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» 2015年03月03日 15時15分 公開

経済評論家・山崎元の「エンジニアの生きる道」(10):エンジニアに必要な国語の技術 (2/3)

[山崎元,@IT]

 あまりいい文章ではないが「部長は帰って、いなかった」と読点を入れると、「部長がすでに帰ってしまって、その場(オフィス)に不在である」と意味が限定される。

 電子メールであれば、「部長は、まだオフィスに帰っていなかった」か、あるいは「部長はもう帰ってしまって、オフィスにはいなかった」と言葉を補って誤解の起きないように文章を書くべきだろう。

 異論があるかもしれないが、電子メールでのコミュニケーションでは、言葉を惜しむべきではない。言葉を切り詰めた短文やぞんざいな表現の方が「メールらしい」と感じる人もいるようだが、電子メールの場合、言葉が増えても紙やインクの無駄になるわけではないし、手間も大して掛からない。誤解の余地がなくなるように言葉を惜しまずに説明するのが良い。電子メールによる誤解や感情の行き違いはしばしば発生するので、気を付けたい。

 正確な日本語の書き方を一から勉強できる参考書は意外に少ない。筆者が長年、部下や後輩に一読を勧めている本は、「日本語の作文技術」(本多勝一著/朝日文庫)だ。修飾の順序や句読点の打ち方といった文の作り方を、原則のレベルにまでまとめて書いている実用的な名著だ。もっと最近の本がいいという方は、「ビジネスマンのための国語力トレーニング」(出口汪著/日本経済新聞社)はいかがだろうか。論理と関連付けて文の作り方の基礎を説く、エンジニア向けの参考書だ。

相手に合わせる

 話し言葉にも方言があるように、ビジネスの書き言葉も会社によって、文体や使う単語、さらには文章の調子が異なる場合がしばしばある。次の文字列の読み方と意味が分かるだろうか。

貴見御開示被下度。

 古い例で恐縮だが、ある商社の社内でやりとりする文書でしばしば用いられた言い回しで、「きけんごかいじくだされたし」と読む(テレックスの場合、これがローマ字で送られてくる)。意味はおおむね「あなたの意見を教えてください」だ。

 ある生保の稟議の文章の文末が「○○するが、よろしいか」であり、その書き言葉としては何とも妙な調子に面食らった覚えもある。例えばある外国債券を買っていいか否か、担当者は「購入するが、よろしいか」と書かれた文書を持って、担当常務や社長の決裁印をもらいに行くのだ。

 これらはかなり奇妙な表現なので、ある程度常識のあるビジネスパーソンであれば「社外の相手には不適切だな」と分かるだろう。しかし社内とばかりやりとりをしている方は、日ごろ慣れている言い回しや単語が、別の相手や世間一般には意味が正しく伝わらなかったり、不快に受け取られたりすることがある点を注意されたい。

 文章がうまいか下手かという要素を脇に置くと、取引先や顧客など外部に向けた文章で使う言葉や文体の選択は、相手に合わせる「配慮」が伝わるか否かが重要だ。

 人は、自分と同じ言葉使いをする相手に親近感を覚える傾向がある。例えば外資系金融マンが地方の金融機関の顧客向けに書くリポートでは、自分たちは日ごろよく使うけれども普通の日本人が使わないカタカナ単語(外国語のカタカナ表記)を頻繁に使うと、親しみを持ってもらえない場合が多いだろう。

 もちろん、書き言葉だけでなく話し言葉でも、語彙の選択や話のテンポ、声の大きさと抑揚などを、相手に意識的に合わせることが有効なケースは少なくない(面接でも、セールスでも、そうだ)。

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