「締切厳守」と「割り切り」の気になる関係経済評論家・山崎元の「エンジニアの生きる道」(4)(1/2 ページ)

締め切り前日の80点と、締め切り翌日の100点。上司に評価されるのはどちらだろうか?

» 2014年08月04日 18時00分 公開
[山崎元,@IT]
経済評論家・山崎元の「エンジニアの生きる道」

連載目次

プロフェッショナルとは何か

 一般に、プロフェッショナルの定義は「お金をもらって働く人」だが、筆者はむしろ「締め切りのある仕事をする人」の方がより実態に即していると思う。

 仕事でお金をもらうためには、通常それ以前に仕事を仕上げる必要があるし、前払いで報酬を受け取る場合には、厳しい締め切りを約束させられるのが普通だ。期限のない仕事は存在しにくい。筆者自身への自戒も込めて言うが、プロフェッショナルたらんとする者は、あらゆる時間の期限を厳守しなければならない。時間厳守こそが信用の基礎だ。

 しかし、いわゆるサラリーマンになり、安定した雇用の下に、定期的に収入をもらうようになると、しばしば時間の扱い方が曖昧になる。だが、この点に気付くか否かが、個人に対する評価の差に大きく跳ね返るのが普通だ。

 特にエンジニアの仕事にはしばしば研究の要素が含まれる。必然的にその内容は本人にしか把握できないものになりやすく、締め切りの設定が曖昧になりがちな場合もあるのではないだろうか。

 純粋にアカデミックな研究の世界では、真理に到達することが何よりも大事なので、そのためにかかる時間の重要性が、ともすれば軽く見られがちだ。エンジニアの中でも、場合によってはアカデミックなエリート層の方が、結果の完成度を求める一方で、時間に対する意識が甘くなることがあるのではないか。

 しかし、エンジニア、非エンジニアを問わず、ビジネスにあっては、「いつまでに」という時間の設定が決定的に重要だ。資本(ビジネスのために使うお金のこと)の裏側には、常に、金利なり、株主が期待する収益なりがあって、その評価尺度である「収益率」は時間に対して測られる。資本主義には、締め切りがつきものなのだ。

能力があるのに評価の低い人が生まれる理由

 ビジネスパーソンが時間を意識しなければならないもう一つの理由は、仕事が複数の人の関与で成り立っているからだ。誰か一人の仕事が期限までにできないことで、大きなプロジェクト全体が未完成になる場合があるし、部下に仕事を任せた上司は、部下が期限内にどの程度までの仕事を終えてくれるかを常に気にしているはずだ。

 部下として仕事をする場合の大事なコツを一つ述べておこう。それは、完成度に自信のない仕事は、アウトプットを早く出すことだ。

 多少正確性を欠くが、点数評価に例えていうと、上司からの評価は「締め切り前日の80点は95点であり、締め切り翌日の100点は50点以下だ」。

 完全主義者の専門家にとって80点は自己評価として耐えられない水準のアウトプットかもしれないが、期限までに100点を取る自信がない場合は、結果を早く出すことが、完成度の低さを救ってくれる。

 上司は、残り時間を使って完成度を上げる方法を指示するかもしれないし、自分で改善に取り組むかもしれないし、完成度が不十分であることに腹をくくって次の仕事の組み立てを考えるかもしれない。いずれにせよ、上司は余裕を持つことができる。

 部下は、未完成の部分があることが分かっている結果を、時間の余裕ゼロで上司に渡してはいけない。そういう部下に対して、上司は怖くて重要な仕事を頼めなくなる。必然的に、その部下は重要な成果に関与できなくなるから、高い評価を得られない。これは、「能力があるのに、評価の低い人」が生まれる典型的な原因の一つだ。

 もっとも、この状況にあっては、上司の方が、もっとうまく部下を使うべきだという問題もある。

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