徹底比較! 運用自動化OSSと商用ツール、両者の違いと使い分け、見極めのポイント特集:運用自動化ツールで実現する、クラウド時代の運用スタイル(3)(3/4 ページ)

» 2014年10月29日 18時00分 公開
[溝口則行/久保栄子TIS株式会社]

ケーススタディで考える「OSSと商用ツールのメリット・デメリット」

 さて、ここまではOSSと商用ツールを使い分けるための考え方・観点について総論的に述べてきた。しかし実際には、ツールを選定するケースごとに個別の事情があり、その事情に応じてOSSが適していたり、商用ツールの方が無難だったりする。以下ではいくつかの具体的なケースを示す。各種ツールの適・不適を考える一助としてほしい。

1.「大規模システムで監視対象の数が多い/仮想化、クラウドによるシステムの拡張・縮小も行っている」環境で、運用監視を自動化したいケース

 大規模システムのため、監視するサーバーや、プロセス、ログの量が多い。仮想化、プライベートクラウドによりシステム拡張が容易になったので、拡張による監視対象数の増加も想定しておきたい――こんなケースに向いているOSSの運用監視自動化ツールが「Zabbix」だ。

ALT 図3 Zabbixの画面イメージクリックで拡大

 Zabbixは、ラトビアのZabbix SIA社が開発した監視ソフトウェアである。OSS製品の中でも、大規模環境の対応に優れており、公式サイトでは、監視対象デバイス10万以上の導入実績が提示されている。仮想化、クラウド利用により、サーバー数が一気に増加することが想定されるのであれば、Zabbixのような大規模監視に対応したツールを選定する必要がある。

参考リンク:徹底比較! 運用監視を自動化するオープンソースソフトウェア10製品の特徴、メリット・デメリットをひとまとめ(@IT)

 また、拡張・縮小による変更管理の容易さも確認しておく必要がある。仮想環境では、「昨日存在していた仮想サーバーが、今日は消えている」といったことが珍しくない。またサーバー台数の拡張・縮小には、その都度、サーバーに対する監視設定追加・削除の作業が伴うため、拡張・縮小を頻繁に行えば行うほど管理者の作業が増えてしまう。従って、サーバーの拡張・縮小に対する監視設定の追加・削除は、できる限り自動化したいところだ。

 その点、Zabbixは「VMware vCenter」と「VMware vSphere」上のハイパーバイザーや仮想マシンを自動検出し、監視を自動追加するといった、仮想環境の拡張・縮小に適した監視を提供する。

 しかし、制限もある。この機能は、2014年10月現在、VMware環境のみに対応しており、「AWS」(Amazon Web Services)の仮想サーバーでは使用できない。AWS環境で監視を自動追加する場合は、「HyClops for Zabbix」というAWS環境に対応するZabbix拡張用OSSツールと組み合わせる必要がある。

 また、仮想環境の監視については、後述する「Hinemos」や「Pandra FMS」でも対応している。両者ともVMware環境については有償オプションとなるが、HinemosはAWS、「Cloudn」「Microsoft Azure」に、Pandra FMSは「AWS EC2」インスタンスにOSSで対応している。つまり、対応している仮想環境はOSS製品ごとに異なる。

 このように、監視対象の数や、必要な機能、対応している仮想環境の種類など、さまざまな要因で利用できるOSS製品は変わってくる。要望によってはOSSだけでなく、商用ツールも含めて選定する必要がある。

2.監視とバッチジョブをまとめて自動的に管理したいケース

 監視と一緒によく要望に上がってくるのがバッチジョブの管理だ。従来から、監視とバッチジョブ管理の両方を備えた商用ツールが多く存在していたためか、監視とバッチジョブをひとくくりにして運用するケースが多々存在する。

 監視とバッチジョブをまとめて取り扱えるOSS製品として、Hinemosがある。Hinemosは、NTTデータが開発した日本製の統合運用管理ツールだ。

ALT 図3 Hinemosの画面イメージクリックで拡大

 監視とバッチジョブをOSS製品で管理する場合、「JobScheduler」というドイツの非常に多機能なジョブ管理ツールや、大和総研ビジネス・イノベーションの「Job Arranger for Zabbix」を、Zabbixと組み合わせて利用する方法もあるが、ここでは、監視とバッチジョブ両方の機能を持ち、同じ管理画面でまとめて利用できる点に注目してHinemosを紹介しよう。

 Hinemosには、「ジョブの実行・ジョブの成功/失敗の通知」という基本機能に加えて、「ジョブの開始や終了が遅れた場合に通知」する機能、「前ジョブの終了値や成功/失敗によって、次の実行ジョブを変更する機能」なども持ち、柔軟なバッチジョブ設計が可能となっている。

 また、Hinemosは監視・バッチジョブ両方を同じクライアント画面上で管理できるため、監視・ジョブの登録方法や、監視検知・バッチジョブ実行の確認方法など、それぞれの操作が似ている。そのため、管理者にとっては覚えるべき操作方法が少なく、扱いやすいという点もメリットの一つだ。

 ただし、Hinemosにも物足りない部分はある。ジョブは通常、ジョブネットの定義に基づいて連続実行される。ジョブの連続実行に失敗した場合には、「どのジョブが実行されて、どのジョブが実行されなかったのか」を把握する必要があるため、実行経路を簡単に確認できることが重要だ。

 こういった場合に備えて、多くの商用ツールでは、実行経路を簡単に確認できるように、ジョブ画面をフロー図として図示する機能を提供している。しかし、HinemosのOSS版ではこの機能は提供されない。この機能を利用したい場合は、有償の「Hinemosジョブマップオプション」を購入する必要がある。また、最新のジョブ実行状況を確認するためには、画面の更新ボタンをクリックする必要があり、「リアルタイムでジョブの実行状況を管理画面に表示したい」という要望は対応できない。

 リアルタイムでジョブフローを確認したい場合、OSS製品では「Job Arranger for Zabbix」がその機能を持っている。しかし、Job Arranger for Zabbixの場合、管理画面はZabbixそのものなので、監視画面はWebブラウザー、ジョブ管理画面はWindowsのアプリケーション画面となり、一画面でまとめて利用することができない。

 OSS製品でも監視とバッチジョブの管理は可能だ。しかし管理する上で出てくる、以上のような“ちょっとした煩わしさ”を軽減する機能は限定されている。商用ツールは、こういった管理上の煩わしさへの気配りに長けた機能を多数用意している。運用上必要と感じた場合は、商用ツールの利用も視野に入れて検討するべきだろう。

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