英語の読み方・ニュースの読み方――ビッグデータで弱みを強みに、TIBCO創業者の意外なエピソード三国大洋の箸休め(20)

不利な条件に置かれた弱者が、意外な方法で恵まれた強者を打ち破る――TIBCO創業者が、娘の所属するバスケチームで起こしたそんな「奇跡」の1つを、米国の売れっ子作家の1人が紹介している。

» 2013年12月25日 18時00分 公開
[三国大洋,@IT]

 不利な条件に置かれた弱者が、意外な方法で恵まれた強者を打ち破る――古典的だが、それだけにわれわれの心を引き付けるサクセスストーリーだ。ビッグデータ分野のITベンダー、TIBCO創業者が、娘の所属するバスケチームで起こしたそんな「奇跡」の1つを、米国の売れっ子作家の1人が紹介している。

今日の例文

He discovered basketball was a math problem. "I'm a math guy, a big data guy. I converted the game with a math equation and came up with a way to win every single game," he says.

Since his girls didn't have the skills to compete by traditional methods, his formula was to have them grab possession of the ball as much as possible. They played "full-court press" and blocked passes, double-teamed the best players and blocked inbound balls.

How Vivek Ranadive Snatched A Basketball Team From Steve Ballmer And Larry Ellison - Business Insider

http://www.businessinsider.com/how-vivek-ranadive-bought-nbl-team-kings-2013-8#ixzz2oMD0coFk


ワード&フレーズ

 では、上記の例文に出てきたキーワードとキーフレーズを見ていこう。

原文
convert 置き換える
equation 方程式、等式
since 〜 〜のため(理由の説明が後に続く)
formula 公式、秘訣
have (ー) 〜 ー(人、モノなど)に〜(動詞)をさせる
full-court press コート全体を使ったディフェンスの戦術
double-team ダブルチーム(する)、相手の選手1人を2人の選手で守ること
inbound balls コート外から内部に投げ入れられるボール(サッカーのスローインに相当)

ニュースの背景

 マルコム・グラッドウェル(Malcolm Gladwell)という物書きがいる。出世作の「ティッピング・ポイント」以降コンスタントに作品を出し続けている、現代の売れっ子作家の1人だと思う。

 グラッドウェルは、意外な事実(学術研究の結果など)やエピソードを掘り出してきて、読者の抱く常識や思い込みを覆すような話を書くのが得意だ。彼の作品を読んでいると「ものごとの新たな見方」が得られる感じがする。そんなところが、特にいまの時代に人気を集めている理由の1つかもしれない。

 ところで、そんなグラッドウェルが、スポーツにも相当詳しいことはそれほど知られていない。少なくとも彼の著書ほどには知られていない一面かと思う。

 私がそのことに気付いたのは、NBAブルックリン・ネッツの本拠地、バークレイズ・センターの建設と、それを核にしたアトランティック・ヤード開発計画(ブルックリン中心部の大規模な再開発の計画)について調べていた時のことだ。

 ESPN(ESPN:ディズニーを支える「無敵のスポーツチャネル」参照)傘下のGrantlandというサイトに、この計画にまつわる一連の騒動についてまとめたグラッドウェルの記事が出ているのを見つけた時だった。

 なお、このGrantlandというサイト――スポーツの他、テレビや映画、音楽などのネタも扱っている――は、ビル・シモンズ(Bill Simmons)というスポーツジャーナリスト(通称「Sports Guy」として知られている)がESPNに資金を出させて運営している「サブブランド」のような媒体だ。NYTimesからESPNへの移籍を決めたネイト・シルバー(書籍『シグナル&ノイズ 天才データアナリストの「予測学」』著者、「土壇場の力」を科学する - NBAとデータ分析参照)も、「“Grantland”のような形で、自分のブランドの新媒体をやりたい」と移籍の理由を説明していた、そんな媒体でもある。

 ちなみにグラッドウェルはこのシモンズとかなり親しいようで、シモンズの著書「The Book of Basketball: The NBA According to The Sports Guy」に序文を寄せたり、2人の間でやりとりしたメールを書簡集にしていたりもする。12月13日にはこの第5弾がGrantlandに掲載されていた。

ダビデはいかにしてゴリアテを打ち破ったか

 さて、そんなグラッドウェルが10月に出した新作「David and Goliath: Underdogs, Misfits, and the Art of Battling Giants」には、彼のバスケットボールに寄せる愛情が伝わってくる話がいくつも盛り込まれている。

 第1章のタイトルにもなっている「Vivek Ranadive」をめぐるエピソードも、そうしたバスケットボール関連の話の1つ。アマゾン(日本)にある同書のカスタマーレビューには、作家・翻訳家の渡辺由佳里さんが書いた次のような文章がある。

……旧約聖書の有名な逸話「ダビデとゴリアテ(David and Goliath)の闘い」は、不利な条件の弱者が恵まれた条件の強者を破ることの例えによく使われている。一見珍しい出来事に思えるが、グラッドウェルによると、実社会ではよくあることである。不利な条件があるからこそ、人々はそれを克服するためのモチベーションを持ち、小さなサイズや不利な条件を利用する戦略を練り、恵まれた条件の者たちを倒してきたのだ。

(略)

私が特に興味深く思ったのはインド人実業家Ranadivの逸話である。彼の娘が入った中学校のバスケチームのコーチを引き受けたとき、インド生まれの彼はバスケットのことをあまり知らなかった。そのうえ彼の娘のチームの大半は、親がシリコンバレーで働いている勉強好きのナードな子どもばかりである。だが、MIT卒業のビジネスマンは、他のチームとは全く異なるアプローチでこのチームを全国大会に導いた……

 このヴィヴェック・ラナディブ(Vivek Ranadive)という人物(渡辺氏のいう「インド人実業家=MIT卒業のビジネスマン」)、実はティブコソフトウェア(TIBCO Software)という上場企業の創業者だ。

 このエピソードを簡単に説明すると、ラナディブはあるとき、末娘のアンジャリ(Anjali、当時12歳)がメンバーになっているバスケットボールのヘッドコーチを引き受けることになった。ところが、このチームには大きな弱点(ハンディキャップ)が2つもあった。

 その弱点とは、

  1. 選手は普通の子供、しかも先発5人のうち3人は娘のアンジャリも含め素人で、体格でも技術でも他校の選手に引けを取っていた。
  2. ヘッドコーチであるラナディブ自身も、それまでバスケットボールをプレイしたことが全くなかった(サッカーやクリケットが盛んなインドで生まれ育ったから当然かもしれない)。それに対し他のチームは、学生時代はスタンフォード大学(バスケットボールの強豪校でもある)のチームで選手だったような父親がヘッドコーチをしていたりした(この話の舞台はシリコンバレーのレッドウッド・シティという町)。

 ラナディブと彼の指導する女子バスケットボールチームが、この不利な状況をどうやって乗り越えたか、というのがグラッドウェルの話のキモに当たる部分。「部外者」(アウトサイダー)ならではの斬新な視点から考案された戦略・戦術が奏功して、見事全国大会まで勝ち進み……といった書かれ方をしている。ただし、義経の鵯越(ヒヨドリゴエ)や信長の桶狭間の戦いなどを知っている日本人にとっては、若干新鮮味に欠ける話かもしれない。

 このヘッドコーチの経験を通じてバスケットボールに目覚めたラナディブは、その後いきなりNBAチームのオーナーになる。一度目のゴールデンステート・ウォーリアーズ(GSW)では共同オーナー(少数株主)――筆頭株主はジョー・レイコブ(Joe Lacob)というクライナー・パーキンス(KPCB、老舗ベンチャーキャピタル会社)のパートナーだったけれども、ラナディブは副会長(Vice Chairman)だったというから、それなりの額を出資していたことがうかがわれる。

 さらに、このウォーリアーズ株式を手放して、ラナディブが代わりに手に入れたのが、サクラメント・キングズの筆頭株主の座。同チームを巡っては、サクラメントとシアトルという2つの都市がしばらくの間綱引きを続けていた

 この誘致合戦でシアトル側にいたのがクリス・ハンセン(Chris Hansen)という投資家とマイクロソフトCEOのスティーブ・バルマー(Ballmer)。一方サクラメント側では、市長のケビン・ジョンソン(Kevin Johnson、米国代表になったこともあるNBAの元スター選手)らがほうぼうに声を掛けていたらしく、一時はクアルコムCEOのポール・ジェイコブ(Paul Jacob)などもオーナーグループへの参加が取りざたされていた。

 引用個所を含んだ記事の見出しが、「ヴィベク・ラナディブはいかにしてスティーブ・バルマーやラリー・エリソンからバスケットボールチームを奪い取ったか」("How Vivek Ranadive Snatched A Basketball Team From Steve Ballmer And Larry Ellison")となっているのは、この2つのプロチーム争奪戦のせいだ(なお、GSW争奪戦ではオラクルのラリー・エリソンが競争相手だった)。

 サクラメント・キングズは今シーズンも下位に低迷しているが、「ビッグデータ・ガイ」("I'm a math guy, a big data guy")を自称するオーナーの下、近い将来どう変わっていくのだろうか。

文章の分解

 上記の背景を踏まえて、冒頭の英文を少しずつ区切りながら読み解いてみよう。

[1] He discovered basketball was a math problem. /

[2] "I'm a math guy, a big data guy. /

[3] I converted the game with a math equation and came up with a way to win every single game," he says.

[4] Since his girls didn't have the skills to compete by traditional methods, /

[5] his formula was to have them grab possession of the ball as much as possible. /

[6] They played "full-court press" and blocked passes, double-teamed the best players and blocked inbound balls.


[1] 彼は、バスケットボールが実は数学の問題であることに気付いた。

[2] 「自分は数学が得意な男であり、ビッグデータが専門の男だ」

[3] 「(そんな人間だから)試合の構造を数学の方程式に置き換え、そして全ての試合で勝つための方法を編み出した」と彼は語る。

[4] 彼の娘たち(チームの選手たち)は、従来の戦い方で競り合えるだけのスキルを持ち合わせてはいなかった。

[5] そこで彼が打ち出したのは、選手にできるだけたくさんのボールを相手から奪わせる(=相手チームにボールをできるだけ持たせない)という作戦だった。

[6] 選手らは、相手チームの攻撃時に「フルコート・プレス」を使ったり、パスをブロックしたり、相手チームのエースを2人がかりで守ったり、インバウンドパスを邪魔したりした。


もう一度英文を

 では最後に、もう一度英文を読み直してみよう。

He discovered basketball was a math problem. "I'm a math guy, a big data guy. I converted the game with a math equation and came up with a way to win every single game," he says.

Since his girls didn't have the skills to compete by traditional methods, his formula was to have them grab possession of the ball as much as possible. They played "full-court press" and blocked passes, double-teamed the best players and blocked inbound balls.


【復習】

1. 彼(ラナディブ)はバスケットボールが何に似ていることに気付いたのでしょうか。

2. 彼のチームの選手には、どんなスキルが欠けていたのでしょう。

3. 彼の編み出した戦法は、どんなものでしたか。


三国大洋 プロフィール

オンラインニュース編集者。「広く、浅く」をモットーに、シリコンバレー、ハリウッド、ニューヨーク、ワシントンなどの話題を中心に世界のニュースをチェック。「三国大洋のメモ」(ZDNet)「世界エンタメ経済学」(マイナビニュース)のコラムも連載中。


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