五輪エンブレム盗用疑惑は、なぜ防げなかったのか――デザインワークプロセスの新しい形とは?Go AbekawaのGo Global!〜Patrick Llewellyn編(3/3 ページ)

» 2016年02月29日 05時00分 公開
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日本の「カイゼン」をお手本に

阿部川 パトリックさんはどのような学生時代を過ごしたのですか?

ルウェリン氏 遊びほうけていました(笑)。いやいや、しっかり勉強もしました。ビジネスを専攻していたので、経済学やマーケティングなどを勉強しました。

 それ以前にも、多くの仕事を経験しました。11歳のときに健康食品店で働いたのが人生初の仕事でした。今では合法かどうか分かりませんが、商品の袋詰めや床のモップ掛けなど、小売業で必要なさまざまなことを学びました。

 遊園地でのアイスクリーム売りやスポーツイベントの手伝い、マーケットリサーチや、農園や農場での仕事もしました。それらの全てが、仕事をすることの意味や、倫理観といったものを教えてくれました。

 大学卒業後、投資信託銀行に入社して10年間働きました。投資先となるテクノロジ関連企業とビジネスプランを練ったり、戦略を一緒に構築したり、M&Aを計画したりしました。そこで(99 designsの創設者の)マークに出会い、意気投合して互いに多くを学び、尊敬し合うようになりました。

 99designsは、非常に少人数でビジネスをスタートし、より適切なやり方を模索して、順次ビジネスモデルを変えてきました。

 まず、フォーラム参加者に課金してサービスを提供し、顧客からフィードバックをもらい、さらに課金方法や値段を変えて、またフィードバックをもらう、といったようにやってきました。

 どうやったらよい良い方法で、コミュニティーと個人が一緒に仕事ができるか、どうすればより少ない課金で多くの成果が出せるのか、コピーライトはどうするのか、統一したフォームがあればよりうまくできるのではないか、技術的に必要な変更は何か――あらゆることを考え、サービスをより良くするために常に改良を続けてきました。

 「これだ!」という瞬間があったというよりは、これまで他の人が見落としていた事柄に着目し、絶え間なく状況を改善してきたからこそ、ここに至ることができたのだと思います。

阿部川 意識していることはありますか?

ルウェリン氏 「一生懸命働けば、必ず良いことがある」ということでしょうか。あるいは「常に手本となるような人であれ」でしょうか。私はいつも会社の誰よりも一生懸命働こうと心掛けています。

 自分を改善し続けることです。実行して、フィードバックから学び、それを次に生かして、再度実行する。この繰り返しを反映させていくことです。いわゆる日本の「カイゼン」です。

 人というのは面白いもので、「失敗するのではないか」という恐れや、「もっと成功したい」といった身の丈以上の要望が、時には大きな仕事の原動力になったりもします。しかし突き詰めれば、「楽しくなければ仕事はできない」が全てだと思います。

ルウェリン氏から読者へのメッセージ「エンジニアにとって、今こそチャンスです」

Go’s thinking aloud インタビューを終えて

 投資銀行で10年間、お金のすごさや怖さを見続けた後にベンチャービジネスに身を転じたルウェリン氏は、とにかく一生懸命働き、気が付いたら世界一のデザインマーケットプレースを運営していた。これは一見、理想的なキャリアのように思える。

 だが、挫折を知らない人生かと思いきや、リーマンショックでは大きな打撃を受けたそうだ。しかし、それさえも人生と仕事について考え直す機会と捉え、腐ることなく、楽しみながら仕事に向き合い続けた。

 チャンスはそれを生かせる者のところにしか来ない。億単位の投資をVCに決断させるためのプレゼンテーションを行う機会そのものは幸運だが、それを実現まで持っていくのは、運だけでできることではない。

 日々、弛むことなく行動することが、そのまま変革に直結する。先進的なアイデアや膨大なトランザクションを支えるテクノロジは、思いっきり地味な努力に裏打ちされていた。

 卓越したリーダーは、例外なく謙虚だとあらためて感じた。

阿部川久広(Hisahiro Go Abekawa)
アイティメディア グローバルビジネス担当シニアヴァイスプレジデント兼エグゼクティブプロデューサー、キャスター・リポーター
コンサルタントを経て、アップル、ディズニーなどでマーケティングの要職を歴任。大学在学時より通訳、翻訳なども行い、CNNニュースキャスターを2年間務めた。現在は英語トレーナー、コミュニケーションに関する執筆、講座、講演も行っている。

編集部より

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