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» 2014年12月25日 20時30分 公開

ゲーム嫌いも知っておきたい3D CG/VRのエンタープライズ活用事例〜Unity Solution Conference 2014まとめ (3/5)

[高橋睦美,@IT]

【医療】Unityで作った脳の3D画像が脳外科医の執刀を支援する

東京大学 医学部 脳神経外科 金太一氏

 続いて登場した東京大学医学部脳神経外科の金太一氏も、同じく、Unityをより良い医療の実現のために活用する取り組みを紹介した。金氏は「臨床医療における3DCGの使用経験と機器開発」と題し、Unityで作成した高精細の画像データを脳外科手術のシミュレーションに活用する事例を紹介した。「臨床医療に非常に有用であること」をキーワードに開発を進めているという。

 脳というのは非常に細かく、繊細な部位だ。手術中、メスが触れる場所がほんの数ミリ違っただけで大きな後遺症が残る恐れもある。このため、CTやMRIの画像をベースに、実際の脳の形状に忠実で高精細なシミュレーション画像ができれば大きな手助けになるが、生成処理に時間がかかり過ぎてもいけない。手術は日々行われるため、「数時間程度で生成できないと臨床には使えない」という。

26種類、約7000枚にも上る脳のCTスキャン画像を全て見るのは非現実的

 金氏がまず取り組んだのは、「医用3D CG画像の作成」だ。脳梗塞などの手術の際には、CTスキャンなどで脳の様子を何枚も撮影する。時に、その数は26種類、約7000枚にも上るというが、「執刀医がその全てに目を通すのは現実的に無理。そこで、撮影した画像を元に3D CG化できないだろうか」と金氏は考えた。

 CTやMRIで撮影した画像は解像度が十分とは言えず、しかも白黒画像。このため「正常な血管と異常な血管、動脈と静脈の区別がつきにくい」(金氏)という課題もある。そこで、多数の画像に「レジストレーション(2つの画像間で三次元的な対応関係を求める)」「セグメンテーション(対象領域を抽出する)」「レンダリング」といった処理を加え、高い分解能で、必要とする情報のみを抽出するシステムを開発した。

 これにより、患者の脳の様子を3Dで示し、さまざまな角度からぐるぐる回しながら確認できるようになった。しかも画像はカラーで、入り組んだ血管を、種類ごとにビジュアルに表示することもできる。東大では、この5年間で600症例以上にこの仕組みを活用しているという。

医師の知見をマッピングして手術の負担を減らす

 金氏が次に取り組んでいるのは、医用シミュレーションソフトウェアの開発だ。医療用シミュレーションソフトウェアはいくつか存在するものの、操作が容易とは言い難い。ただでさえ修羅場の手術室で、何十種類もの医療機器を操作しながら使うのは困難だという。金氏が開発している医用シミュレーションソフトウェアはUnityを用い、iPadなどタブレット端末で簡単に利用できるGUIを採用した。

 「RPGに例えると、医用画像診断ソフトは『敵がいるか、いないか』を判断するもので、それだけでは敵は倒せない。シミュレーションソフトは、どうやって倒すかにフォーカスしたもの」(金氏)。

 この目的を達成するため、治療個所(例えば脳動脈瘤ができている血管)の二次元的な形だけではなく、三次元的な形状やその変化、中を流れる血流の状態なども含めて可視化し、「どこが破れやすそうか」「当面は様子見でいいのか。それとも、緊急措置が必要か」といった判断を下せるようにするという。「MRIを一回取っただけで、治療に必要な情報を提供できるソフトを開発中だ」(金氏)。

 さらに、教科書だけでは分からない、過去の手術経験を踏まえて蓄積されてきた知見を、治療箇所にマッピングして示すビューワーもUnityで開発している。脳には、言語中枢や運動中枢など、深刻な後遺症が残る恐れがある部分がある。教科書ではある程度「この辺」と示されてはいるが、実際の脳はその通りとは限らない。そうした箇所は、紙に書いたり、時には手術中に露出した患部に直接マーキングして確認してきたそうだ。それが画面上でビジュアルに示されることで、直感的に把握できる。

 しかも実際のMRI画像をベースにしているため、「この患者さんの症状はこうなっているから、こちらの角度から手術を始めよう」「この患部にはあのクリップを用いよう」といった具体的な方針を、手術室で頭を開いてからではなく、事前に検討できるようになる。よりよい方法で手術ができれば、手術時の患者への負担も減らせる。

 「車を運転するときに、いちいちマニュアルを引っ張り出してきて参照する人はいないでしょう。実際の運転で頼りになるのは、それまでの運転経験と道路の情報。このシミュレーションソフトは『カーナビ』のようなもので、過去の経験を視覚化して医用画像を補う役割を果たす」(金氏)。

 金氏はさらに、赤外線顕微鏡と連動してCG画像を投影し、フォーカスしたい場所への移動、拡大も可能な「顕微鏡連動型手術ナビゲーションシステム」の開発にも取り組んでいるという。

 また、現在脳波に関する研究が進んでいるが、そこで把握できているのは「脳の表面の動きだけ」(金氏)。そこに3D CG画像を活用することで、より深く脳の動きを理解できる可能性もある。人が手を動かすとき、言葉を発するとき、脳のどこがどのように反応するかが理解できれば、失語症など難病の解明につながる可能性がある。

 金氏は、医用画像やシミュレーションにUnityを活用することでこうしたさまざまな可能性が開けるとし、「ぜひ、医療分野以外の人も参加してほしい」と述べた。

 ちなみに、IT技術者が映画やゲームを見たとき、そこに出てくるコンピューターやソフトウェアの描き方に違和感を覚えることは少なくない。それと同じように金氏も、映画やゲームなどに出てくる「脳」の描写に、専門家として違和感を覚えることがあるという。金氏は、正しい知識の啓蒙のためにも、作成した医用3D CGデータをUnityのアセットとして提供し、映画などで使ってもらえればとも考えているそうだ。

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