セルフサービスBIツールって、Excelとどう違う?セルフサービスBIのABC(2)(2/2 ページ)

» 2015年05月14日 05時00分 公開
[三木 泉@IT]
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 どこまで「正しい」質問ができ、あるいはどこまで「正しい」答えが得られるかは、入手できるデータの内容にもよりますし、ケース・バイ・ケースです。しかし、ビジネスの現場では、必ずしも「正しい」答えが欲しいわけではなく、自らが何らかのアクションを起こすのに十分な仮説を立てられればいいということがよくあります。例えば、「顧客満足度を向上するためには、どのような点の改善に、どれくらいのリソースを割くべきか」をサポート担当部署が考えるなどです。こうしたことのために、データに関する試行錯誤は重要な役割を果たします。

 なお、セルフサービスBIツールの中には、データ項目間の相関性を自動的に計算し、高い相関が見られる項目の組み合わせを提示してくれるものがあります。

データソースやデータ量に対応できる

 セルフサービスBIツールの一部は、多様なデータソースと大量なデータに対応しています。これは、Excelとは全く異なる点です。

 まず、データソースへの対応では、ExcelスプレッドシートやCSV、タブ区切りテキストなどのデータファイルに対応しているのはもちろんのこと、SQLデータベースなどへのライブ接続(つまりリアルタイムクエリ)に対応しているものも多く見られます。ツール側で対応していない種類データに関しては、ユーザーが自らスクリプトを書くことで、対応できるように図っている製品もあります。また、POSデータやWebサーバーログ、ソーシャルネットワーキングサービスなど、大量データへの対応も進んでいます。

Power BI Designerの例。多様なデータソースからデータを取り込める(この図をクリックすると拡大します)

 ただし、データソースに直接接続でき、大量のデータを扱えても、高速に処理できなければ意味がありません。この点は、セルフサービスBIツール間の競争で、現在重要なポイントになっています。デスクトップソフトウエア型のツールでは、コンピューターのメインメモリへのキャッシングや、複数のリアルタイムクエリを完全に並列化するなどの工夫により、高速化を図っているものが見受けられます。

 セルフサービスBIツールが、企業のマーケティング担当者の間で広まってきた理由の一つはここにあります。デジタルマーケティングでは、新しい種類のデータを社外から入手して扱うことが増え、またこうしたデータは大量になることがよくあります。こうしたデータを、手間と時間を掛けずに、自分たち自身のコントロールの下でビジネスに生かせることが、評価されてきたのです。

 データの取り込みに関しては、例えばExcelスプレッドシートにおける余分な空白行の除去など、簡易的なデータクリーニング機能を備えている製品や、データ品質のレベルを定量的に示してくれる製品があります。

データの共有やプレゼンテーションに関する機能

 セルフサービスBIツールは、多くの場合、ユーザーが自身でデータを探索し、ダッシュボードを作成するデスクトップソフトウエア(あるいはこれに代わるクラウドサービス上のユーザー用画面)と、サーバーソフトウエア、すなわちダッシュボードを他のユーザーと共有するための機能を果たすコンポーネントで構成されています。サーバーには、認証や権限管理などのデータガバナンス関連の機能も搭載されています。場合によってはデスクトップとサーバーに加え、作成されたダッシュボードを閲覧することだけができる、「リーダー」と呼ばれるソフトウエアが提供されていることがあります。

 ツールの中には、作成されたダッシュボードをPDF化するなどし、電子メールなどで他の人々に送信できるものがあります。しかし、元のダッシュボードは、それぞれのサイズが大きなものになりがちです。これに加えてインタラクティブな使い勝手を保ち、さらにデータのアクセスを管理するために、ツールの利用が広がってくるとサーバーソフトウエアを導入する組織が多く見られます。

 セルフサービスBIツールのデスクトップソフトウエアには、無償で提供されているものがあります。無償版は、機能が限定されているものと、限定されていないものの2種類に大別できます。製品提供ベンダーにとっての、機能限定版の提供目的は、当然ながら高機能版に移行してもらうことです。一方、機能が限定されていない無償デスクトップ製品は、組織として本格的に利用する段階になれば、サーバーソフトウエアを購入してくれるという期待に基づいて、提供されています。いずれの場合も、まずユーザー組織内のできるだけ多くの人々が試し、気に入ってくれることで、次のビジネスにつながるという思いが、ベンダーにはあります。

セルフサービスBIツールはさまざままだが、目的は同じ

Saleforce Analytics CloudのiPhoneアプリの例。スマートフォンで、データナビゲーションができる(この図をクリックすると拡大します)

 上記では、主にExcelとの比較で、セルフサービスBIツールの多くに共通する特徴を紹介してきました。一方で、ターゲットとするユーザー層および製品のコンセプトによって、ツール間に大きな違いが見られます。例えば、下記のような違いがあります。

より高度な分析機能

 ビジネスの現場にいる人たちだけでなく、分析を本業とするデータアナリストやビジネスアナリストにとっても、使いやすいデータ探索ツールは有益です。ただし、その扱いやすいツール上で、より高度な分析までやりたいというニーズが生まれるのも自然です。こうした人たちのために、What-if分析関連の機能を強化するなどの取り組みを進めているベンダーがあります。一方で、操作性や親しみやすさを最大限に重視し、機能を最小限に絞った製品もあります。

モバイル対応

 上記に関連しますが、幅広いユーザーをターゲットとした製品では、スマートフォンやタブレットへの対応を積極的に行っているケースが見られます。しかし、スマートデバイスでの使い勝手と機能性はトレードオフの関係です。従って、高機能なツールでは、対応が遅れる場合がある他、別の製品にモバイル対応の役割を担わせようとする動きが見られます。

ソフトウエアかサービスか

 多くの人が、気軽に試せるという点では、ソフトウエアとして提供されている製品よりも、クラウドサービスとして提供されている製品のほうが有利です。しかし、クラウドサービスの場合は、分析対象となるデータをどうするかという問題が出てきます。ExcelファイルやCSVファイルを、ユーザー自身がクラウドサービス上にアップロードして使うだけにとどまらず、社内のデータベースや社内外の大量データを分析したいとなった場合、これらのデータも、そのクラウドサービスにアップロードしなければならなくなります。クラウドサービスと社内が、専用線などで接続されていれば、社内にあるデータをクラウドサービス側で分析することも、理屈としては考えられるのでしょうが、現実的かというと疑問が残ります。クラウドサービスとして提供されているセルフサービスBIツールの場合、そのベンダーは自社のデータ管理サービスと組み合わせて使ってもらおうと考えていることも事実です。

 このように、製品によってさまざまな違いはあります。とはいえ、ビジネスの現場に近い人々に、データを活用してもらおうという点で、セルフサービスBIツールの目的は共通しています。重要なテーマは、「アクションに結び付けること」です。精緻な分析により、全く間違いのない答えを導き出すことは、必ずしも重要ではありません。日常業務の中で、何をやってみるべきか、何に優先して取り組むべきか、といったことについてのヒントが与えられれば十分なのです。ヒントに基づいて仮説を立て、何らかのアクションをした結果を、再びデータで確認し、次のアクションを考えることができるからです。

特集「セルフサービスBIをめぐるA to Z

 「セルフサービスBI(セルフBI)」とも呼ばれる動き、そしてこれに関連する製品・サービスが急速に広がりつつある。一言でいえば、ビジネスを直接生み出す、あるいは直接支える人々が、データを自ら活用し、より迅速で的確な判断をすることを目指す活動だ。

 本特集では、セルフサービスBIで具体的に何ができるのか、どうやればいいのか、社内の役割分担はどうすればいいのか、セルフサービスBIツールをどう補うのが効果的なのか、といった、従来のBIとは異なるセルフサービスBIならではの課題と解決策をお伝えする。



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