連載
» 2013年12月20日 18時00分 公開

美人弁護士 有栖川塔子のIT事件簿(4):排他制御でアイタタタ!―― パッケージソフトの落とし穴 (2/2)

[東京高等裁判所 IT専門委員 細川義洋,@IT]
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TOKO

例えばアンタんとこ、野菜に生産農家の名前を表示してるでしょ?


SHOSUKE

うん。お客さまの評判が良いし、こちらでも生産者別の売上分析ができるんだ。


TOKO

ってことは、商品を管理するデータベースに商品ごとの生産者名を入れる必要があるのよね? アンタが導入しようとしてるソフトって、そういうユーザー独自の項目を入れられるのかしら?


SHOSUKE

どうかなあ。でも、項目が1つ加わるくらい、それこそ設定で……。


TOKO

そうはいかないの。ただ出力するだけの項目なら設定でも何とかなるけれど、商品データのような山のような本数のプログラムから読み出されるデータの設定を変えると、大量のプログラム修正が発生するの。

パッケージの開発会社もおいそれとは直してくれないし※2、直してくれても何千万円って請求されることもあるわ。


SHOSUKE

そうすると、どうなっちゃうの?


TOKO

生産者ごとの商品管理なんかできなくなるし、業務の流れを丸っきり変えざるを得ない可能性もあるわ。つまり社内プロセスや関連する人の役割分担まで変える羽目にもなりかねない。


SHOSUKE

そんなことになったらパパに殺されちゃう! どうすればいいの? 使おうとするソフトにどんな問題があるかなんて最初は分からないよ。


TOKO

一度決定したソフトでも、問題が見つかったら固執しないこと。いったんこれで良いと思ったソフトも、よく調べたら業務の変更が必要だったり、システム化の構想を崩す問題が見つかったってことがよくあるから。複数のパッケージを同時に評価して、落選組も代替案として取っておくのよ。


SHOSUKE

取っておくって?


TOKO

資料や評価用ソフトをベンダーに準備させて、本命パッケージに問題があったときに調べられるようにしておくことかしら。


SHOSUKE

でもそうなったら、最初のソフトの費用がムダに……。


TOKO

そこはベンダーや開発会社との交渉よ。裁判所は、ユーザーが要望する機能を実現できないソフトをベンダーが持ってきた場合、「パッケージソフトにこれらの機能が当初より存在していなかったこと、および本番稼働までに備えられていなかったことは、瑕疵(かし)に当たるものといえる」って判決※3も出してて、ベンダーに一定の責任を求めてるから、交渉次第じゃタダになるかも。


SHOSUKE

な、なぁんだあ。じゃあ安心……


TOKO

バカ! いざというときのことなんて考える前に、ユーザーとベンダーが一緒にリスクを抽出して、対策をあらかじめ立てておくことが重要なの。パッケージソフトの導入は普通の開発と違うリスクがたくさんあるから、特にね。


SHOSUKE

ふーん。ウチのベンダーは「これ以外あり得ません」なんて言ってたけれど、それじゃあ引っ込みがつかないね。


TOKO

「このソフトが万一適用できなかったら?」って聞いてあげれば、ベンダーも堂々といろいろ検討できるでしょ。うるさいようだけど、実は親切な質問よ。ベンダーが自分たちが扱うソフトに固執しすぎて自滅する例は本当に多いの。ベンダーも自分を守るためにもその準備をしておく必要があるのよ。


SHOSUKE

確かに、ベンダーの人たちだって困るはずだもんなあ。


TOKO

それと、契約は「フィットアンドギャップ」と「開発・導入作業」「パッケージ購入」を別々に行うこと。


SHOSUKE

契約書を3枚も作るってこと?


TOKO

そうしておけば、フィットアンドギャップの後、パッケージやその導入方法を変更しやすいでしょ。


SHOSUKE

なるほどねえ。いろいろ大変だ。


TOKO

大変なのはこれから。いま言ったことは、パッケージソフトを導入するときの、ごく基本的な心得よ。もっと大事なことは……。あ、次の会議が始まるわ。また今度ね。


SHOSUKE

もっと教えてよ。どう? 今晩ディナーとか。


TOKO

89年のシャトー・ペトリュスでもあればいいわよ。


SHOSUKE

分かった。すぐ準備する。


TOKO

……えっ?


今回のPOINT

  • ベンダーはパッケージ不適合に備えて代替策も準備しておく
  • 「フィットアンドギャップ」「ソフトの購入」「開発・導入作業」の契約は切り

離して行う


 塔子のデート(30万円相当のワイン付き)と、章介のシステム開発の行方は? 次回は2014年1月10日掲載です。

※2 技術的には可能でも、「データベース構造を変えることは他のプログラムに影響が出る可能性があり保証できない」「そもそもデータベース構造が知的な資産であり、これを公開しないと決めている」などの理由で対応しないパッケージソフトが多い。

※3 東京地方裁判所 平成22年1月22日判決 学校法人システム開発についての判例。ベンダーが持ち込んだパッケージソフトウェアに排他制御機能、エラーハンドリング機能がないことについて、「本件パッケージソフトにこれらの機能が当初より存在していなかったこと、および本番稼働までに備えられていなかったことは、瑕疵(かし)に当たるものといえる」との判断をしている。

書籍紹介

なぜ、システム開発は必ずモメるのか?

なぜ、システム開発は必ずモメるのか?

細川義洋著
日本実業出版社 2100円(税込み)

約7割が失敗すると言われるコンピュータシステムの開発プロジェクト。その最悪の結末であるIT訴訟の事例を参考に、ベンダvsユーザーのトラブル解決策を、IT案件専門の美人弁護士「塔子」が伝授する。

細川義洋

東京地方裁判所 民事調停委員(IT事件担当) 兼 IT専門委員 東京高等裁判所 IT専門委員

NECソフトにて金融業向け情報システム及びネットワークシステムの開発・運用に従事した後、日本アイ・ビー・エムにてシステム開発・運用の品質向上を中心に、多くのITベンダ及びITユーザー企業に対するプロセス改善コンサルティング業務を行う。

2007年、世界的にも稀有な存在であり、日本国内にも数十名しかいない、IT事件担当の民事調停委員に推薦され着任。現在に至るまで数多くのIT紛争事件の解決に寄与する。

ITmedia オルタナティブブログ「IT紛争のあれこれ」



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