勢いを増すOpenStack、成功を支えるものとは香港でOpenStack Summit開催

香港で開催されたOpenStack Summitでは、中国語圏の巨大サービスでの採用事例が登場。過去最大規模の参加者を集めたOpenStack Summitの勢いの背景とは?

» 2013年11月07日 12時20分 公開
[三木 泉,@IT]

 2013年11月5日に開幕したOpenStack Summitは、約50カ国から3000人以上を集めている。これは過去の同サミットを大幅に上回る規模だという。OpenStack Foundationが米国外で初のOpenStack Summitを香港で開催したのは、このコミュニティの勢いをアピールするという意味で最適な選択だったのかもしれない。

中国の大手メディア、サービス企業の採用事例

 ジェネラルセッションでは中国のオンラインサービス企業3社がOpenStackの導入について語った。

 バイドゥの子会社で、月間36億PVを誇るのオンライン動画サイト「iQIYI」を運営するiQIYI.COM、モバイル版だけでも1日平均20億PVというセキュリティやストレージなどの個人向けオンラインITサービス「Qihoo 360」を提供するQihoo 360 Technologyは、いずれも事業を支えるインフラをOpenStack上に構築している。

 また、中国のオンライン旅行予約におけるシェア40%で、1日3100万PVがあるという「Ctrip」を運営するCtrip.comは、1日平均20万件の問い合わせをさばくコールセンターの約1万3000シートを、2014年中にはOpenStack上ですべて仮想環境上に置く予定だ。同社ではこの他に、アプリケーションインフラもOpenStackに移行中だという。

 Ctrip.comのテクノロジ担当副社長 エリック・イー(Eric Ye)氏は、利用者数が毎年倍増し、サービスも次々に増えていくビジネスを支えるために、迅速なスケーリングが可能でコストの低いインフラを実現する目的で、OpenStackを選択したと話した。

Qihoo 360のOpenStackの用途の1つはオンラインのウイルススキャンサービス

 OpenStack Foundationが2013年4月に公表したユーザー調査では、OpenStack導入理由の第1位はコスト削減、第2位は運用効率化、第3位はオープンなプラットフォームとなっている。導入組織を産業別に見ると、IT関連、教育・研究、映画・メディア・エンターテイメント、政府・防衛、製造業、小売、ヘルスケア、金融、一般向け消費財、の順だ。

OpenStack上のアプリケーションと導入規模(OpenStack Foundationが2013年4月に公表したユーザー調査における)

 オープンなIaaS技術の開発を進めてきたOpenStackプロジェクトは、その活動の大規模化と多様化を支え、ガバナンスを導入するため、2012年9月にOpenStack Foundationという財団を設立した。現在では269の企業がメンバー、スポンサー、あるいはサポーターの立場で参加、個人メンバーは1万2300人以上に達している。プロジェクトの数も増え、月平均のコントリビュータ数は375に上る。ちなみに現在、コントリビューションが世界で一番多い都市は北京だという。

勢いの背景にある4つの成功要因

 OpenStackは開発と導入の両面で、なぜ、上記のような「勢い」を持つに至ったのか。

 当然ながら今回のサミットでも、オープンソースであるために、特に技術力の高いユーザーにとってはコスト効率が高く、コードの改変についても自ら行うことができるし、コミュニティに参加する多数のプログラマとともにコードを作り上げていけることが魅力だという指摘が相次いだ。

 IaaS事業者を想定すれば分かりやすいが、自社のサービスを良くしていくために、世界中のOpenStackコミュニティメンバーが助けてくれるという感覚がある(もちろんユーザーは、恩恵を受けるだけでなく、自らも貢献する必要がある)。一方、商用IT製品を提供するベンダにとっては、この分野で自社に優る他社商用製品の付加価値を低めるために、オープンソース化を活用することもできる。

 2つ目の成功要因は、OpenStackのプラグイン・アーキテクチャだ。

 コンピュートプロジェクト(Nova)からネットワーク機能(Quantum)を切り出したことをはじめとして、OpenStackはモジュール化されており、各プロジェクト(コンポーネント)にはAPIが明確に規定されている。これによって、開発をスケールしやすくしている。ユーザーはOpenStackを使うからと言って、そのすべてのコンポーネントを採用する必要がなく、取捨選択できる(関連記事:OpenStackプロジェクトの歴史、いまさら聞けないOpenStackコンポーネント)。

 既存IT製品を含めてOpenStackプロジェクト外の製品や技術が連携しつつあり、ユーザーにとって、実装の選択肢は広がっている。同じ理由で、OpenStackの周りにITベンダのエコシステムが生まれやすい構造になっている。

 さらに、OpenStackは主要な複数のハイパーバイザに対応する。KVM、Xen、XenServer、ESXi、Hyper-Vなどから選択し、あるいは併用することができる。

 今回のサミットで一部の人々が指摘した第3の成功要因は、主要IT企業の参加だ。背景にはさまざまな理由が考えられるが、OpenStackプロジェクトを有望なIaaSのオープンソースプロジェクトとして認識した時点で、商用IT製品ベンダが考慮すべき選択肢は少なくとも次の7つある。

  1. 「無視する」
  2. 「OpenStackの動きに取り残されないように、参加して情報収集に努める」
  3. 「OpenStackに何らかの支配力を行使できる存在になる」
  4. 「OpenStackの周りに、自社の付加価値を構築する(これにはIaaSの提供やハードウェア製品の統合提供が含まれる)」
  5. 「OpenStack関連の製品・サービスをクラウドサービス事業者や大規模企業内クラウドに対するビジネスのきっかけとして使い、クロスセルを仕掛ける」
  6. 「OpenStackを使って、競合他社を潰すことを狙う」
  7. 「OpenStackに自社の将来があると考え、全面的に協力する」

 OpenStackに参加している商用ITベンダは、「無視する」を除く上記のすべての点を、比重の違いはありながら考え続けているはずだ。

 これが第4の成功要因につながる。OpenStack Foundationは、上記のような商用IT製品ベンダのさまざまな利害を超えて、コミュニティ全体の発展につなげるために、巧みな運営をしていると評価する声は多い。例えば、米ラックスペースのCTOであるジョン・エンゲーツ(John Engates)氏はパネル・ディスカッションで、「(この団体は)真にメリット(実利)に基づく運営がされている」と話している。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

RSSについて

アイティメディアIDについて

メールマガジン登録

@ITのメールマガジンは、 もちろん、すべて無料です。ぜひメールマガジンをご購読ください。