アイデアを世に問う試金石? クラウドファンディングの可能性ものになるモノ、ならないモノ(56)(1/2 ページ)

読者の中には、自分の中に秘めたアイデアをクラウドファンディングを利用して形にしてみたいと考えている人も少なからずいるだろう。日本のクラウドファンディング事情を複数の事業者に尋ねてみた。

» 2014年08月07日 18時00分 公開
[山崎潤一郎@IT]
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 「クラウドファンディングは、単なる資金調達の道具ではない。自分のアイデアや開発中のプロダクツを社会が必要としているかどうかを見極める試金石だ」

 これは、実際にクラウドファンディングでプロジェクトを成功させた人や、クラウドファンディングの「中の人」など、複数の関係者が口をそろえて筆者に漏らした言葉だ。なるほどと思った。プロダクツ、サービス、イベント、クリエイティブ……何でも良いのだが、自分の中に閉じ込めているプチ起業マインドやクリエイティビティを世に問う手段として、うってつけの実験場なのだろう。

 いや何も、プチ起業である必要はない。「世界を変える」と信じて疑わないビッグプロジェクトの最初の第一歩をクラウドファンディングで踏み出すことで、自分の可能性を見極める場と位置付けてもいい。クラウドファンディング大国の米国では、Kickstarterから「Pebble Watch」や「Oculus Rift」といった世界に羽ばたくビッグビジネスが飛び出している。

 これらの成功事例は、アイデアや思いが広く受け入れられたことで、目標額をはるかに超える巨額の資金が「後から」ついてきた。Oculus Riftに至っては、Facebookに買収されるという、あっと驚く展開に至ったのは記憶に新しい。

 それらの実績全てがクラウドファンディングのたまものとは言わないが、きっかけになったことは確かだろう。資金調達という観点から見ても、1人から100万円の出資を得るよりも、100人から1万円ずつ出資してもらった方が、その時点で100倍のファンを作ることができる。

 実際、米国では、クラウドファンディングでプロジェクトを公開したことがきっかけでベンチャーキャピタルの目に止まり、出資を勝ち取った例も多々あるという。クラウドファンディングは、出資を受けるに足る事業かどうかを計測するプラットフォームになっている部分もあるのだ。

 日本でも同様の事例がある。無料のネットの学校(オンライン講座)を提供している「スクー」は、起業から間もない2012年の5月に日本のクラウドファンディング大手「CAMPFIRE」でプロジェクトを公開し、サイトの構築資金を調達した。

 それまでは、有志が集まって2週間で急造した「プレハブ校舎」(募集ページの比喩的表現)のようなサイトで運営していたのだが、クラウドファンディングで集めた資金でサイトを改修し、機能、デザイン共にメジャー感に溢れたサイトとして再構築を実現した。その後、会員を順調に伸ばし、第三者割当増資を実施したり、ベンチャーキャピタルから出資を受けるなどし、今では、日本を代表する無料のオンライン講座に成長している。クラウドファンディングが離陸前の助走を後押しする推進力の役割を担ったわけだ。

寄付型、投資型、購入型の3つに大別

 読者の中には、自分の中に秘めたアイデアをクラウドファンディングを利用して形にしてみたいと考えている人も少なからずいるだろう。そのような人のために、プロジェクトの立ち上げから実現に至るまでのプロセスで、注意すべきポイントを挙げてみた。

 まず考えなければならないのは、クラウドファンディング事業者選びだ。日本のクラウドファンディングは、「寄付型」「投資型」「購入型」の3つに大別できる。

 寄付型は文字通り、お金を出す側が見返りを要求しないタイプ。従ってプロジェクト実行者も資金提供者に対しリターンを発生させる必要はない。iPS細胞でノーベル生理学・医学賞を受賞した山中伸弥教授の京都大学iPS細胞研究基金のプロジェクトなどは、3000万円近くを集めている。ただ、こちらは主に非営利プロジェクトを中心に扱うもので、読者の皆さんがイメージしているものとは異なるだろう。

 2つめの投資型は、圧倒的に数が少ない。このタイプは、金融商品取引法に基づいた事業者登録が必要なだけに、事業者側に金融取引のノウハウが必要となる。また、サイトの開設手続きや運用ルールが購入型に比べて厳しいので、簡単に参入できる分野ではない。また、プロジェクトを立ち上げる側も、それなりの事業計画資料などを用意しなければならないなどハードルが高い。本気の起業を目指す気構えが求められる。「セキュリテ」や「クラウドバンク」といった事業者がいる。

 一方、今、盛り上がっているのが購入型だ。日本では100サイトほど立ち上がっているといわれており、多くのクラウドファンディングサービスが購入型に分類される。購入型というだけに、支援者は、ECサイトを利用する感覚でお金を支払い、開発商品、コンテンツ、サービス、イベント参加といった形で、支援に対するリターンを受け取る。事業者がクラウドファンディングとしてサイトを立ち上げる場合も、特定商取引法など、ECサイトのスキームで参入できるため敷居は低い。また、プロジェクトを立ち上げる側も、参加のハードルが低いのが特徴だ。

 購入型のクラウドファンディングのサイトを見ると分かるが、「イベント」「プロダクト」「テクノロジ」といった形で、プロジェクトの内容によりジャンル分けされている例が多い。今回、話を聞いたサイトの1つ「シューティングスター」は、総合型に分類され、あらゆるジャンルを取り扱っている。

 一方、音楽、映画、アート、地域系ビジネスなどのように、特定のジャンルに特化したり、それを得意とするサイトもある。例えば、「ミライブックスファンド」は、その名が示す通り、主に出版が絡んだプロジェクトを得意としており、アイドルの写真集や企業が企画したムックなどのプロジェクトが既に実現している。面白いことに、単に本を出すという目的だけではなく、著者が全国各地で講演会を開催するために必要な交通費を集めるために立ち上げたプロジェクトなどもある。

 ミライブックスファンドの場合は、大日本印刷がプロジェクトをサポートしていることから、個人がプロジェクトを立ち上げるというより、出版社を含めた一般企業が本(紙の本だけでなく電子書籍も含む)に絡んだ何らかの企画をクラウドファンディングを通じて資金調達して実施したい場合に利用する、といったシーンを得意としている。

事前審査や目標額の設定方法は?

 通常、何らかのプロジェクトを立ち上げようとする場合、まずは事業者のサイトから申し込む。ただ、基本的に事業側の事前審査があることは覚えておこう。

 審査がどのように実施されるのか気になるが、「社内では一定の審査基準を設けているが、審査の仕方はプロジェクトの内容によりケース・バイ・ケース」(シューティングスターの上村祐介氏)なので、普遍的な基準を示すことは難しいそうだ。

シューティングスターの上村祐介氏

 筆者の周囲では「ある大手クラウドファンディングサイトから、実現性が低いし実態が見えないと門前払いを食らってしまった」(クラウドファンディング経験者)という声もあるだけに、ちょっと心配ではある。

 ただ、シューティングスターの上村氏が言うには「極力お断りはしない方針」とのことで、内容が不十分と感じられたら、プロジェクトオーナーとやりとりしながら公開にこぎ着けるよう、最大限の努力をするそうだ。オーナー側も改善の努力をすることで「基本的にはプロジェクトの公開にまでこぎ着けることはできる」(上村氏)という。

 つまり、いきなりの門前払いはないということだ。ただ、改善点を示して企画を差し戻したら、そのまま音信不通になるケースもあるそうで、企画を立ち上げる側も情熱をもって望むことは必要だろう。

 さて、無事にプロジェクトの公開にこぎ着けたとしても、クラウドファンディングは、それで一件落着というわけではない。支援者を集め、目標額を達成しなければ、「思い」を実現することはできない。目標額を達成するためのコツがあるのかどうか気になるところだが、「公開されれば黙っていても支援が集まって来ると思っている人はまず失敗する」(シューティングスターの上村氏)と釘を刺されてしまった。

 クラウドファンディングの場合、Facebook、Twitter、ブログなど、ソーシャルメディアを利用した拡散が成否を分けるという。オーナーの発信力が問われるところだが、シューティングスターでは、目標額を達成するために「3分の1ルール」を設け、支援者獲得のための活動方針を示している。

(1)プロジェクトオーナーによる発信で3分の1の額

 「友だち」「フォロワー」「友人・知人」など、自身の努力で目標額の3分の1を集めることが可能かどうかは、審査段階で確認するそうだ。公開後、1週間で目標達成率30%を超えたプロジェクトは全て、最終目標額を達成しているという。言い換えれば「最初の種火」は自分の努力で何とかしろ、ということだ。

(2)支援者によるシェアやリツイートで3分の1の額

 支援を決めてくれた人は、目標額に達してプロジェクトが成立しないとリターンを受け取ることができないので、シェアやリツイートで拡散に協力してくれる。また、そのような支援者に対し拡散を依頼することも大切だ。

(3)シューティングスターによるプロモーションで3分の1の額

 シューティングスター側でも、トップページへの掲載、メルマガ配信、公式SNSでの紹介、マスコミなどを通じたPR支援を行うという。サイト側としても、目標額に達し、後述する手数料収入を得なければ収益が得られないからだ。

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