第34回 計画的偶発を引き寄せる――「未踏スーパークリエータ」のキャリアの築き方マイナビ転職×@IT自分戦略研究所 「キャリアアップ 転職体験談」

「転職には興味があるが、自分のスキルの生かし方が分からない」「自分にはどんなキャリアチェンジの可能性があるのだろうか?」――読者の悩みに応えるべく、さまざまな業種・職種への転職を成功させたITエンジニアたちにインタビューを行った。あなた自身のキャリアプラニングに、ぜひ役立ててほしい。

» 2015年02月27日 10時00分 公開
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計画的偶発でキャリア形成?

 世の中には、5年、10年といったスパンで明確なキャリアビジョンを描いている人もいるが、全ての人がそうとは限らない。むしろ読者の多くは、そこまで明確な将来像を描いてはいないのではないだろうか(だからこそ自分戦略を研究するのだ)。

 スタンフォード大学のジョン・D・クランボルツ教授が提案したキャリア論に「計画的偶発性理論(Planned Happenstance Theory)」がある。「個人のキャリア形成の8割は、予想しない偶発的な出来事に影響されて起こる。常日ごろから積極的に行動し準備をすることによって、その偶然を計画的に呼び込みチャンスにつなげられる」という考え方だ。

 今回お話を伺った西岡悠平さんは、「スマートニュース」でマネージャ データサイエンス・マシンラーニング担当を務める、データ分析と機械学習のスペシャリストである。

 しかし、彼は最初からこの道を目指してキャリアを積んできたわけではない。また、5年後、10年後に自分がどんなキャリアを実現しているかも「分からない」と言う。


【転職者プロフィール】
西岡悠平さん(37歳)

スマートニュース株式会社
マネージャ データサイエンス・マシンラーニング担当(2014年9月入社)

【転職前】
大学院修了後、大手外資系ネットワーク機器メーカー勤務。在職期間中に作りはじめたオープンソースソフトウェア「Tuigwaa」で2005年上期の未踏スーパークリエータに認定。システム開発会社でTuigwaaの実用化を目指すも断念。楽天に転職し、楽天技術研究所チーフテクノロジスト、データサイエンス部副部長を歴任。レコメンデーションエンジンなどの研究・開発をリード
 ↓
【転職後】
世界1000万ダウンロードを超えるSmartNewsのバックエンドを支えるシステムのデータ処理や機械学習分野におけるアルゴリズムやデータ構造を設計・実装。ニュースの収集、分類、整理、評価の他、セマンティックな関連付けによるレコメンデーションの実装、多言語対応など、幅広い領域において、マネジメントからコーディングまで、トータルに活躍している

SmartNewsを支える高度なアルゴリズム

 スマートニュースが提供する「SmartNews」は、「満員電車でも片手でスラスラとニュースが読める」「圏外でもニュースがサクサクと読める」スマートフォン/タブレット向けニュースキュレーションアプリで、日米で1000万以上のダウンロードを数える人気サービスだ。

 西岡さんは、どのような業務を担当しているのか。まずは、現在の仕事について伺った。

 SmartNewsのバックエンドでは、エンドユーザーに配信する記事を「探す」「分類する」「整理する」、そして整理された記事の中から最終的にどれを掲出するかを「評価する」といったことが自動的に行われている。

 しかし、ことはそう簡単ではない。例えば「分類・整理する」といっても、どのタイミングで分類を行うかによって、結果が異なってくる。

 「昨年、エボラ出血熱に関する記事が数多くありました。当初は全てを海外ニュースのカテゴリに分類していましたが、国内に感染の疑いのある人が出てからは、内容によっては国内ニュースのカテゴリに分類するようになりました」

 単純に考えれば、西アフリカで起きていることは海外ニュース、国内感染の疑いについては国内ニュース、と機械的に分類すればよい。ではエボラ出血熱の病理を解説した記事などは、どちらに分類するのが適切だろうか。国内に感染の疑い例が出た後は、国内ニュースとして分類した方が読み手も違和感がないだろう。

 このような分類を、動的(Dynamically)かつ自動的(Automatically)に行うには、非常に高度なアルゴリズムが求められる。

 「そうしたアルゴリズムを考え、サービスとして実装するのが私たちのチームです。ただし、単に分類・整理・評価を行うだけではありません。失敗したときには、そこから学習し、次回に生かす部分も自動化します。そのための研究・開発や、評価を行うためのパフォーマンス監視なども行っています」

 どの記事を掲出するかの判断には、複数の視点が必要だ。

 「読者が好む記事だけを掲出すればよいのかというと、そうとは限りません。むしろ、偏りのない記事掲出を行うなどのバランスが必要とされます」

 同カテゴリのニュースに関するCTR(Click Through Rate:クリック率)は指標になるが、CTRの最大化のみを追求するのはメディアとしてよろしくない。例えば、クリックが稼げるからとゴシップ記事ばかり載せていては、今知るべきニュースを求めているユーザーからは見向きもされなくなってしまう。スマートニュースのメディアとしての矜持(きょうじ)も、アルゴリズムに反映させなければならないのだ。

 仕事の話を終始にこやかに話してくれる表情からは、現在の仕事にとても満足している様子が見られた。

 しかし、西岡さんは最初からデータ分析のスペシャリストを目指してきたわけではない。ここに至るまでの彼のキャリアを振り返ってみよう。

スーツを着る仕事に憧れて

 親にファミコンを買ってもらえず、代わりに買ってもらったPC-9801のBASICでゲームをプログラミングして遊ぶ中学生時代を過ごしたという西岡さん。

 京都大学大学院情報学研究科複雑系科学コース修了という、いかにも高度なアルゴリズムを必要とするソフトウェアの設計者に相応しい学歴を持つが、最初に就職したのは、意外にも外資系大手ネットワーク機器メーカーだった。

 「スーツを着る仕事に憧れていました(笑)。さらに、OBが研究室に置いていった就職情報誌をパラパラとめくってみたら、給与の高い会社にばかりマーカーが引かれていた。それを参考にしながら選びました(苦笑)」

 そうしてネットワークエンジニアとして、キャリアの第一歩を踏み出した西岡さんだが、やがて転職を考えるようになる。「会社が実施するボトムアップ型のキャリアセミナーを受講したのがきっかけで、転職を考えるようになりました」

 西岡さんが勤務していた会社では、トップダウン型とボトムアップ型の2種類のキャリアセミナーが実施されていた。トップダウン型は、将来のキャリアの目標と期限を定め、そこから逆算して何歳までに何をすべきかを明らかにしていくもの。一方のボトムアップ型は、「今」を積み上げて、その先に次の一手を見つけていく考え方だ。

 「会社ではSEとして、お客さまにプレゼンしたりしていました。その仕事に不満はなかったけれど、キャリアセミナーで学ぶうちに『やっぱりプログラミングが楽しい』と気付いた。それならば、本当に好きなことをやろうと思い始めました」

「未踏スーパークリエータ」にチャレンジ

 そこで、会社の業務の傍らプライベートでWebアプリ開発を支援するオープンソースソフトウェア「Tuigwaa(トゥイガー)」の共同開発を、染田貴志さん(現在ヌーラボ所属)と一緒にスタートした。

 「Tuigwaaは、HTMLタグを知らない人でも、ブラウザーだけでデータベースと連動するWebアプリケーションを作れるツールです。新しいジャンルのミドルウェアとして、WebUDA(ユーザー主導型Webアプリケーション作成ツール)と名付けました」

 Tuigwaaの開発がある程度軌道に乗った時点で、染田さんと共に会社を退職。そこから半年間はTuigwaaの開発に専念した。IPA(独立行政法人 情報処理推進機構)が実施する、技術を駆使してイノベーションを創出する独創的なアイディアと技術と活用する能力を持つ優れた個人(スーパークリエータ)の発掘育成を目的とした未踏ソフトウェア創造事業「未踏スーパークリエータ」に応募するためだ。そして西岡さんは、2005年上期の未踏スーパークリエータに認定される。

 その後、Tuigwaaの実用化を画策し、染田さんと一緒に京都市に本拠を構えるシステム会社に転職した。

 しかし、その会社が親会社に吸収され、Tuigwaa実用化の夢は実質的に絶たれる。好きなことをやりたくて転職したのに、それができないとなればモチベーションが下がるのも当然と言えよう。染田さんは別の道を歩み、西岡さんも次第に転職を考えるようになる。

楽天がなければ今の自分はなかった

 西岡さんが3社目に選んだのは「楽天」だった。転職活動はしなかったが、ちょうどよいタイミングで知人からの誘いがあったそうだ。

 「楽天に入社しなければ今の私はなかったかもしれません。なぜなら、同社でデータをインテリジェントに取り扱うという領域に初めて踏み込みましたから。機械学習に興味を持ったのも、この仕事がきっかけです」

 新たな技術に触れ、西岡さんは次第に機械学習のテクノロジにのめり込んでいった。6年の間に、楽天技術研究所でレコメンデーションエンジンをはじめとした先端技術の研究開発をリードした。

 ところが、入社6年目にさらなる転機が訪れる。西岡さんは、スマートニュース創業者の一人である浜本階生氏と再会した。そもそも浜本氏とは2005年のJavaカンファレンスで知り合っていた。

 「楽天での仕事が嫌になったわけではない。今でも良い会社だと思っている」と語る西岡さんだが、なぜスマートニュースに転職したのだろうか。

 「浜本さんが面白そうなことを始めていると聞きおよび、居ても立ってもいられなくなりました。楽天のビジネスはすでに完成されたイメージがあります。しかし、スマートニュースはまだスタートしたばかりで、よりピュアにテクノロジを追求できるのではないかと考えました」

 退職を申し出ると当然のことながら慰留されたが、さまざまな思いを胸に抱えながらも、西岡さんは転職を決行した。

 「給与は下がりました。それでも好きなことをとことん追求したいという欲求にはあらがえませんでした」

 こうして西岡さんは、スマートニュースのマネージャ データサイエンス・マシンラーニング担当になった。

 最後に西岡さんに、スマートニュースでの仕事の魅力について伺った。

 「数百万人が毎日利用するサービスに貢献できるのは大きなやりがいです。しかも、会社の規模がまだ小さいので小回りが利く。ビジネスもスピード感にあふれています。データサイエンスやマシンラーニングは、まだ正解がないところも技術的な興味が尽きません」

 冒頭で紹介した計画的偶発性理論によれば、計画された偶発とは、好奇心、持続性、柔軟性、楽観性、冒険心という5つの行動特性を持っている人に起こりやすいと考えられている。

 これらの特性は、西岡さんにも当てはまる。

 技術領域での研さんを続ける「持続性」と新しい技術への「好奇心」、経験のない分野に飛び込む「冒険心」、新しい環境や出来事を楽しむ「楽観性」や「柔軟性」もある。

 偶発的な要素が多いように見える西岡さんのキャリアだが、転機に至るまでには伏線となる出来事や出会いがあり、少しずつ準備ができていた。また、常に最善を尽くしてきた実績が、いざチャンスが来たときに受け入れる自信につながっている。そういう人にこそチャンスはやってくるのだ。まさに同理論を地でいくような生き方ではないか。

 明確なキャリアビジョンがないという人も焦る必要はない。なぜなら個人のキャリアの8割は予想しない偶発的な出来事によって導かれるのだから。ただし、漫然と偶発を待つのではなく、今できることを精一杯やり、いざチャンスが到来したときに飛び込める準備をしておくことが大切だ。今回紹介した西岡さんのように。

代表取締役社長 共同CEO 浜本さんに聞く、西岡さんの評価ポイント

 西岡さんを知ったのは、2005年の未踏ソフトウエア創造事業で彼が取り組んでいたTuigwaaを目にしたことがきっかけです。カンファレンスでの成果発表講演も聞きに行き、大変興奮した記憶があります。

 SmartNewsのデータサイエンス・マシンラーニングチームを率いる人材として、西岡さん以上の適任者は考えることができず、直球で口説きに行きました。

 現在は、自ら圧倒的スピードで手を動かしながら、温かい人柄でメンバーを育成してくれています。一緒に仕事ができ、とても幸せに思っています。


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提供:株式会社マイナビ
アイティメディア営業企画/制作:@IT自分戦略研究所 編集部/掲載内容有効期限:2015年3月31日

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