連載
» 2014年08月18日 18時00分 公開

「訴えてやる!」の前に読む IT訴訟 徹底解説(4):検収後に発覚した不具合の補修責任はどこまであるのか(前編) (2/2)

[ITプロセスコンサルタント 細川義洋,@IT]
前のページへ 1|2       

 裁判所は判決において、原告ベンダーの請求を棄却した上で、前払金約1143万円の返還と損害賠償金約581万円の支払い、計1724万円を命じたのだ。判断の理由の要旨は以下の通りである。

1 システムが完成したかどうかは、契約で予定していた最後の工程まで終わっているかどうかを基準に判断すべきである。本件では完成したといえる。

2 システムの検収後に、注文者から不具合発生の指摘を受けた場合、請負人がすぐに補修すれば、その不具合は解除原因にはならない。しかし、今回は補修がされておらず、かつ、重大な不具合なので解除原因となる。

 「システムを完成させても、指摘された不具合をきちんと補修しなければ、たとえ検収を受けていたとしても契約解除の原因となる」との考えである。

 裁判所というと、契約書や検収書などの内容や押印などのいわゆる「紙モノ」ばかり重視して、現実に即した判断をしてくれないような印象を持つ人も多いかもしれないが、実際にはそんなことはない。

 「開発したシステムが当初の目的を実現し、ユーザーの業務に寄与するものであるか」という観点で、実際の作業や納入されたシステムを検証し、「不十分である」と考えれば、ベンダーの非を問う。そうした場合は、たとえ正式な手続きを踏んで押印された検収書であっても錦の御旗になるとは限らない。この判決は、裁判所のそうした考え方を如実に表すものだった。

請負契約を全うするために必要な活動とは

 この判決を読者はどのように受け止めたであろうか。

 「それなら検収書の意義とは何なのか」と疑問を呈する方もいるかもしれないし、逆に「現実を良く把握した上での判断だ」と、裁判所に賛同する意見もあるかもしれない。いずれにせよ、ベンダーはシステムの開発を仕事とする以上、単に要件として定義されたものを作るだけでは足りず、ユーザーが使えるようにデバッグを真摯に行わないと、契約を解除され、費用が全く支払われない危険があることは理解できたと思う。

 では、ベンダーが開発請負契約を完遂したことをユーザーに認めてもらい、約束した費用を支払ってもらうためには、どのような活動が必要になるのだろうか。これについては、少し丁寧な説明が必要となるため、詳細は後編に譲ることとし、今回はそのポイントを挙げるに留めたい。

 当然のことながら、こうした活動は、プロジェクトの開始当初から心掛け、導入後も確実に実施すべき事柄である。以下を参照されたい。

ベンダーがユーザーに確実に費用を払ってもらうために必要な活動

1 要件の必要性・十分性の検証

 要件がシステム導入の目的を果たすのに必要かつ十分であるかの検証を行う。本件では、システム導入の目的が「管理業務の迅速化」であったにもかかわらず、システムの処理速度について定義が不十分であった。

2 性能検証の実施

 本件システムのように性能要件がシステムの導入目的に大きく影響するものである場合には、できる限り早期にデモ環境などによる性能検証を行うべきであった。

3 受入テストのケースと完成基準の設定

 「被告ユーザーが検収を行ったにもかかわらず、本稼働後に看過できない不具合が検出された」ということは、「テストケースとシステムの完成基準にヌケモレがあった」と考えられる。

4 本稼働後に検出された不具合への対応

 被告ユーザーから不具合の指摘を受けた際、原告ベンダーは不具合の責任の所在を論ずる前に、迅速に調査および被告ユーザーとの真摯な対応策検討を行うべきであった。



 これらのことは皆、言われてみれば当たり前のことばかりである。しかし、実際にプロジェクトを始めてみると、ひっぱくするスケジュールや予算、要件変更などが原因となって、しっかりとやりきれないことも多く、実際以上に起因するIT訴訟も多い。次回は、これらの活動の詳細について説明しよう。

本判決についての参考文書

情報システム・ソフトウェア取引高度化コンソーシアム編 「経済産業省 情報システム・ソフトウェア取引トラブル事例集」(36〜37P)

東京地方裁判所平成14年4月22日判決 (平成10年(ワ)第22251号、平成11年(ワ)第18926号)


細川義洋

細川義洋

東京地方裁判所 民事調停委員(IT事件担当) 兼 IT専門委員 東京高等裁判所 IT専門委員

NECソフトで金融業向け情報システムおよびネットワークシステムの開発・運用に従事した後、日本アイ・ビー・エムでシステム開発・運用の品質向上を中心に、多くのITベンダーおよびITユーザー企業に対するプロセス改善コンサルティング業務を行う。

2007年、世界的にも季少な存在であり、日本国内にも数十名しかいない、IT事件担当の民事調停委員に推薦され着任。現在に至るまで数多くのIT紛争事件の解決に寄与する。


ITmedia オルタナティブブログ「IT紛争のあれこれ」

美人弁護士 有栖川塔子のIT事件簿

書籍紹介

モメないプロジェクト管理77の鉄則

「IT専門調停委員」が教える モメないプロジェクト管理77の鉄則

細川義洋著 日本実業出版社 2160円(税込み)

提案見積り、要件定義、契約、プロジェクト体制、プロジェクト計画と管理、各種開発方式から保守に至るまで、PMが悩み、かつトラブルになりやすい77のトピックを厳選し、現実的なアドバイスを贈る。


なぜ、システム開発は必ずモメるのか?

細川義洋著 日本実業出版社 2160円(税込み)

約7割が失敗するといわれるコンピューターシステムの開発プロジェクト。その最悪の結末であるIT訴訟の事例を参考に、ベンダーvsユーザーのトラブル解決策を、IT案件専門の美人弁護士「塔子」が伝授する。


前のページへ 1|2       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

編集部からのお知らせ

8月8日10時30分〜16時30分の間、システムメンテナンスのため記事の一部表示や資料のダウンロードができなくなります。ご理解のほどよろしくお願いいたします。

RSSについて

アイティメディアIDについて

メールマガジン登録

@ITのメールマガジンは、 もちろん、すべて無料です。ぜひメールマガジンをご購読ください。