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» 2016年02月22日 05時00分 公開

特集:Biz.REVO〜開発現場よ、ビジネス視点を取り戻せ〜(7):SIerが社内リーンスタートアップで得られるものとは何なのか (2/2)

[唐沢正和,ヒューマン・データ・ラボラトリ]
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ユーザーのニーズを調査

 では、実際にどのようにリーンスタートアップでの開発を進めていったのだろうか。「最終選考で選ばれた時点のアイデアは、それほど具体的なものではなく、“訪日外国人の観光旅行に役立つサービスを提供する”といった漠然とした内容だった。このままでは現実性がないため、事業化に向けて訪日外国人に関する調査を行った結果、タイからの訪日旅行者が急激に伸びてきており、対日感情もとても良いことが分かった。この結果を踏まえて、ターゲットを訪日タイ人旅行者に絞ってサービス開発を進めることになる」と、細田氏は開発がスタートした当時を振り返る。

 訪日タイ人旅行者向けのサービスを開発することが決まったものの、本当にそのサービスへのニーズがあるかどうかは分からない。「コストと工数を掛けてサービスを開発・提供したのに、ユーザーが増えないままサービス終了という、よくある状況になってしまったらどうしようと考えた」と、事業化に向けては不安も大きかったという。

 「そうした事態を阻止するために何ができるかを思案し、事前にユーザー候補や使ってくれそうな人のコミュニティーを作って、そのニーズに合ったサービスを提供することができたら、成功の確率が高まるのではないかという仮説にたどり着いた」と、細田氏は、ユーザーの目線に立ったサービス開発を重視したと力を込める。

 具体的には、アプリ開発を始める前に、実際にタイ人留学生にアプローチを行い、ユーザー候補を集めることからスタート。月1回のペースでタイ人留学生向けのイベントを開催し、“訪日タイ人旅行者に紹介したい飲食店”についてアンケート調査を行い、合計500店舗以上の情報を集めた。

タイ人留学生向けのイベントの様子(撮影:オープンストリーム)

 また、イベントに参加したタイ人留学生にFacebookに登録してもらい、ユーザー候補のコミュニティーを形成。このコミュニティーを通じて、「Edamame」へのニーズや課題を探るとともに、アプリの操作性確認やタイ語の翻訳などアプリ開発のサポートも依頼している。

 「例えば、アプリの飲食店紹介ページに、タイ語と英語とともに日本語の店名も表示されるが、これはタイ人留学生からの声に対応したもの。『日本語は読めないが、現地に行ったときにお店を探す目印として日本語表記があると便利』という意見があり、日本語も画面に表示させるようにした」(細田氏)と、タイ人留学生のリアルな声を取り入れながら、アプリの完成度を高めていったという。

採用技術、ツール、サービス

 一方で、社内プロジェクトのリーンスタートアップであることから、クラウドサービスをフル活用し、開発に掛かる工数とコストを最小限に抑える工夫をしたことも見逃せない。iOS向けアプリ開発に当たっては、デモアプリ配信ツールとして「TestFlight」、iOSライブラリ管理ツールとして「CocoaPods」を使用。バックエンドシステムはAWS上に構築し、データベースにはNoSQLの「MongoDB」を採用することで、店舗数が急増した場合にもスケーラブルに対応できるようにした。

 また、タイではFacebookの利用率が非常に高いことから、ユーザーアカウント管理にはFacebookの認証連携機能を採用。「通常、ユーザー管理やログイン認証の仕組みを開発するためには多大なコストと工数が掛かるが、Facebook認証を利用することでこの問題を解消し、短期間かつ低コストでのサービス提供を実現した」(寺田氏)という。

 プロジェクト管理ツールには「Backlog」を利用。さらに、チーム開発を円滑に進めるためにチームコミュニケーションツール「Slack」を活用し、社内にいなくても社外の現場や自宅からでも情報共有できる体制を整備するとともに、ソースコード管理ツール「Subversion」を利用したトピックブランチ管理によって、レビューされていないコードが正式版にリリースされないようルール化している。

 この他、「Edamame」の画面デザインについては、クラウドソーシングプラットフォームを通じてコンペを行い、最も優れた作品のデザイナーに開発を依頼。従来のようにデザイン会社を使った場合、高額な費用が必要となるが、この部分でも大幅なコスト削減を図っている。

今後の展開

 こうして、タイ人留学生のコミュニティーと共に、リーンスタートアップで作り上げた「Edamame」は、2月2日から正式にサービス提供を開始。2月4日には、タイ人留学生と一緒に「Edamame」を使っておいしいお店を探す体験型イベントも開催している。

 今後の展開について細田氏は、「訪日タイ旅行者向けに、『Edamame』を使用してもらいながら楽しめるイベントを定期的に開催していく予定。このイベントをきっかけに、ファンや新規ユーザーを増やすとともに、実際にアプリの使い勝手をフィードバックしてもらい、さらなる機能改善につなげていく。また、『Edamame』は、ユーザーの細かなUI操作を全て個人別にログ収集しているので、将来的には、時系列モデルによる機械学習を使って、個人別のレコメンドなどに活用していくことも検討している」と話す。

新規サービス開発の経験で得られたものとは

 そして、「今回新規サービス開発を行った経験は、今後の新たなSI事業に確実に生きてくる」と、細田氏は言い切る。「私自身、新規サービス開発を経験したことで、単に仕事を請け負うのではなく、自分で考え、自分で決断し、自ら主張して周りを巻き込んでいくような仕事のスタイルに一変した。また、答えのない仕事にぶつかったとき、お客さまが普段どんな思いで仕事をしているのかに気付くことができた。もし、この経験が社内に広がっていけば、お客さまを支えるという当社の理念を超えて、新たな価値を提供できるSIerへと進化できると考えている」。

 寺田氏も、「新規サービス開発を通じて、お客さまの気持ちがよく分かるようになるはず。当社の顧客は事業部門が多いが、ビジネス立案・展開上、どういう課題が潜在しているのか、その解決策は何かなど、単なるIT技術面にとどまらず、経験を踏まえた一段高い次元で議論・提案ができるようになると期待している。今後も毎年新規サービス開発のプロジェクトを実施し、当社の企業文化として根付かせていきたい」と、新規サービス開発を継続することで次世代のSIerへとレベルアップしていく考えを示した。

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市場環境変化が速い近年、ニーズの変化に迅速・柔軟に応えることが求められている。特に、ほとんどのビジネスをITが支えている今、変化に応じていかに早くシステムを業務に最適化させるかが、大きな鍵を握っている。では自社の業務プロセスに最適なシステムを迅速に作るためにはどうすれば良いのか?――ユーザー企業やSIerの肉声から、変化に応じて「ITをサービスとして提供できる」「経営に寄与する」開発スタイルを探る。



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