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» 2015年08月21日 05時00分 公開

「訴えてやる!」の前に読む IT訴訟 徹底解説(19):プログラムの「盗用」は阻止できるか? (2/2)

[ITプロセスコンサルタント 細川義洋,@IT]
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東京地方裁判所 平成24年12月18日判決より抜粋して要約(続き)

 コンピューターにどのような処理をさせ、どのような機能を持たせるかなどの工夫それ自体は、アイデアであって、著作権法による保護が及ぶことはなく、(中略)プログラムの具体的記述に作成者の思想または感情が創作的に表現され、その作成者の個性が表れていることが必要である。

(中略)

 プログラムは、その性質上、プログラム言語、規約および解法による表現の手段の制約を受け、かつ、コンピューターを効率的に機能させようとすると、指令の組み合わせの具体的記述における表現は事実上類似せざるを得ない面があることからすると、プログラムの作成者の個性を発揮し得る選択の幅にはおのずと制約があるものといわざるを得ない。

 ポイントは「個性」だ。プログラムを作る際、仮に作成者が頭を捻って考え出した工夫であっても、そこに創作性やオリジナリティ、つまり「その作成者だからこそ考案できた方法だ」といえる部分がなければ著作物とは認められないとの論だ。そして、この考えの元、裁判所は以下のように述べ著作権を認めなかった。

東京地方裁判所 平成24年12月18日判決より抜粋して要約(続き)

 本件ソフトウエアのプログラムにおける表現上の工夫は、いずれも本件ソフトウエアの機能を述べるものにすぎず、それらは、プログラムの具体的記述における表現それ自体ではないアイデアであって、著作権法による保護が及ぶものではない。

 (原告が創作性を主張する箇所は)いずれもありふれた表現であって(中略)、作成者の個性が表れているものとはいえない

 前回、今回の解説でお分かりいただけると思うが、ソフトウエアは、小説や絵画、音楽などと異なり、著作物として保護されるとは限らない。

 裁判所の調停員ではあるが、裁判官でもなければ弁護士でもない筆者だから言えるのだが、ことソフトウエアについては、著作権法というものは、正直なところそれほどアテにはならない。プログラムに、自己の個性や、他人にはまねできない工夫が含まれていることを証明するのは、至難の業だし、本当に自信のあるものなら、著作権よりも、むしろ、特許や実用新案を申請する方が良いかもしれない。

 とはいえ、実際に特許や実用新案を申請するには、相当の手間と時間を要するし、認められる保証もない。だからこそ、ソフトウエアの開発を請け負う場合には、前回も述べたように、権利帰属について、契約で定めるべきである。今回の例として挙げたプログラムの権利についても、その点は変わらない。

参考にしたいモデル契約書

 参考までに「一般社団法人 情報サービス産業協会(JISA)」が刊行している、「ソフトウエア開発委託基本モデル契約書」から、著作権に関する部分を抜粋して紹介する。

<ソフトウエア開発委託基本モデル契約書>より

※文中の甲は委託者、乙は受託者

(納入物の所有権)

第43条 乙が本契約および個別契約に従い甲に納入する納入物の所有権は、当該個別契約に係る委託料が完済された時期をもって、乙から甲へ移転する。

(中略)

(納入物の著作権)

第45条 納入物に関する著作権(著作権法第27条および第28条の権利を含む)は、甲または第三者が従前から保有していた著作物の著作権を除き、乙に帰属するものとする。

2.甲は、納入物のうちプログラムの複製物を(中略)自己利用に必要な範囲で、複製、翻案することができるものとする。また、本件ソフトウエアに特定ソフトウエアが含まれている場合は、本契約および個別契約に従い第三者に対し利用を許諾することができる。乙は、係る利用について著作者人格権を行使しないものとする。

(乙による納入物の再利用)

第46条 乙は、(中略)乙が著作権を有する本件ソフトウエアその他の納入物を利用することができる。

2.前項による利用には、有償無償を問わず乙が本件ソフトウエアの利用を第三者に許諾し、またはパッケージ化して複製物を販売する場合を含むものとする。

 こうしたモデル契約書は、これ以外にも経済産業省のWebサイトや、社団法人 電子情報技術産業協会(JEITA)でも入手できる。こうした条文を参考にして、ソフトウエアの権利帰属に関する条文を契約書に盛り込むのも良いだろう。

 ただし、これらは皆「著作物」としての権利を述べており、前述した判決のように、そもそも著作物ではないとの判断されるようなソフトウエアについての権利を守ることはできない。著作物であるか否かにかかわらず、作成物の権利を守りたいと考えるなら、成果物の権利に着目した契約書の条文が必要となる。

 次回は、具体例を基にこの辺りを解説しよう。

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細川義洋

細川義洋

東京地方裁判所 民事調停委員(IT事件担当) 兼 IT専門委員 東京高等裁判所 IT専門委員

NECソフトで金融業向け情報システムおよびネットワークシステムの開発・運用に従事した後、日本アイ・ビー・エムでシステム開発・運用の品質向上を中心に、多くのITベンダーおよびITユーザー企業に対するプロセス改善コンサルティング業務を行う。

2007年、世界的にも季少な存在であり、日本国内にも数十名しかいない、IT事件担当の民事調停委員に推薦され着任。現在に至るまで数多くのIT紛争事件の解決に寄与する。


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