「IT部門はビジネスの設計・構築に注力すべきだ」―― 日立、目的に最適なシステム基盤のPaaS提供を開始目的に最適な構築済みシステム基盤をクラウドサービスとして提供

個別最適で構築された多数のシステムが乱立し、データフォーマットもばらばらなデータベースが散在している中で、どうすればデータ分析基盤を短期間・低コストで整備できるのか? その一つの現実解を聞いた。

» 2014年10月03日 20時00分 公開
[内野宏信@IT]

データ形式がばらばらな中、ビッグデータ分析基盤をいかに短期間で築くか

 ビッグデータ活用が社会に浸透して久しい昨今、多くの企業がデータ活用に乗り出している。特に近年は、多様なデータソースを使って任意の分析軸で可視化する製品群が複数のベンダーから提供されているが、一定以上の規模――例えば物理サーバー台数で数百〜数千台規模のシステムを持つ企業が全社規模でのデータ活用を考えるとなると、全部門・全拠点のデータを高速・正確に分析する上でデータベース(以下、DB)統合が求められる。

 しかし、個別最適でシステムを構築してきた日本企業では、多数のITシステムが乱立し、DBも散在している例が多い。しかも同一の企業・グループ内でも、拠点ごとにデータ項目、データ形式が異なっている方が一般的だ。こうした中で統合DBを築くためには、データの正規化をはじめ、各システムからデータを抽出・変換するためのバッチプログラムを多数作り込む必要もあるなど、一定以上の時間とコストを要する。

 ではデータフォーマットがばらばらな多数のDBを持つ大規模企業が、「必要なデータを、必要なときに収集・分析できる」環境を、短期間・低コストで築くためにはどうすれば良いのか?――その一つの現実解として、日立製作所(以下、日立)が2014年9月25日に発表したのが、目的に応じてミドルウェア群を最適な形で組み合わせてPaaSとして提供する「Hitachi Integrated Middleware Managed Service」だ。同社は以上のような課題をどのようなアプローチで解決するのだろうか? 日立製作所 情報・通信システム社 ITプラットフォーム事業本部 開発統括本部の村井和男氏に聞いた。

ビジネス目的に最適な完成済みシステム基盤をクラウドサービスとして提供

ALT 日立製作所 村井和男氏

 「今、企業には市場ニーズをいち早く把握し、製品・サービスに反映するスピードが求められている。そのためには、ビジネスニーズに対応できるシステム基盤も迅速に構築しなければならない。だが、例えばシステム連携やデータ連携が求められた際、多数のバッチプログラムを一から作らなければならないなど、スクラッチでは時間もコストも掛かってしまう。そこで開発したのが、目的に応じて、あらかじめ必要なミドルウェアを最適な形で組み合わせ、その運用管理機能も含めてPaaSとして提供するHitachi Integrated Middleware Managed Serviceだ。つまりユーザー企業は、従来のように一からシステム基盤を構築する必要なく、ビジネス目的に応じたシステム基盤を、必要なときに、スピーディに利用可能となる」

 村井氏は、Hitachi Integrated Middleware Managed Serviceについてこのように解説する。具体的には、「目的に最適なミドルウェアの組み合わせ」を「システムパターン」としてあらかじめ設計。これに応じて、やはり目的に最適な形で設計したパラメーターやツールを使って、日立が持つ各種ミドルウェア製品や関連オープンソースソフトウェアを最適な形に統合して提供する――いわばビジネス目的に最適な完成済みシステム基盤をサービスとして利用可能にする仕組みだ。

ALT 目的に最適なミドルウェアを組み合わせ、プライベートクラウド上などに、PaaSとして提供するHitachi Integrated Middleware Managed Service

 システムパターンは、システム連携基盤を構築する「データ連携」「プロセス連携」と、業務システム実行基盤を構築するための「Webシステム」「大規模バッチ」の4種類。今後もラインアップを拡充し、これらを使ってさまざまな「目的」にスピーディに応えていくという。

 「IaaS層はコスト削減を主目的にしたベストオブブリードの考え方が重視されているが、PaaS層では複数のベンダー製品を組み合わせることよりも、ビジネス目的に最適なスペックをいかに確保するかが重視されている。Hitachi Integrated Middleware Managed Serviceも『ビジネス目的の実現』『何ができるのか』にフォーカスして開発した」

 その「目的に最適なシステム基盤」の第1弾として、今回リリースしたのが、「データ連携基盤サービス」だ。多数の既存システムのデータを仮想統合したDBを作り、エンドユーザーが任意のデータを取得、任意の視点で分析可能な環境を作る。

 具体的には、既存システムのDBから直接データを抽出するのではなく、DBの更新ジャーナルから最新のデータを高速で取得、仮想統合DBに蓄積する。その上で、フォーマットがばらばらなデータを仮想的にマッピングすることで、もともと一つのテーブルとして管理されていたデータのようにデータの意味付けをそろえる。これを例えばBIなどの情報系システムに配信することで、エンドユーザーは任意のデータを任意の軸で可視化、分析できる仕組みだ。この高速な抽出・蓄積・マッピングには日立のビッグデータ関連ミドルウェアの機能が使われているという。

ALT ビッグデータ分析基盤をPaaSとして提供。仮想統合DBを構築し、マッピング機能を使って、データフォーマットがばらばらなデータでも分析可能な状態にしてBIなどに配信する

 「ポイントは、DBのテーブルにアクセスせず、更新ジャーナルからデータを取得するため、DBの性能、ひいては業務への影響を最低限に抑えられること。また、分析基盤を作るためにDWHを構築する方法の場合、欲しいデータが変わると、時間と手間をかけてデータの洗い替えをしなければならなかった。だが、この仕組みならそうした手間も不要だ。多数の既存システムの、最新のデータから、欲しいデータを即座に入手し、分析に生かすことができる。あくまで“システムも業務もそのまま”で、大量データをタイムリーに分析できる環境が整うことが最大のメリットだろう」

“システムの設計・構築”より“ビジネスの設計・構築”を目指すべきだ

 この基盤を導入する際、ユーザー企業側は、データの抽出先システム、抽出時間などの「抽出設計情報」、データをマッピングするための「変換設計情報」、データの配信先や配信形式を指示する「配信設計情報」の3つを指定すれば、日立側が先のシステムパターンを使って短期間で基盤を構築し、プライベートクラウド基盤上などに展開する。

 構築も、日立のクラウドサービスプラットフォーム「Cosminexus」の機能を使い、各種設計パラメーターを基に自動構築するため、「システム規模や要件にもよるが、実統合データベースをスクラッチで構築する方法に比べ、最大で構築期間の半減も見込める」という。

ALT SIの知見を標準化した「システムパターン」を使って運用管理機能も含めて基盤をスピーディに自動構築。従量課金制で提供する。個別見積もりだが、30システムをデータ連携させた分析基盤の場合、月額500万円からが目安だという

 なお、このシステムパターンとは、日立のSI経験を基にシステム設計・構築・運用ノウハウを標準化したリファレンスアーキテクチャであり、運用管理機能として統合システム運用管理「JP1」の障害予兆検知、リソース監視機能、定型作業の運用自動化機能なども併せて実装される。これにより、今回のビッグデータ分析基盤も「すぐに使える状態」で提供されるという。

 村井氏は、「さまざまなミドルウェア製品群を提供しているが、システムパターンは各種製品を、より効果的・合理的に使いこなすための知見といえるもの。これを基に、各社の目的に最適なシステムをクラウドサービスとして提供することで、ユーザー企業にとって、まさに今やりたいことを迅速に実現できる環境が整う」と強調。また、昨今の情報システム部門やIT小会社の状況を見据え、「ベンダーやSIerに一から設計指示を与え、一から構築するという“システムの設計・構築”にリソースを奪われることなく、システムを使っていかに収益に寄与するかという“ビジネスの設計・構築”への注力に、Hitachi Integrated Middleware Managed Serviceは大きく寄与するはずだ」と述べ、PaaSの利便性と“いまIT部門に求められている役割”を強く示唆した。

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