増税反対、5%しか払いません これって誰か損をする?お茶でも飲みながら会計入門(87)

意外と知られていない会計の知識。元ITエンジニアの吉田延史氏が、会計用語や事象をシンプルに解説します。お仕事の合間や、ティータイムなど、すき間時間を利用して会計を気軽に学んでいただければと思います。

» 2013年12月05日 00時00分 公開
[仰星監査法人 吉田延史, イラスト:Ayumi,@IT]

本連載の趣旨について、詳しくは「ITエンジニアになぜ会計は必要なのか」をご覧ください。


 消費税の増税が決まりましたね。この増税、個人にとってはそれほど難しい話ではないのですが、企業にとっては少々複雑です。今回はA社の課長と社員の会話を基に、よくある誤解を解説します。

【1】安愚楽牧場のケース

 社員「課長、N社から次期基幹システムの見積もりが来ました」

見積書(まとめ)

A社様

N社システム部

ハードウェア :1000万円

パッケージソフトウェア:2000万円

カスタマイズ費用 :1500万円

合計  4500万円

※上記金額には消費税を含みません。


 課長「いつ検収予定なんだ?」

 社員「2014年4月です」

 課長「そういえば、4月から消費税が増税になるじゃないか。もしかしたら、3月までに検収をもらったら増税の3%分、得するんじゃないのか?」

 社員「3%分というと、135万円にもなりますね」

 課長「早速N社に掛け合って、3月検収にしてもらえ」

 社員「分かりました」

【2】企業にとって、消費税は預り金

 消費税の複数税率対応のシステム改変など、皆さんの周りで消費税の話がよく出るのではないでしょうか。この消費税、個人として買い物する場合と、企業として買い物する場合では、ちょっと違うのをご存じですか?

 消費税はその名の通り、消費するときに掛かる税金です。そして、企業が物品を購入する目的は、自分で楽しむ(消費する)ことではなく、販売・使用して利益を上げることです。ですから、企業の買い物は課税されないのです。

 具体的には、いったん払った消費税は、後で税務署から返してもらえますし、預かった消費税は、納付します(第13回「自分が払った消費税、どうやって納められているの?」参照)。

 そのため、3月までに検収されて消費税率が5%だった場合には、4500万円の5%である225万円が税務署から還付されます。一方、4月以降に検収されて8%となった場合には、4500万円の8%である360万円が税務署から還付されます。

 ただし、還付されるのは通常決算が終わった後なので、一時的な資金負担が3%分増え、企業の資金繰りがその分つらくなるといわれています。

 最初の会話での課長の発言「もしかしたら、3月までに検収をもらったら増税の3%分得になるんじゃないのか」は、「お金が返ってこない」という意味であれば誤りです。そうではなく「一時的に資金負担が増えるのを避けたい」という意味であれば、正解です。

 2人の会話の続きを聞いてみましょう。

 社員「N社で検討してもらいましたが、3月検収は難しいとのことでした」

 課長「しかし4月検収では、うちが損をしてしまうじゃないか。どうしたらいいんだ」

 社員「4月検収でも、5%の消費税でお願いすればいいんじゃないでしょうか」

 課長「N社と合意すれば、5%の取引にできるのかなあ」

 2人は損をしないように、N社に旧税率の5%で取引をお願いしようとしています。

【3】「下請けいじめを防ぐ」とは?

 消費税率は、取引双方の合意では決められません。システム納品の場合は、検収のタイミングが3月中か、それ以降かによって5%か8%かが決まります。上記例の場合には、検収が4月のため、8%の税率が適用されます。

 それでも5%の税率でお願いをすると、どうなるのでしょうか。会社の納税上は、8%分の消費税が返ってきます。具体的には、以下の通りです。

税込み支出金額:4500万円×1.05=4725万円

うち、8%の消費税:4725万円×8/108=350万円

350万円は後日、税務署から戻ってきます。そうすると

支出純額:4725万円−350万円=4375万円

となり、A社は125万円得をします。


 同じ話をN社の立場で見てみましょう。N社は8%分の消費税を預かっていると見なされますので、後日、国税に8%の消費税を納めなければいけません。具体的には以下の通りです。

税込み収入金額:4500万×1.05=4725万円

うち、8%の消費税部分:4725万円×8/108=350万円

350万円は後日、税務署に納付します。そうすると

収入純額:4725万円−350万円=4375万円

となり、N社は125万円損をします。


 これまでの5%の税率のままで4月以降も取引をすると、支払側は得をして、収入側は損をします。

 そこで、よく話題になるのが小売業が下請けに協力を求めるケースです。「2014年4月に消費税5%据え置きセールをやるので、仕入先も5%据え置きにしてほしい」などと圧力を掛けることが考えられます。

 先ほどまとめた通り、5%の税率のままで取引すると支払側は損をしますので、政府もそういったことが起きないように法案を作成しているのです。

 消費税について、解説しました。今回の誤解はシステム改変には直接関係しませんが、知っておいて損はないでしょう。それではまた。

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筆者プロフィール

吉田延史(よしだのぶふみ)

吉田延史(よしだのぶふみ)

京都生まれ。京都大学理学部卒業後、コンピュータの世界に興味を持ち、オービックにネットワークエンジニアとして入社。その後、公認会計士を志し同社を退社。2007年、会計士試験合格。仰星監査法人に入所し現在に至る。共著に「会社経理実務辞典」(日本実業出版社)がある。



イラスト:Ayumi


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