2015年から手を付けておきたいテクノロジをSF映画から考えるITエンジニアの未来ラボ(3)〜年末特別企画(3/4 ページ)

» 2014年12月26日 18時00分 公開
[構成・文:柴田克己取材・企画:@IT編集部]
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「音」のUIが今後の注目分野に

――音声入力の話が出てきましたが、SF映画の中で「音」は、UIとしてどのように使われているのでしょうか。

安藤 『バーバレラ』では、音楽を拷問用の武器として使っていましたね(笑)。実際に、大音量の低周波を使って相手を無力化したり、物理的に物を破壊したりという「音響兵器」は古くから実用化されているようです。

Barbarella - Trailer

 機械側から人間側に働き掛けるインターフェースという観点で見ると、「音」は今のところ軽く見られがちですけれど、実際には人間の行動に強く影響を与える要素という点で、今後有望な分野だと思っています。

 Julian Treasureという人が書いた『サウンド・ビジネス 〜「音」から価値を生みだす新手法〜』(ヤマハミュージックメディア刊、翻訳:元井夏彦)という書籍があります。音響心理学の知見をベースに「音」が持つ力をビジネスにどのように活用できるかについて、さまざまなコンセプトや実際の例を紹介した内容です。

 この書籍の中では、企業のブランディングを「音」を通じて行うといった例が扱われています。TVのCMなどで聞こえる「サウンドロゴ」なんかは、分かりやすい例ですね。それ以外にも、私たちの身の回りを見渡してみると、いろんな場面で「音」の強い影響力を感じることができると思います。

 例えば、携帯電話の地震速報の警報音。日常の生活の中ではなじみのない音なのに、あれを聞くと緊張感を感じますよね。あれは、人をそういう気持ちにさせることを意図してデザインされた「音」だからなんです。また、スーパーやカフェなどの中で流れているBGMのテンポが速いか、ゆっくりかによって、お客さんの店内での行動が変化するといったことも、実際にあるようです。

 こうした形で「音」は人間の気持ちや行動に、かなり強い影響を与える要素なのにもかかわらず、今のところあまりUIとして重視されておらず、そこに予算を掛けていないケースが多いように感じています。今後、この分野がより見直されて、きちんと投資すべき対象として認識されていくのではないでしょうか。

――ゲームの世界では、UIの一部として「音楽」や「効果音」を使うことは、わりと普通に考えられてきましたね。その方法論を、ブランディングなどのビジネス分野に、より広く生かせるというのは興味深いですね。

安藤 CMの曲を作ったり、ゲームの音楽や効果音を作ったりといったことができるスキルを持った人たちは実際にいるんですけれど、UIとして「音」を利用するための知識と技術を両方とも持っている人は少ないでしょうね。

 ここで突然ですがクイズです。「音量を変えずに、騒がしい場所でも聞き取りやすい警告音」を作るためには、どうすればいいか分かりますか?

――音の高さや低さを極端にすればいいんでしょうか?

安藤 答えは「会話や環境音とは周波数帯の異なる、複数の音を混ぜた音を作る」です。電話のプッシュボタンを押したときになる「ピポパ」音というのは、そういう音の一つです。「音」に関するこういうノウハウは、まだまだいっぱいあるはずで、それをさらにいろんなところに応用できるだろうと思っています。ゲームだけではなく、エンタープライズアプリケーションの分野でも、情報を効率良く取得するための補助として、「視覚」に加えて「聴覚」を使っていくということは十分に可能ではないでしょうか。

 ただ、視覚的な「アイコン」と違って、音に関しては「良い」「悪い」の判断をするのに手間が掛かるという課題があります。アイコンの良し悪しは、紙や画面の上に並べて表示して見比べれば、短時間で判断ができますけれど、音の善し悪しは、波形だけでは分かりません。関係者が一つずつ聞いて判断しなくてはならないんですね。その音が「心地良い」か「悪い」か、その利用シーンにふさわしいかどうかの判断をして選び出すのに時間がかかります。実際に活用しようとすると、その辺で手間が掛かると思うのですが、それ故に、手を付ける余地が多く残されていると考えることもできるでしょうね。

――UIとしての「音」が重要視されるようになると、その基盤となるインフラ技術で重要視される要素にも変化が生まれるかもしれませんね。

安藤 そうですね。他の画像や映像、文字といったコンテンツに比べて「音」については、ユーザーはよりクオリティに敏感です。

 ネットのストリーミング中継の世界では、映像のクオリティを多少落としてでも、音声については遅延や途切れがなくやりとりできるようにしておかないと、ユーザーの不満がより高まるといった状況が実際にあります。テレビ会議についても同様ですね。本格的に「音」をUIとして活用する際には、用途に応じて音を「どのように送るか」「どのように聞かせるか」といった、インフラ含めて全体の「システム設計」をしっかり行うことが、今まで以上に重要になってくるのではないでしょうか。

3D画像や立体映像の応用分野はさらに広がるが、人間の本質を捉えて提示すべき

――音に対する話が予想以上に盛り上がってしまったので、ここからまたいったん「視覚」の方の話に戻して、まとめていきましょう。『スターウォーズ』のレイア姫からの通信に代表される「立体映像」について、現状と今後の見通しはどうでしょうか。

Star Wars Episode IV: A New Hope - Trailer(9秒辺りで立体映像の通信が表れる)

安藤 いわゆる裸眼で見る「立体的な映像」については、初音ミクのライブなどで使われる透過型スクリーンを使ったものや、Microsoft Cubeのような、投影の方法で工夫するといった方向性のものが出てきていますね。ただ、あくまで演出として楽しめる範囲のもので、いわゆる物理的な立体物が目の前にあるような状況を作り出す、本当の意味でのホログラフィについては、まだまだ技術的に難しいようです。エンターテインメント以外の業務分野で使う「立体映像」としては、特殊な眼鏡型デバイスやHMD、斜めに置いたディスプレーを使うものが、当面は主流なのではないでしょうか。

――立体的なものを現実の中に出現させるという意味では、カメラ越しですがAR(拡張現実)で広告やエンターテイメントの分野で広まっていますね。そういった立体つまり3D映像の「使いどころ」というのは、今後変化していくのでしょうか。

安藤 先ほどのスターウォーズの例は「コミュニケーション」ですけれど、「立体構造を把握する」必要性が高い分野は、他にも数多くあると思います。CADや建設なんかもそうですね。「大勢の人が3次元の情報を共有できる」分野には、特に有効だと思います。

――『ロスト・イン・スペース』の中では、医療分野、特に患者の手術のシーンで立体投影の技術が使われるシーンがありました。

Lost In Space (1998) Official Trailer - William Hurt, Gary Oldman Sci-Fi Movie HD

安藤 医療分野では「3D映像」の活用がかなり進んでいますね。3D映像を使ったAR/VRの技術は、医師が経験を積むためのシミュレーションとしての活用も行われています。最近ではUnityを使って開発する事例もあります(参考:ゲーム嫌いも知っておきたい3D CG/VRのエンタープライズ活用事例)。

 また、近年では3Dプリンターを使って、患者の体内の患部を立体物として出力しておき、それを実際に手術する際の補助的な情報として使うといった利用例もあります。3D関連のこうした技術を活用することで進化できる分野は、医療系以外にも多くあると思います。

――ARの活用でいうと、ECサイトで立体で見えるものを扱った方が売り上げは伸びそうですが、まだまだ一般的ではないようです。そして眼鏡やカメラ越しじゃないと3D映像を現実的にイメージできないARではなく「裸眼立体映像視」が一般的にならないと、まだまだ難しいのでしょうか。

安藤 それよりも、まだまだ今の3D映像にはリアリティが足りないからでしょうね。質感とか影、ライティングの表現がまだまだ足りてない。人間は感覚は鋭いので、デザイナーやアーティストじゃなくても質感や影でリアリティを感じなくなってしまうでしょう。

 それよりも、最近面白いと思ったファッション系のECサイトがあります。そのサイトでは、そこで服を何か1つでも買ったことがあれば、それと大きさを比較して重ねて映すことができます。着たことがない新しい服を買うのに、1回でも着たことがある服と比較できれば、購入の大きな参考になります。売る側としては、服の3Dモデリングデータを作るよりも簡単ですし、その方が売り上げにも貢献すると思います。

 3D映像が使えるに越したことはないのですが、技術的に何ができるかと提示するよりも、人間の本質を捉えて提示した方がよいのではないでしょうか。

――下手に技術に頼るだけではなく、本当にその技術が必要かどうか突き詰めて考えた方がよいということですね。3Dだと、通信や配信のコストも大きいですしね。

安藤 通信について付け加えると、先ほどの『スターウォーズ』のレイア姫の立体映像の話ですが、通信状況が悪いとザザザッーとノイズが入って3D映像が途切れるんですよ。ちゃんとネットワークの状況を加味した表現だったのです。3D映像の配信が一般的になってもネットワークの状況の良し悪しをユーザーに提示できるUIであることは人間の本質を捉えて提示するという意味でも重要でしょう。

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