アカデミー賞受賞者がつくったBIツールの昨日、今日、明日「高速」「簡単」「美しい」の力

米Tableau Softwareの共同創業者で、同社チーフサイエンティストのパット・ハンラハン(Pat Hanrahan)氏へのインタビュー。後編として、コンピュータ・グラフィックス(CG)の第一人者がなぜBIツールの会社をつくったのか、何を目指しているのかについて聞いた部分をお届けする。

» 2014年06月23日 09時55分 公開
[三木 泉,@IT]

[2014/06/24訂正]ハンラハン氏が3回受賞したのは、エミー賞ではなく、アカデミー賞でした。記事タイトルおよび本文の該当部分を修正してお詫びいたします。

 「データの視覚化」というテーマを具現化した、ユニークなBI(Business Intelligence)ツールで急成長する米Tableau Software。その共同創業者で、同社チーフサイエンティストのパット・ハンラハン(Pat Hanrahan)氏へのインタビューを、2つの記事に分けてお届けしている。前編の「Tableau創業者:あらゆるビジネス担当者がデータを分析できなければならない理由」では、ハンラハン氏のBIおよびビッグデータについての考えを聞いた。今回の後編では、コンピュータ・グラフィックス(CG)の第一人者がなぜBIツールの会社をつくったのか、何を目指しているのかについて聞いた部分をお届けする。

「多少ナイーブだったかもしれない」

 「個人的には、多少ナイーブだったかもしれない。私たちはBI(Business Intelligence)がどういうものなのか、よく理解していなかった」。ハンラハン氏は、10年前にTableau Softwareを創業した当時を振り返ってこう話す。

 「だが、それがよかった。この世界が革命的に変わらなければならないと信じていたし、他のだれとも全く違う存在になれた。当時は大企業と競合するエンタープライズ分野で起業すること自体が無謀だといわれたが、皆私たちのことを放っておいてくれた」。

 では、なぜTableauという会社をつくったのか。それは、ハンラハン氏がピクサー・アニメーション・スタジオの設立メンバーの1人として、ボリュームレンダリング・ソフトウェアを開発するなどし、アカデミー賞を3回も受賞していることと関係がある。

ハンラハン氏は、ボリュームレンダリング・ソフトウェアの開発、シーン記述言語のモデリングプログラムとレンダリングプログラムをつなぐプロトコルであるRenderMan Interfaceの開発などで、アカデミー賞を3回受賞している

 「ピクサーで、われわれはCGに取り組み、素晴らしい仕事ができた。だが、サイエンティストとしての訓練を受けてきた私は、新しい研究分野に進みたかった。『中年の危機』だったのかもしれない。データ分析にグラフィックス技術を使えるのではないかと考え、スタンフォード大学で教える仕事に就いた。当時学生に『CG技術を仕事に活用し、公衆衛生の向上などの重要な問題を解決できるはずだ』と話したのを覚えている。

 スタンフォードでは、(博士課程の)研究プロジェクトとして、こうした目的のためのデータ分析手法をどう確立するか、学生に考えさせた。私はゲームや映画の世界から来ているから、『高速』『簡単』『美しい』を基本としていた。これは当時のエンタープライズソフトウェアのモデルとは違っていた。だから面白いと思った。

 このプロジェクトで、学生の1人(クリス・ストールト氏:Chris Stolte)が、VizQLという言語と、Polarisというシステムを開発した。これが高い評価を得たので、彼はビジネスを始めようとしていた。教職を離れることを考えていた私は、彼とクリスチャン・シャボー(Christian Chabot)とともに会社を設立した。その時に掲げたミッションステートメントが、『人々がデータを見て、理解することを助ける』だ。グラフィックスから来たわれわれにとっては、『見て』が不可欠だった。また、視覚化に関するわれわれのノウハウで、『理解する』ことに貢献できると考えた」。

Excelの傍らでだれもがデータを扱えるツールを目指す

 Tableau Softwareは、前編でも取り上げたように、米IT調査会社ガートナーが2014年2月に発表した「Magic Quadrant for Business Intelligence and Analytics Platforms」でリーダーに分類された。ビジネスも急拡大しているという。「世間から認められる存在にはなった。だが、当社の進化はこれで終わりではない」ハンラハン氏は話す。

 「私たちのアプローチは認めてもらったが、私たちが実現したい世界にたどりつくために、やるべきことは多い。私たちは世界のすべての人々がデータを扱えるようにしたいと考えてきた。従って、今の使命は、高校生、大学生、ビジネスユーザー、政府職員を問わず、データをごく自然に扱えるような、Excelの傍らで使えるツールをつくることだ。だれもが使えるようになってこそ、次世代ツールとしての価値が証明されることになる」。

 では、具体的にはどうすれば、だれもが自然にデータを扱えるツールに近づくと考えているのか。

 「データへのアクセスから、分析の結果をプレゼンテーションするまでの全ての過程で、改善できる余地はたくさんある。一般の人々がどんな作業に時間を費やしているのかを見たり、本人に聞いたりすれば、それが分かる。人々が時間を無駄に費やしていると感じている作業があれば、それがどんなことであっても、当社の製品で取り組む対象になる。時間を節約できてうれしくない人はいない。

 例えばデータを見出す作業だ。データを分析しているときに、追加的にデータが必要になることはよくある。そのデータが別のデータベースに存在することもあるし、テキストのように別のデータ形式だったり、さらに他のデータと結合しなければならなかったりすることもある。データをきれいにしなければならない場合もある。こうした、人の手を止めてしまう部分を改善できる」。

 では、セミストラクチャード、ノンストラクチャードの多様な入力データ形式への対応はどうするのか。「データにセマンティクスを与えられる他のツールとの連携を強化することで対応している。ただし、長期的にはあらゆるタイプのデータに、シームレスにアクセスできるようにしなければならないと考えている」。

 ハンラハン氏は、データ分析の結果を容易にプレゼンテーションにつなげる、「ストーリーテリング」と呼ぶ機能の強化にも力を入れていると説明する(この機能は、Tableauが6月19日に発表したTableau 8.2にも「Story Points」という名で組み込まれている)。

Tableau 8.2のStory Pointsという機能では、データ分析結果から流れるような作業でプレゼンテーションをつくり、他人に伝えられるようにすることを目指している

 「この分野での機能改善のために、データジャーナリズムを推進しているジャーナリストたちの意見を取り入れた。物事を人々に説明し、ストーリーを伝える人たちだからだ。つまり、データ分析の場合と同様に、専門家しかできないと思われてきたことを一般の人々でもできるようにしようとしている」。

 モバイルデバイスへの対応の継続的な改善も、Tableauにとって今後の重要なテーマだ。同社のクラウドサービスおよび製品では、すでにタブレットなどへの対応が進んでいるが、各デバイスで最適な操作・表示の形式をさらに追求していかなければならない、とハンラハン氏はいう。その延長線上に、多言語・文化への対応がある。Tableauは最近、国際的な事業展開を活発化している。ダブルバイトには以前から対応しているが、それぞれの言語文化に合った最適な表示はどういうものかと考えると、機能改善の余地は大きいのだという。

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