アマゾンと楽天――大手Eコマースサイトを裏側で支えるCDN1ミリ秒でも早く〜次世代Web技術が支えるこれからのEコマース(4)(2/2 ページ)

» 2014年04月10日 18時00分 公開
[松本直人(クロスワープ イーコマース エバンジェリスト),@IT]
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CDNの裏側へディープダイブ!

 世の中にCDNが登場してから既に10年以上が経過しており、大手CDN事業者のシステムは全世界に大きく広がっています。CDNは、DNSを用いて、ユーザーの最寄りのコンテンツ配信サーバーからデータ送信を行う仕組みで成り立っています。

 ここでは、先ほどCDN解析用に取得した「g-ec2.images-amazon.com」を使って、コンテンツ配信ネットワークの裏側をより詳しく見ていきましょう。

 まずは、nslookupを使って、CDNから返される最寄りのコンテンツ配信サーバーのIPアドレスを取得してみます(図8)。

C:\>nslookup g-ec2.images-amazon.com
権限のない回答:
名前:    a1xxx.g.akamai.net
Addresses:  125.56.XXX.XXX
            125.56.XXX.YYY
Aliases:  g-ec2.images-amazon.com
          g-ec2.images-amazon.com.edgesuite.net
図8 最寄りのコンテンツ配信サーバーのIPアドレスを取得する

 続いて、nslookupで得られた「125.56.XXX.XXX」をrobtex.comで解析します(図9)。

図9 コンテンツ配信サーバーのネットワーク接続性を確認する

 今回robtex.comから得られる情報は、コンテンツ配信サーバーのインターネット上における接続性を示すデータベース結果です。インターネットはAS(Autonomous System)と呼ばれる単位で相互接続しており、各ASにAS番号が付けられています。robtex.comでは、コンテンツ配信サーバーのIPアドレスからAS番号をひも付けてくれます(図10)。

図10 コンテンツ配信サーバーのIPアドレスとAS番号をひも付ける

 さて、「AS番号が分かるのはいいとして、それで何が分かるの?」という疑問が湧いてきたのではないでしょうか。続けて見ていきましょう。

 robtex.comではASごとに、他のどのような組織のASと接続しているかを記述したデータベースを参照できます。具体的に見るには「Peering Database」を押してみましょう(図11)。

図11 ASごとの「Peering Database」を確認する

 robtex.comの参照結果からは、「Exchange Point(どこで相互接続しているか)」や「ASN(そのAS番号)」、さらに「IP Address(相互接続に使われるIPアドレス)」と「Capacity(相互接続の回線帯域)」が分かります(図12)。

Exchange Point ASN IP Address Capacity
-------------- --- ---------- --------
CIIX (formerly LAAP) 20940 198.XXX.XXX.XXX 10000 Mbps
NYIIX 20940 198.XXX.XXX.XXX 40000 Mbps
Equinix Palo Alto 20940 198.XXX.XXX.XXX 80000 Mbps
Equinix Ashburn 20940 206.XXX.XXX.XXX 80000 Mbps
Equinix San Jose 20940 206.XXX.XXX.XXX 20000 Mbps
NOTA 20940 198.XXX.XXX.XXX 40000 Mbps
TorIX 20940 206.XXX.XXX.XXX 40000 Mbps
  :
図12 Peering Databaseから推定される全世界での相互接続ポイント

 ただ、注意が必要なのですが、残念ながら私にもrobtex.comのPeering Databaseが「どこまで正確であるか」は判断できていません。それでも、ただでさえ全体像が見えにくいCDNを俯瞰するという意味では十分な情報だと考えています(もちろん、自らCDNを設計・構築・運用できていれば話は別ですが、それができるのはほんの一握りの人に限られていますね)。

 ではさらに、得られた情報から「日本国内」と推定される情報のみを抽出してみましょう(図13)。

Exchange Point ASN IP Address Capacity
-------------- --- ---------- --------
JPIX 20940 210.XXX.XXX.XXX 20000 Mbps
JPIX 20940 2001:XXXX:XXXX::XXXX:XXXX:XXXX 20000 Mbps
JPIX OSAKA 20940 103.XXX.XXX.XXX 10000 Mbps
JPIX OSAKA 20940 2001:XXXX:XXXX:XXXX:XXXX:XXXX:XXXX:XXXX 10000 Mbps
Equinix Tokyo 20940 203.XXX.XXX.XXX 10000 Mbps
Equinix Tokyo 20940 2001:XXXX:XXXX::XXXX:XXXX:XXXX 10000 Mbps
BBIX Tokyo 20940 218.XXX.XXX.XXX 10000 Mbps
BBIX Tokyo 20940 2001:XXXX:XXXX::XXXX:XXXX:XXXX 10000 Mbps
JPIX	20,000 Mbps
JPIX OSAKA	10,000 Mbps
Equinix Tokyo	10,000 Mbps
BBIX Tokyo	10,000 Mbps
図13 Peering Databaseから推定される日本国内での相互接続ポイント

 ここでは、キーワードに「Japan」「Tokyo」「JP」「Osaka」を含むExchange Pointを抽出しています。これらの情報に基づいて、IPv4アドレスのみに特化して回線帯域をリストしてみました。

 いかがですか? 回線帯域が「太い」「細い」「普通」……と、感想は読者の方の立場によって異なってくるかと思います。

 前回の「年末商戦の裏側でECサイトには何が起きた?」でもご紹介しましたが、CDNでは複数のASを利用する場合も多く、またDNS上でコンテンツ配信サーバーのIPアドレスとして返される情報が別のASに属している場合も考えらえれます。

 私も10年も前に、日本国内におけるCDNとコンテンツ配信サーバーの分布状況を調べたことはありましたが、観測するインターネットサービスプロバイダー(ISP)ごとに異なる結果が出た経験があります。全体像をつかむのはなかなか難しいのが実情ですね。

Eコマースサイトの運用において大切なコト

 ここまで国内大手Eコマースサイトを支えるCDNの裏側を見てきました。普段、直接意識することの少ない(実際には触れているのですが)CDNの姿を、おぼろげながらも感じていただければ幸いです。

 Eコマースサイトには、小規模なものに始まり、中規模、大規模、そして超大規模と、さまざまなサイズのシステムが存在します。いずれのEコマースビジネスも日々の成長につれて、顧客ニーズを支える社会システムの一部として「安定稼働」と「スケールアップ」が望まれています。

 Eコマースサイトの規模が小さいうちは良いのですが、大きくなるに従って、必要とされる技術や運用手法は大きく変化します。国内大手Eコマースサイトの場合などは、「ここまで自社でやる必要があるのだろうか……」という感想を抱く方もいるかもしれません。

 一方、Eコマースサイトを運営する企業経営側から見れば、「IT設備をいかに効率良く構築、運用するか」、そして「新たなビジネスのためにIT設備増強を図るか」といった観点が問題となります。このとき「自前でやるか」それとも「外部プラットフォームを利用するか」は、実際にはそれほど大きなポイントではないのです。

図14 Eコマースサイトをスケールさせる考え方

 Eコマースサイトの性質はもちろん、取り扱う商品や顧客規模から「この程度のIT設備で十分だ」という判断に落ち着いている企業も多いかもしれません。しかしいつかは必ずそのシステムも陳腐化し、入れ替えを余儀なくされる時期が来るのです。

 従って、自社のEコマースビジネスを中長期的に考えた上で「これから必要とされるIT設備」を逐次調達することも重要ですし、突然舞い込んだビジネスチャンスを生かすために「すぐ使える」外部プラットフォームを利用するという選択肢も良いかもしれません。それぞれが営むEコマースビジネスの成長フェーズに合わせて、いま使える技術やサービスを段階的に導入していくシステムエンジニアの柔軟性も求められていくことでしょう(図14)。


 ここまで、普段はあまり意識することのないEコマースサイトの裏側、CDNについて紹介しました。次回もこれらEコマースを支える最新技術動向についての情報を共有していきます。ぜひご期待ください。

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