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» 2013年12月06日 18時00分 公開

美人弁護士 有栖川塔子のIT事件簿(3):要件定義を決めるのはベンダーの仕事でしょ? (2/2)

[細川努,@IT]
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登場人物紹介

TOKO

そう。ユーザーは入力情報の詳細を自分で確認してないし、ベンダーもガイドせずに勝手な理解でモノを作った。


AYANE

アタシたちは、そんなにいい加減にやってるわけじゃありませんよ。今のお客さんだって……。


TOKO

アンタんとこのユーザーは、アンタらが作った要件定義書を、ちゃんと検証してOK出してる? 要件定義を実際の業務に当てはめてシミュレーションしたり、接続先の他システムの担当者とあらゆる危険を想定して話したり、オペレーターに操作性や処理速度なんかを聞きに回ったりしてる?


AYANE

いえ、そこまでは……。


TOKO

「そういうことをしてください」って促すのもベンダーの責任。


AYANE

そんなことお客さんが自発的にやるべきじゃないんですか?


TOKO

手前勝手なこと言ってんじゃないわよ! 開発経験の少ないユーザーが、要件定義にそういうことが必要だなんて知るわけないでしょ。そーいうのを“作り手の理屈”って言うの。ちゃんとユーザーに促さないと、ダメ※2よ。


AYANE

キビしー。


TOKO

ベンダーは、ユーザーの決めるべきこと全てをちゃんとガイドして、期日通りそれが完了することを管理しなきゃいけない。


AYANE

でも「要件定義はユーザーの責任」って本で読んだことありますよ。


TOKO

それは、決まった要件に責任を持つってことで、何を決めれば良いのかは専門家のベンダーが教えなきゃ分からないでしょ。

世の中には、「ベンダーの指示は受けない」って自信のあるユーザーもいるけど、やっぱり日ごろからいろんなシステム開発を経験しているベンダーには、それなりの知見がある。ユーザーはそれを軽視すべきじゃないし、逆にベンダーは自分たちのそういうスペシャリティを軽視させるべきじゃないわ。

この間教えた要件の項目なんかを参考に、ベンダーがしっかりと固めるのよ。


AYANE

なるほど。


TOKO

それと、こと要件定義に限っては、役割分担を捨てるくらいの気持ちも必要よ。


AYANE

捨てちゃう?


TOKO

要望を出すときや、それを整理して要件にするときには、役割を超えて、お互いが気付くことをどんどん言い合う形でしか網羅性は担保できない。

ベンダーがオペレーターの立場に立たないと「ここは画面の動きが遅くなるけど大丈夫?」なんて問題は提起されにくいし、ユーザーもベンダーの立場で「この期間に、これだけの機能つくれる?」って気にすることが大事よ。

チーム全体が、あーでもない、こーでもないって納得するまで議論しないと要件定義はできないわ。


AYANE

チーム?


TOKO

要件定義・管理担当、技術主幹、業務に精通しているメンバー、ユーザー側窓口、エンドユーザー部門、運用担当、外部接続先のシステム担当者…… プロジェクトによっていろいろだけど。

要は、新システムで実現する業務フローに載る人の意見を全て収集する必要がある。実際に会議に参加してくれなくても、アンケートとかね。


AYANE

役割分担にこだわってちゃ、ダメなんですね。


TOKO

失敗プロジェクトの9割は、要件定義が関連してる※3って言われてるわ。大変なのは当然よ。


AYANE

何か心配になってきた。今日の合コンやめようかな。


TOKO

あら、いいのよ。気にせず行ってらっしゃい。


AYANE

えっ?


TOKO

今のうちに能天気に遊んで、後になってから、壊れたプロジェクトの中で血ヘドを吐いて、もだえ苦しめばいいのよ、ホホホ。アーッハハハハ!


AYANE

せ、先輩、相変わらずゆがんでますね……。


今回のPOINT

  • ベンダーはユーザーの決めること、調べることを積極的にガイドする

  • 要件定義は、役割を超えてチームで徹底的に議論する

  • 要件定義チームには、できるだけ多くの利害関係者を入れる

※2 東京地方裁判所 平成16年3月10日判決「(供給者)は、受給者における意思決定が必要な事項(中略)について、具体的に課題および期限を示し、決定などが行なわれない場合に生ずる支障、複数の選択肢から1つを選択すべき場合には、それらの利害得失などを示した上で、必要な時期までにX(受給者)がこれを決定ないし解決できるように導くべき義務を負い……」とある。ユーザーが要件、つまり意思決定が必要な事項について決定が行われない場合、ベンダーにも責任があることを述べている。

※3 情報処理推進機構 ソフトウェアエンジニアリングセンターの「アンケート調査報告2005/6/ 29-7/1 SODECにおけるアンケートによる」より。

書籍紹介

なぜ、システム開発は必ずモメるのか?

なぜ、システム開発は必ずモメるのか?

細川義洋著
日本実業出版社 2100円(税込み)

約7割が失敗すると言われるコンピュータシステムの開発プロジェクト。その最悪の結末であるIT訴訟の事例を参考に、ベンダvsユーザーのトラブル解決策を、IT案件専門の美人弁護士「塔子」が伝授する。

細川義洋

東京地方裁判所 民事調停委員(IT事件担当) 兼 IT専門委員 東京高等裁判所 IT専門委員

NECソフトにて金融業向け情報システム及びネットワークシステムの開発・運用に従事した後、日本アイ・ビー・エムにてシステム開発・運用の品質向上を中心に、多くのITベンダ及びITユーザー企業に対するプロセス改善コンサルティング業務を行う。

2007年、世界的にも稀有な存在であり、日本国内にも数十名しかいない、IT事件担当の民事調停委員に推薦され着任。現在に至るまで数多くのIT紛争事件の解決に寄与する。

ITmedia オルタナティブブログ「IT紛争のあれこれ」



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