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» 2014年05月08日 18時00分 公開

経済評論家・山崎元の「エンジニアの生きる道」(1):なぜ理系は文系に使われるのだろうか? (2/2)

[山崎元,@IT]
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技術に経済価値を持たせているのは何か

 ズバリ答えると、理系人材に足りないのは、「営業」と「マネジメント」2つの力だ。

 優秀な理系人材は、自分の専門分野での自分の能力に自信と同時にプライドを持っている。従って、営業やサポートなど、顧客に近い仕事を避けたがる傾向がある。営業よりはサポート、サポートよりは開発、開発よりは基礎研究、といった具合に、より純粋研究に近い仕事を「高度な仕事だ」と見る気質がある。

 仕事の「格」にそれほどまでに敏感でない場合でも、自分の専門知識を直接生かす機会が少なく、顧客から「断られたり」、あるいは「目標数字が達成できなかったり」するリスクがある営業の仕事を避けたいと思うエンジニアが多い。

 しかし、考えてみよう。いかに優れた技術があって、これが製品やサービスにまで結実しても、そうしたアウトプットと顧客を結び付ける「営業」が存在しなければ、その技術は経済価値を持たない。エンジニアが属する組織が営んでいるのが「ビジネス」である以上、収益により近いポジションにいるのは、開発よりも、営業なのだ。

 筆者が長く関わってきた金融の世界でも、例えば外資系の証券会社では、金融工学に通暁していて複雑な金融商品を開発・作成できるリサーチャーよりも、利幅の厚い金融商品を買ってくれる顧客をすっかり取り込んでいる営業マンの方が高収入だった。他社から見た引き抜きの対象としても人材価値が高かった。

 ビジネスの世界では、「客を持っている」ことと、「ノウハウを持っている」ことの2つが、人材価値の根拠となることが多いのだが、確実にかつ高く評価されるのは前者だ。必然的に、営業の王者が、ビジネス組織全体の王者になりやすい。

ビジネスをゲームとして理解しよう

 組織のマネジメントにおける意識と行動力でも、理系人材は後れを取ることが多い。

 「技術的に何ができて、組織が今後何をするべきか」という問題はもちろん重要だが、ある程度組織が成熟してくると、同じくらいか、あるいはより重要になるのが、「人」と「お金」の管理だ。特に、資金繰りは会社の生死に関わるし、人事は組織に属する人々のモチベーションに関わる最重要のテーマだ。

 理系の人々は、他人に対して専門的に「できるか」「できないか」という専門能力面にだけ関心が向きやすい。しかし、良い人事を行うためには、評価対象者たちを「どう使えるか?」を価値にして、評価の与え方と人材の使い方を考える必要がある。

 では、多くのエンジニアの出身母体である理系の大学ないし大学院卒の人材は、文系学部出身者と比べて営業やマネジメントに向かないのだろうか。筆者は「そのようなことはない!」と考える。営業に必要な基礎力と、マネジメントに必要な基礎力は、理系と文系で特段の差は無い。そして、筆者自ら身に染みて思うことだが、大人になると、理系が文系の知識を後から補う方が、文系が理系の考え方を身に付けるよりも遙かに楽だ。

 もう一歩踏み込んで、営業とマネジメント力を高めるために、理系人材がどうすればいいのかを申し上げる。まず、自分の会社が業務プロセスのどこで利益を出しているかを「ゲーム」として理解し直すべきだ。理系の論理と数字に対する能力は、この理解に向いている。この際に、有効なのは、会社全体の予算をよく読むことだ。

 そして、直接営業に携わらなくても、顧客と接する機会を持つことが重要だ。会社の仕事の機会を利用するだけでなく、個人的な人脈を通じてでも、顧客との接点を持つといい。

 加えて、仕事において全ての面で、リーダーらしく振る舞うことが大事だ。意見を大きな声で言い、仕事に率先して取り組み、誰に対しても言うことを変えずに一貫性を保ち、同僚を元気づけるような言動が「リーダーらしい」。こうした人物が、組織の中では頼られるし、高評価を受けやすいのだ。

 つまるところ、野心ある理系出身者には、堂々と社長を目指してほしいし、技術を極めたいエンジニアにも、営業力とマネジメント力を身に着けるメリットを知ってもらいたいと思うのだ。

筆者プロフィール

山崎 元

山崎 元

経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員

58年北海道生まれ。81年東京大学経済学部卒。三菱商事、野村投信、住友信託銀行、メリルリンチ証券、山一證券、UFJ総研など12社を経て、現在、楽天証券経済研究所客員研究員、マイベンチマーク代表取締役、獨協大学経済学部特任教授。

2014年4月より、株式会社VSNのエンジニア採用Webサイトにて『経済評論家・山崎元の「エンジニアの生きる道」』を連載中。


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