簡易に導入できる“複合現実”シミュレーション3次元データをリアルに重ね合わせる

キヤノンは3次元データを活用した「複合現実」による商品企画・レビュー、マーケティング支援システムの簡易版を市場投入する。

» 2013年11月05日 13時00分 公開
[原田美穂,@IT]

 キヤノンは、MR技術を応用した同社のシミュレーションシステム「MREAL」の製品を拡充し、新たにハンドヘルドタイプのディスプレイ装置とソフトウェア「MREAL Platform HH-A1」を2013年11月5日から販売する。

 MRは、Mixed Realityの略で、日本語では複合現実と訳される。仮想現実(VR)が完全に仮想空間を表現する技術であり、拡張現実(AR)が現実に対する付加情報の重ね合わせであるのに対して、複合現実(MR)は、現実空間に対して仮想のオブジェクトを重ね合わせて表現する点が特徴である。

 キヤノンでは以前からMR技術についての研究を進めており、MREALシステム自体にも複数の採用事例がある。従来型のMREAL用のディスプレイはヘッドマウントディスプレイを採用していた。ヘッドマウントディスプレイ型の長所は、利用者の位置や目線を固定して計測できる点にある。半面、複数人でのデザインレビューといった場面では、装着に手間がかかることが難点であった。

 今回発表になったHH-A1は、装着の手間がかからないハンドヘルド型ディスプレイを採用している。

 MR技術において、現実空間と仮想オブジェクトを重ね合わせる際に重要になるのが、それぞれの位置関係を計測する「位置決め」である。一般的には、あらかじめ用意した3次元マーカーをディスプレイ越しに見て調整することで、位置決めを行う。今回、ハンドヘルド型ディスプレイを採用するに当たっては、この位置決めが簡易に行えるよう、マットレス型の位置決め用3次元マーカーを併せて提供する。これにより、ディスプレイ装着から、実際のMRによるレビューを実施するまでの時間を短縮する。

 例えば、3次元設計図面のデザインレビューや、建築などの構造物のレビューなどで、複数の部門担当者らによるレビューを行う場合であっても、短時間で全員が閲覧できる仕組みだ。

 キヤノンでは、2013年12月にもネットワークカメラ「VB-H41」を、同製品ラインアップに加える予定だ。こちらは、MRを体験している人物を含めた映像を客観映像としてモニタリング可能にするものだ。この装置により、例えば、架空の製造ライン上で、設計中の加工機を使った作業工程や導線を、別のモニタから客観評価するといったことも可能になる。

 特に自動車メーカーや大手建築会社では、3次元CADを使った設計が普及している。

 従来、設計図面を3次元データにしていても、意匠デザイン部門はこれとは別にデザインツールでデータをおこしたり、あるいは試作段階では、実際に工場に発注してモックアップ製造を行うといった工数がかかっていた。簡易モックアップとしての3次元プリンタが注目を集めているが、大物のプリントでは、やはりそれなりの時間がかかる。手戻りが発生した場合はこの部分のサイクルを何度も繰り返す必要があり、そのぶん、製品開発にかかるコストも期間も増え、販売価格への転嫁が必要になる点が課題となっていた。

 また、量産化に際しても、生産ラインの設計をどのようにするかを、機材を搬入してから設計していては手戻りが多く、ムダの多い工程となる。結果、時間当たりの生産性が低下することもあり得る。

 製品ライフサイクルを考える上で、企画から量産、販売開始までの期間は、製造業にとっては、いわば利益を生まない期間であり、この部分の支出を減らしながら品質を高める取り組みとして、事前シミュレーションし、ムダを省く取り組みが注目されている。

 一方で、広大な空間に対しては、3次元レーザースキャナが普及しつつあり、建築業界のみならず、造船や大規模プラントのメンテナンスなどでの採用も増えている。

 MRで重ね合わせるデータは、VRML形式のものが必要だ。一般的な3次元設計ツールやデザインツールからこの形式に変換できれば読み込める。VRMLそのものは3次元CADデータのような質量表現は不要であることから、より簡易な3次元表現のデータであっても対応する。

 キヤノンでは、このシステムの利用場面として、上記のような設計・製造向けの展開を拡充する一方で、複数人での回覧が容易なことから、展示会やイベントなどでの採用も視野にいれた販売体制を整える。

 キヤノン イメージコミュニケーション事業本部 MR事業推進センター 副所長である麻生隆氏は、今後の同製品の展開として「現在は、大手企業での採用が進んでいる状況。例えば、同じ自動車業界であってもデザインレビュー部門からの要求もあれば、製造ライン検討の部門からの要求もある。このため、それぞれの要件に応じて機器を組み合わせて提供している。今後、3次元データの利用がより一般化していけば、用途や要件ごとに簡易なパッケージ化ができるようになると考えている。将来的には、“ターンキー型”で実現できる程度の廉価なものも提供できるようになると考えている」と、事業の展望を語った。

 3次元プリンタが予想を超えた広がりを見せている現在、次の3次元データのキラーアプリケーションになる可能性も秘めているだけに、同社としても長期的に注力する事業として展開する考えだ。

 市場展開は、キヤノン、キヤノンITソリューションズ、キヤノンマーケティングジャパンの3社共同で行う。具体的なソリューション提案は、主にキヤノンITソリューションズが担うとしている。

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