文系と理系の知恵を生かす――東京大学がサイバーセキュリティ研究グループを始動日本独自のセキュリティ技術実現を目指し

東京大学は2015年8月6日、サイバーセキュリティに関する研究や専門人材の育成などを目的とした研究グループ、「SISOC-TOKYO」の活動開始を発表した。独自技術の研究やシミュレーションによる人材教育などを行っていくという。

» 2015年08月07日 14時54分 公開
[@IT]

 東京大学は2015年8月6日、サイバーセキュリティに関する産官学共同研究や専門人材の育成などを目的とした研究グループ、「SISOC-TOKYO」の活動開始を発表した。分野を横断した研究や、独自システムによる人材教育、政策提言などの活動を行っていくという。

産官学、複数分野で協力し、研究・教育を推進

SISOC-TOKYOとは

 SISOC-TOKYOは、NTTで情報通信研究所所長などを務めた東京大学名誉教授の安田浩氏らが中心となり、2015年4月1日に東京大学情報学環内に設置された寄附講座。産官学連携を推進し、テクノロジだけでなく、法律学や社会学、心理学などの社会科学的アプローチも採り入れた学際的なサイバーセキュリティ研究を目指す。また、サイバー攻撃/防御シミュレーションのためのシステム基盤を構築し、実地での教育に使用するなど、人材育成にも注力する方針。

東京大学 名誉教授 安田浩氏

 グループ設立の目的を説明した安田氏は、「日本のサイバーセキュリティは、テクノロジ面では強いが、制度やマネジメント、教育面の整備が不十分」と指摘し、「制度やマネジメントを考える上では、経済や法律、行政などの社会的な見地が不可欠。産官学で連携し、幅広い分野の知恵を共有する場が必要だ」と述べた。また「例えば生体認証では、『使い心地』までを考慮するべきであり、心理学の知見なども必要となる」とし、産官学連携に加え、複数の学問分野をまたいだ多面的な研究の必要性を訴えた。

 さらに安田氏は「特に急がれるのは人材育成。日本では座学は十分に行われているが、実地でのシミュレーションを行える場がない」とも述べ、同グループで構築する予定の「演習用サイバーレンジ」を紹介した。

独自技術を組み込んだ”実地訓練用”基盤を構想

「演習用サイバーレンジ」構想

 演習用サイバーレンジは「疑似インターネット」網や各種のセキュリティソフトウエア、被攻撃マシンなどを備えた、サイバーセキュリティのシミュレーション基盤。実際の環境で試行しながらサイバー攻撃や防御を学習できる場として構築し、他大学や企業など外部組織からのアクセスも可能にする予定だという。また、同グループが研究開発を行ったセキュリティ技術なども導入していく想定で、現在は独自カーネルの開発などが進行中だという。

 また、同グループでは、直近で注力する領域として「マイナンバー制度」「東京オリンピック」への対応を挙げた。マイナンバー領域では制度改善のための政策提言や、パスワードに替わるオンライン認証の技術仕様「FIDO(Fast Identity Online、ファイド)」普及のためのセミナーを8月から順次実施する。2020年開催の東京オリンピックに向けては、激化が予想されるサイバー攻撃に対応するための独自技術の研究を行っていくという。

 「セキュリティ技術は『作ったものが優位』という世界。既存の技術を導入するだけでなく、日本独自の技術を開発・適用していくことが肝心だ」(安田氏)

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