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» 2015年09月09日 05時00分 公開

ものになるモノ、ならないモノ(67):情報サイトのマネタイズの難しさ。その光と影 (2/2)

[山崎潤一郎,@IT]
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アーティストのインタビュー記事掲載でタイアップ広告によるマネタイズをもくろむ

 大久保氏がまず考えたのは、記事広告による収益化である。アーティストのインタビュー記事を掲載することで、アーティストのマネジメント会社やレーベルなどから広告・宣伝料をもらうタイアップ型のビジネスだ。これには分かりやすい例がある。音楽やコミックのニュースを扱う「音楽ナタリー」(以下、ナタリー)だ。ナタリーのサイトでは、インタビュー記事が広告媒体であることを明記してはいないが、音楽業界では知られた話であり、「広告料は30〜50万円程度」(関係者)だという。また、漫画家の東村アキコ氏が、自身のブログでナタリーのインタビュー記事が広告であったことを後から知って驚いた、といった内容の文章をつづっている。

 だが、調査や準備を進めるうちに、記事広告でお金を取るためには、媒体としての圧倒的なPVが必要であることが分かり断念したという。例に挙げたナタリーのPVは、月間2000万PV(2014年5月実績)を誇っているが、「らいなび」のPVは、最大で月間約4万PVだからだ。大久保氏は、「最低でも月に100万PVはないと広告媒体としての価値がないという指摘を受けてあきらめた」と肩を落とす。

 そして、次に考えたのが、サイトからリアル物販への送客を行い、売れたら成功報酬を受け取るモデルだ。「らいなび」を見て無料ライブに参加したユーザーが、CDやグッズなどを購入したらその売り上げからロイヤリティを受け取るという仕組みだ。「これはいけると思ったのだが、よくよく試算してみると、報酬額があまりに少ないことに気が付いた」という。

 例えば、「らいなび」ユーザーが1000円のCDを買うごとに、3%(30円)のロイヤリティが得られると仮定しよう。ちなみに、3%と設定したのは、一般的なCDの歌唱(アーティスト)印税が1〜3%程度なので、そのラインと同等という考え方だ。だが、3%だとCDが1000枚売れても3万円にしかならない。このご時世、アーティスト自身でもCDを1000枚売るというのは大変な労力が必要だ。ましてや、サイトからの送客だけでそれだけの数をさばくのはあまりにもハードルが高い。そして、その高いハードルを越えてもたった3万円だ。「試算した瞬間に成功報酬型のもくろみは吹き飛んだ」と大久保氏は苦笑する。

 それにこのモデルは報酬額の面だけでなく、他にも大きな落とし穴があった。ライブ会場でCDなどのグッズを購入する際、ユーザーが「らいなびを見て来た」と自己申告しなければ、ロイヤリティ算出の根拠となる送客効果による実売数が分からないのだ。ユーザーに自己申告してもらうためには、ユーザー側にも何らかのインセンティブがなければ、それを実行に移す人はいないだろう。

 上記のように、大久保氏は、現在も「らいなび」の収益化に日夜頭を悩ませているのだが、そもそも論をいうと、どのような施策を打つにしても情報サイトとしての媒体力をクライアント側に説明できなければ、お金を出す方は納得しない。そのためには、「PVを増やす」ことが求められるのだが、実はその部分も現在大きな壁にぶち当たっている。

フリーライブ情報はTwitterでも発信している

 現在、「らいなび」のTwitterアカウントである「@eLiveNavi」のフォロワー数は、9000強。「らいなび」へのアクセスは、このTwitterからの流入が約65%を占めている。Twitterからの流入数をもっと高めたいのだが、そこにもハードルがある。サイトで提供している情報がイベント情報ということもあり、アーティスト名や日時・場所など必要な情報は、Twitterの140文字以内で基本的に包含できるため、フォロワーは、Twitterだけを見ていれば事足りるのだ。つまり、サイトにアクセスするまでもないということだ。だからといってツイートの内容に制限をかけてしまうと、アカウントの価値そのものを棄損する可能性がある。

「らいなび」運営をアピールしてリアルビジネスで稼ぐ

 ここまでマネタイズに関して、悲観的な話ばかりが続いた。しかし、それでもめげることなく「らいなび」を続けている大久保氏の前向きな姿勢には敬服する。実際、マネタイズへのチャレンジもあきらめたわけでなく、今後は、無料ライブビジネスに関連するリアルな活動に活路を見いだそうとしている。例えば、アーティスト向けの無料ライブ営業の代行、ショッピングモール向けの無料ライブのコンサルタント業務、イベントの一括請負といったサービスを模索しているという。

 つまり、報酬はあくまでもリアルなビジネスから得ていこうというもくろみなのだ。ただ、そうなると「らいなび」の存在価値をどの部分に見いだせばいいのだろうか。それに関して大久保氏は、「『らいなび』という無料ライブの情報発信サイトを運営していることが、クライアントへのアピールの材料になる」という。つまり「らいなび」ブランドをリアルな営業活動に利用しようというわけだ。経験も人脈も乏しいフリーランスのSEが、無料ライブやイベントのビジネスに参入するには、それなりの裏付けが欲しい。大久保氏の場合「らいなび」がそれに相当するという考えだ。

 さて、最後に大久保氏がサイトのマネタイズや媒体力の向上を本気で考えるきっかけになったエピソードを紹介して、このコラムを締めくくろう。ある無料ライブ会場において、ショッピングモール担当者とのパイプを作ろうとして、アーティストのスタッフにあいさつをして「らいなび」を紹介したという。

 そこで、所属アーティストのフリーライブ情報の掲載を強化することを申し出て、その代わりとしてショッピングモールの担当者を紹介してほしいと頼んだそうだ。だが、スタッフから帰ってきた言葉は、氷のように冷たいものだった。「おたくのサイトを見て、今まで何人がフリーライブに足を運んだの? CDが何枚売れたの? どうせ一人もいないでしょ?」と相手にされなかったという。そうとう悔しい思いをしたそうだが、そのときに「らいなび」の媒体力を示す客観的なデータを提示できなかったことを反省したという。「たとえ収益を上げられなくても、フリーライブの情報発信はずっと続けていきたい。一人でも多くの人にライブの魅力を伝えることが僕の使命だと思っている」と語る大久保氏のマネタイズへの旅は、まだまだ続きそうだ。

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筆者紹介

山崎潤一郎

音楽制作業に従事しインディレーベルを主宰する傍ら、IT系のライターもこなす。大手出版社とのコラボ作品で街歩き用iPhoneアプリ「東京今昔散歩」「スカイツリー今昔散歩」のプロデューサー。また、ヴィンテージ鍵盤楽器アプリ「Super Manetron」「Pocket Organ C3B3」の開発者でもある。音楽趣味はプログレ。

TwitterID: yamasaki9999


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