすぐに使える垂直統合にも一定の価値はある。提供する側は、選ぶ自由度を与えるべき」と返した。

 最後のメッセージとして、中井氏や兵藤氏、進藤氏は「エンジニアにとっておもしろい時代が来ている」とし、いろいろと“遊んで”おくと将来ビジネスで役に立つだろうとまとめた。

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