エンジニアの職場に必要なのは「課長」か「リーダー」か経済評論家・山崎元の「エンジニアの生きる道」(16)(1/2 ページ)

エンジニアがエンジニアとして生き残るためには、ビジネス的な観点が必要だ。ビジネスのプロである経済評論家の山崎元さんがエンジニアに必要な考え方をアドバイスする本連載。今回は組織のフラット化の弊害とそれを解決するためにある企業がとった手段を基に、「役職とは何か」を考える。

» 2015年08月11日 05時00分 公開
[山崎元@IT]
経済評論家・山崎元の「エンジニアの生きる道」

連載目次

 エンジニアが社会で生き抜くための考え方やノウハウを伝授する本連載。前回は、「疲れ」がもたらすビジネス上の障害と疲れてしまった場合の対策を解説した。今回は部課制を復活させた大手企業を例に、役職の役割と、エンジニアが管理職を目指すべき理由を解説する。

中間管理職を削減したA社と、部課制を復活したB社

 読者は「課長」という言葉にどんなイメージをお持ちだろうか。

 最近、数万人のエンジニアを擁する大手企業2社が、「課長」をめぐって対照的な動きに出た。

 A社は社員を個人プレーヤーとマネジメント層に分けて、年功的な要素を一切廃して、職務の格付けに対して報酬を払う制度を導入した。このため、これまで中間管理職だった人々の半数以上が実質的に降格されて、給料も下がったという。

 他方、A社と同業の大手B社は、十数年ぶりに「○○部××課」という呼称の部課制を復活させ、多数の課長を新たに任命した。

 少し前までは、組織の階層を「フラット化」して意思決定と行動のスピードを上げることがトレンドだった。しかしB社が決めた方針は、フラット化に対して真逆の動きだった。

 経営学者によると、組織の階層を厚くすると、意思決定に掛かる手間と時間は増えるが、やるべき内容が決まっている仕事のミスを減らす役に立つことがあるという。

B社が部課制を復活させた「本当の」理由

 だが、先に紹介したB社は、「スピードが落ちてもいいから、ミスを減らそう」と考えて部課制を復活させたのではない。

 同社は、組織をフラット化してみた結果、後進の人材育成が不十分になったので、これを修正することを主目的に部課制を復活させたのだという。

 この点は、国内系・外資系両方の会社で勤めてきた筆者(12回転職した)も、何となく得心がいく。

 過去20年以上にわたって、多くの日本企業は組織のフラット化と共に成果主義の導入を進めてきた。この組み合わせは、個々の社員が一人前で十分な実力がある場合には、組織の意思決定と行動がスピーディになり、個々のメンバーにとってもフェアでやる気の湧く競争の仕組みだ。

 しかし一人前未満の社員がいる場合には、この仕組みがうまく回らないことがある。個々のプレーヤーは自分のパフォーマンスを出すことに忙しくて、後進の育成までなかなか手が回らない。競争の厳しい組織では、後輩を育て過ぎてしまうと自分のライバルになって、ひいては自分がクビになる、という心配もある。そこでこの種の企業では、社員が後輩を育成しない代わりに、企業がさまざまな研修プログラムを用意し、組織的に教育を受けるチャンスを提供している。

部下の育成は課長の職責

 日本企業はこれまで、OJT(オン ザ ジョブ トレーニング)の美名の下に、若手社員の教育を現場の先輩社員に押し付けてほったらかす傾向があった。

 それでも、終身雇用と年功序列が信頼され、先輩後輩の人間関係が長く続くことを意識し、さらに上司となって部下を持たされると、先輩は後輩に仕事を教えることに意義を感じていた。

 しかし、成果主義が導入されて成果に応じて報酬を増減されるようになると、「目標管理シート」の目標の末尾近くに、「部下の育成」といった目標を立てることはあっても、そのプライオリティは、かつてよりも大きく後退してきた。

 その状況を変えるためにB社が導入したのが部課制の復活、というわけだ。同社の課長は平均して7人程度の部下を任され、重要な職責として「部下の育成」を持つそうだ。こうして考えてみると、「制度」「ルール」「習慣」といったものが複数組み合わさると、思わぬ効果を生む可能性がありそうだ。

 結果が出るまでには時間がかかるし、人事制度だけで会社の盛衰は決まらないが、筆者は、どちらかというと部課制を復活させたB社の試みを支持したい。

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