サイボウズ青野社長に聞く、「コミュニケーションツールは『ダイバーシティー』実現の切り札になれるのか」@IT 15周年記念特別企画(2/2 ページ)

» 2016年01月14日 05時00分 公開
[益田昇@IT]
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「多様な働き方」を実現する流れが本格化

編集部 実際のところ、ビジネス現場の働き方に変化の兆しは見えますか?

青野氏 はい。「ついにやってきた」という感じですね。この1年の間に、日本にも多様な働き方を目指す本格的な流れがやってきたといえるでしょう。国も企業も含めて、ダイバーシティーの方向に舵を切らなければ、組織の存続そのものが危うくなるという問題意識が広がっており、それが働き方を変える原動力になっているように見えます。

 特に象徴的だったのは、ブラック企業の違法な労働環境が社会問題として世間に認識されるようになったことです。弱い立場の非正規社員やアルバイトに長時間の過重労働を強いていた企業の中には、そのひどい実態がうわさとして広まったことで業績が急激に悪化し、経営の縮小を迫られるところも出てきています。

 その背景には、少子高齢化で働き手が減少し、人材の確保が難しくなりつつあるという現実があります。いろいろな働き方を認めて、働く環境を改善しながら、多様な人材を採用していかなければ、新しい時代を乗り越えられない。勘の良い経営者であれば既に感じているはずです。実際、企業の間では既に、非正規社員の正社員化や育児・介護休暇の取得の推進、さらにはテレワークの導入などを積極的に進める動きが出始めています。

編集部 国レベルでも変化の兆しはありますか?

青野氏 そうですね。国のレベルでも変化の兆しが見えてきました。安倍政権が2015年9月に打ち出した「新3本の矢」は、それを象徴するものだと思っています。1本目の「GDP 600兆円」はほぼイメージ通りでそれほど驚きはありませんでしたが、2本目の「出生率 1.8」と3本目の「介護離職ゼロ」は、多様な働き方を推進する育児・介護の支援について、きちんとした数値目標が定められている点に驚かされました。

 「女性活躍」の政策に関しても、当初は「育児休業3年」を掲げ、女性は出産後3年間は育児に専念すべきだという昭和的な古い考え方が見え隠れしていました。しかし、最近では、女性も出産後にできるだけ早く職場に復帰させ、キャリアを失わせないようにする方向に変わってきています。国や企業も含め社会全体がようやくダイバーシティーの重要性を認識し、本気で対応せざるを得なくなっているのではないでしょうか。

編集部 少子高齢化による労働人口の減少はそれだけ深刻なんですね。

青野氏 とても深刻だと思います。例えば、私は第2次ベビーブームの世代なんですが、私が生まれた年は男性も女性も100万人ずついるんです。しかし、今生まれてくるのは50万人ずつで、半減しています。今後、第2次ベビーブームの世代の人たちは出産できない年齢に、第1次ベビーブームの世代の人たちは介護を受ける年齢に突入していきますので、労働人口の減少はさらに加速することになります。その深刻さに気付かざるを得ない危機的な状況だと認識しています。

編集部 働く側の意識も変わってきているのでしょうか?

青野氏 働き方の多様化が進んでいない企業では、古い考え方のマネジャーがまだ多く残っていますが、そういう会社で働いている人から「(育児や介護をしようと思っても)なかなか上司の理解を得られない」という相談を受けることがあります。その際には、「ダメだと思ったら会社を辞めて新天地を目指すのも一つのスキルですよ」とアドバイスするようにしています。

 厳しい環境の中で青い顔をしながら育児や介護をするのではなく、世の中には働きやすさを追求する会社も出てきていますので、一歩踏み出してそうした会社に転職する勇気を持つことも必要だと考えています。私たちの世代は、場合によっては70歳過ぎても働かなくてはなりませんので、それまで仕事を渡り歩いていけるスキル、というよりは「覚悟」を持つ必要があると思います。

グループウェアが戦略ツールとしての位置付けに

編集部 ビジネス現場で利用されるコミュニケーションツールは今後どのように進化するとお考えですか?

青野氏 仕事に使用するコミュニケーションツールの新しい機能については、AIとか、ビッグデータとかいろいろ言われますが、その概念自体は昔からあったものにすぎません。ここから新しいテクノロジーが続々登場するというイメージはなく、既に出そろってきているという認識です。働き方が多様化する時代に突入したことで、グループウェアを含むコミュニケーションツールはいよいよ実用フェーズに入ったと思います。

編集部 働き方を変えるためにサイボウズではどのような取り組みを進めていくのでしょうか?

青野氏 仕事の多様化に向けた取り組みを実践しながら、いかに優れたツールを作り続けることができるか、それがサイボウズの一つのチャレンジだと考えています。仕事の多様化を支援できるようにこだわりを持って優れたツールを提供できると確信していますし、それをグローバルに広げていきたいと思います。サイボウズは今後、日本国内だけでなく世界にチャレンジしていくことになるでしょう。

編集部 これからがまさに正念場ということですね。

青野氏 はい。ようやく面白い状況になってきたと思っています。私のイメージでは設立以来18年間の下積みにようやく終止符を打つことができるという感覚です。ここまでたどり着くのに本当に長い年月がかかりました。

 もともとグループウェアはもっと高く評価され、投資されるべきものだと思っていますが、残念ながらこれまでは、電子メールと同等のレベルでしか評価されてきませんでした。しかし、これからは、ワークスタイルの多様化を支援し、仕事やナレッジを共有していくための戦略ツールとして活用されるようになると期待しています。

編集部 クラウドなどの技術を活用することにより、より戦略的な展開が可能になりますね。

青野氏 従来のような、会社の中で閉じたツールの活用の仕方はもうそろそろ古くなってきています。現在は、クラウドをインフラとして活用することにより、企業をまたがるプロジェクトやワークフローを短期間で支援することが可能になっています。場合によっては、クラウドソーシングのように、一時的な利用も当たり前になるでしょう。今後も、クラウドをうまく利用できれば、組織や時間の枠を越えた情報/ナレッジの共有を簡単に実現できるようになり、多様な働き方を支援する新しい戦略的なグループウェア活用が可能になるのではないでしょうか。

青野慶久(あおのよしひさ)氏

1971年生まれ。愛媛県今治市出身。

大阪大学工学部情報システム工学科卒業後、松下電工(現 パナソニック)を経て、

1997年8月愛媛県松山市でサイボウズを設立。

2005年4月代表取締役社長に就任(現任)。

社内のワークスタイル変革を推進し離職率を6分の1に低減するとともに、

3児の父として3度の育児休暇を取得。

また2011年から事業のクラウド化を進め、有料契約社は11,000社を超える。

総務省ワークスタイル変革プロジェクトの外部アドバイザーや

CSAJ(一般社団法人コンピュータソフトウェア協会)の副会長を務める。

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